ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.98 )
- 日時: 2022/04/27 08:08
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: emG/erS8)
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「学園長。ところで、どうしてこの人たちがここに?」
ノルダルート王太子が言った。
声を大にして、こっちの台詞だ、と言いたい。もちろん飲み込むけれど。
「ん? 君の要望だろう。花園君たちについて知りたいというのは」
学園長の言葉に、おれたちの顔に緊張が走り、ノルダルート王太子が慌てた。
「が、学園長!」
その理由も、なんとなくわかる。おれたちに直接聞かないということは、後ろめたいという気はしていたのだろう。
「事情が事情だからね。私もどこまで話して良いのかわからんし。下手に話してあとで花園君に怒られるのは嫌なんだ」
「怒られる?」
ルジアーダ嬢が、呟いた。
「私と花園君は、長い付き合いでね。生徒と教師という立場ではあるが、そこそこくだけた関係なんだ」
肩をすくめるような口調で、学園長が言った。
日向は、なにも言わない。
この時点で、既に怒られるのは確定しているけどな。
日向が発する、おれたちにしかわからない、そう『コントロールされた』負の気配に、おれは苦笑を押さえるのに苦労した。
そのことには、学園長も当然、わかっているのだろう。日向に視線を向けて、目配せをした。
挑発している。
何がしたいんだ、この人は。
しかし、日向からはなんの反応もない。どうやら、遊ぶ気は失せたようだ。いまはただただ、好機を待つ狩人のように、じっと、ノルダルート王太子を見つめている。
その目線を感じたのか、ノルダルート王太子は、日向を見て、気まずそうに笑った。
「もちろん、ただでとは言わない。まずは、自己紹介するよ。
顔を上げてくれたまえ」
全身をこちらに向け、一礼する。
「私の名は、エールリヒ・ノルダン・シュヴェールト。最北の国[ノルダルート]の、次期国王だ。
入学理由は、【部分喪失】。一般的な言い方をすると、極端に、物忘れが激しいんだ」
そういうことか。
おれはやっと理解した。
それなら、たしかに、『欠陥品』だ。
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