ダーク・ファンタジー小説
- Re: ヴァンパイアハンターに愛しさを。 ( No.15 )
- 日時: 2021/04/02 10:55
- 名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)
「結構貴方って泣き虫で可愛らしいのね」
頭上から透き通った声が降ってきてイザックは一瞬石と化してしまい、凍り固まった喉を必死に動かして「れ、てぃ……し、あ?」と掠れがさがさとした声音で名前を呼ぶ。
「ええ、そう。レティシア、そんな名前の頼りない働き蜂も居たわね、わたしの中に」
「なん、れ」
顔を上げた瞬間、イザックは眼を見開いてしまう。あの紫色の宝石のような美しい銀や金やらが入り混じった髪が耳の下で綺麗に結い上げられていたのだ。だらんと清潔感の欠片もなく下ろされていた髪、みすぼらしくしわしわの服が可愛らしい藍色のドレスに変わって。まるで駒鳥のような愛くるしさを感じさせていた。
「こっそり手紙を置いて出て来たの。スパイみたいな気分だったわ、下の階に居るあの人たちに気付かれないように窓から降りて高い塀をよじ登るの、凄く、大変だった」
何だか楽しそうに脱走を語り始めるレティシアにイザックは虚を突かれてしまい、ぽかんと呆けた表情になってしまう。こんな子供を見たことが無くて、凝視してしまう。
真っ暗になった空を見上げふふっと鼻を鳴らしていたレティシアの眼は自分の方に向いており、その美しい惹き込むような瞳に捉えられ、イザックは何だか変な気分になってしまう。
ふんわりと花のように微笑んだレティシアは地面に手をついて冷え切った手を掴んで握り締めて言う。
「その後、身寄りがないからどうしようかって思って断れちゃったけど貴方のところに行こうとした、貴方が出入りしている処で待ち伏せしてれば会えるって……そうしたら貴方がしゃがみ込んで泣いているんだもん。驚いた」
「…………すまなかった、振り払って、おまえを受け入れて仲間を作りたくなかった。甘えたくなかった、生温い仲間関係何て、協力関係何て安らぎに浸りたくなかった」
自分勝手だなと嘲笑して俯くイザックをレティシアはふるふる首を振って、「違う、そんなことない」と否定する。違くないと言えばすぐさま違うよと言い返してくるやり取りに堪らなく幸せを感じまた泣きそうになるイザックの頬に手を添えて。
「わたしとネスって、似てるね。だけど違うのはネスは優し過ぎるんだよ、だから一緒に居るとわたしも優しくなれる。笑ってられる、全然悪くない。こんなわたし見捨てていく人が多かったのに貴方だけは戻ってきてくれた」
大丈夫だよと年下に何励まされてるんだろうと思いながらもその頭を何時の日かの母親のように撫でてくれる手つきに愛しさと安心感を覚え猫のように眼を細めてしまう。
安心感など、必要ない。楽に何てなりたくない。幸せ何て必要ない。仲間何て持つ資格もない。ましてや愛何て抱いてはいけないのだ。
「 正しさ何て要るものか、我儘に生きてやろう 」そう言った俺は、自分自身を閉じ込めていた。
ヴァンパイアを殺す為に孤独であろうと。
今もなお、あいつを愛しているから涙を呑んで花を送れるように。
このナイフで、追い込んでやろうと。
そうしていた俺の隣に、同じように大切な者を喪った少女がいる。酷く図々しく子供らしくもなく世渡り上手で勇気ある大胆不敵な一見自分と正反対な少女が笑ってくれる。
なら、今度こそ今度こそ。隣にいる奴を護り切ろう。彼女が、復讐を遂げる日まで。彼女が死ぬ日まで。