ダーク・ファンタジー小説
- Re: 何故、弟は死んだのか。 ( No.32 )
- 日時: 2012/08/20 19:55
- 名前: バチカ (ID: LuHX0g2z)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
きー…っときしむ音を立てて、扉は開いた。使われてずいぶん経っているのか、扉自体も、扉を開いてみたこの部屋のなかも、なんだかぼろくさいし、埃臭いにおいがする。
(くっさ…なにここ…)
臭いと言ってもこれくらいは耐えられるであろうという程度の、臼井埃臭さなのだが、元々鼻が敏感な美奈子には耐えられないらしく、顔をゆがめ鼻を抑えた。
「…おい。」
「え?」
突然聞こえた誰かの声。少し怒気を含んで、この中から聞こえる。
(あれ、そう言えば私、この部屋から声がするからこっちにきたんだよね…?)
美奈子は思いだした。いや、このキツイ臭いに惑わされていたせいで、思考が少し停止していたのかもしれない。
「踏んでるんですけど。」
さっき、ちゃんとわかったんだ。この声が誰のものであるか。それはずっと美奈子が会いたいと思っていた人物であることには間違いなく。
少し怒ったような顔をして、その人は美奈子のすぐ目の前に立っている。この不機嫌そうな顔も、変声期が来ていないこの子供っぽい高い声も、忘れる筈がない。
「誠司くん…。」
「は?」
思わず美奈子は抱きついた。
「んなっ」なんて、顔を少し赤らめて驚いたような表情をする少年。美奈子の行動の意味を計りかね、口をパクパクとさせる。そんな少年の事も気に留めず、美奈子はひたすらに強く抱きしめる。少年が抵抗しても、抱きしめることを止めず、涙さえ浮かべるのだ。——もう二度と逢えないかもしれない弟と再び出会えた。感激して泣いた。
「は、離せよ!」
抵抗の声すらも美奈子は聞き入れず、少年を抱えたまま床に膝をついた。
「いだっ」
少年は声をあげ、美奈子に引きずられるように同じく膝をつく。
「……。」
もう、どうしたらいいのかわからない。何を言ってもこの女は離してくれないし、しかもどうやらこの人の言動や表情からすると、どうやら大事があったらしく。ただ、黙って瞳を泳がせるばかりだった。
思わず、泣きだした美奈子の声が実験室に響く。
「…もう、いなくならないでよ。」