ダーク・ファンタジー小説

Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.2 )
日時: 2021/03/20 14:56
名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ (ID: 0bK5qw/.)

 第一章【大図書館】‐第一話「朝ですよ」‐

 リーンゴーン……リーンゴーン……
 教会の鐘が鳴り響く。朝の六時を知らせる鐘の音だ。
 猫の耳と尾をもつ、メイド服を着た眼鏡をかけた女性が、白軍の寮の一部屋一部屋、団員を起こしてまわっていた。次で最後の部屋だ。いや、正確に言えば、まだ我が白の魔法騎士団、通称白団の団長、エマ・アフター・ハイの自室がまだ残っているが、相部屋の中では、最後の部屋だ。
 目覚まし時計のアラーム代わりに、お玉とフライパンを持って部屋に入る。
 カンカンカンカン……!
「皆さーん、朝ですよ! 起きてくださーい!」
 お玉とフライパンを打ち付けながら、大声で言う。
 この部屋には、まだ幼い少女や、大人の女性が混在していた。
 眠そうにゆっくりと体を起こすものや、まだ眠っているものが多いが、一人だけ、ベッドから飛び起きる、犬耳と尾をもった茶髪の少女がいた。少女は猫耳の女性に駆け寄る。なんなら、押し倒さんばかりの勢いだ。
「マイさん! 今日の朝ごはんはなんですか⁉」
「メイヴェルさん落ち着いて……。今日の朝ごはんは、サラダとパン、それから生ハムですよ」
 崩れかけた体制を元に戻しながら、朝ごはんの献立を伝える。
 朝から元気だな……と心の中で思っていると、耳を塞ぎたくなるほどの大声が部屋に響く。
「生ハム⁉」
「うるさっ、そうですよ。ってエマ様⁉ 何故ここに⁉」
 我らが団長、エマは先ほども言ったが自室……団長室が与えられている。ここは相部屋だ。
 エマは先ほどまで眠そうにしていたにも関わらず、勢い良くベッドから飛び起きるとマイと呼ばれた女性に駆け寄った。
「そんなことは後だ! マイ、朝食に生ハムがあるって本当⁉」
 と食い気味に聞く。
「本当ですよ! ていうか、団長なら献立くらい把握しといてください!」
 そして、この部屋に居る理由を聞こうと思ったが、大体理由は検討がついている。
 エマは、たまに相部屋を訪れては、カードゲームやらまくら投げやらをして、泊まっていくことがある。それに戸惑わなくなっている団員もいる。というか毎回歓迎ムードだ。
「まったく……自分は団長だということを自覚してくださいよ」
「してますー! 団長として、団のみんなとの仲を深めてるの!」
 と小言に口をとがらせるエマ。
 いや、エマ様はもうすでにとっっっっっっても仲いいじゃないですか。これ以上どう深めるというんですか。地球貫通しちゃいますよ。と言いたくなったが、それをそっと心の奥にしまう。
「ふんふんふふーん」
 鼻歌を歌いながらマイの横を通り抜け、部屋を出るエマ。
「え、ちょっとエマ様、お着替えは⁉ ってしてる!」
 自身の大好物をいち早く食べるため、脅威のスピードで着換えを終わらせたエマに、マイは呆れを通り越して感嘆の声を漏らした。
 大きなため息をついた後、再度部屋の中に体を向ける。そして、未だスヤスヤと寝息をたて、気持ち良さそうに寝ている白髪の少女に目を向けた。
「……今日も起こすの大変そうですね」
 独り言を呟いて、少女が寝ているベッドに歩み寄る。
「レイヴィーさーん。起きてください、朝ですよ!」
 と小さく体を揺らしながら声をかける。しかし、少女――レイヴィーは、顔を歪めることもなく寝ている。レイヴィーは、白団一といっていいほど寝起きが悪い。毎日、起こすのに苦労する。
「駄目ですね、こりゃ。誰か手伝ってください」
「あいよ……ふわぁ」
 羽が生えている朱色の髪の高身長な女性が、あくびをしながら、よたよたとした歩きでレイヴィーが寝ているベッドに向かう。
「あだっ」
 背中から生えている大きな羽が、マイに当たる。
「あー、ごめん。今しまう」
 シュルルルッと音を立てて羽が背中に吸収される。
 パジャマの背中に、羽が生えていたであろう場所にぽっかりと空いた大きな穴を見て、マイは絶句する。そして、声を張り上げた。
「またですかーーーーー⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉」
「ん、敵襲?」
 急な大声に、流石のレイヴィーも目を開けた。そして、少し様子を見ると、またベッドにもぐりこんだ。
 レイヴィーが一瞬でも目を開けたことに気付かず、マイはパジャマに空いた穴を指さしながら、朱髪の女性を大声で𠮟りつけていた。
「またあなたはこんなに大きな穴空けてっ!」
「悪かった、悪かったって」
「反省が見えません!!!!」
 そんな二人のやりとりをベッドの上から見つめている紫色の髪の女性がいた。目の下には、酷いくまがある。
 視線を感じ、マイはそちらへ目を向ける。そして、目の下のくまを見ると、その女性に駆け寄った。
「また夜更かしして研究したんですか⁉」
 怒ったような口調で聞く。しかし、女性は力なく微笑む。
「うん、もうすぐ新しいのできるよ」
「はぁぁぁぁ……いいですか。あなた自身が倒れたらその研究だって元も子もなくなるんですよ」
 二人まとめて説教してやろうか。と考えていると、犬耳の少女――メイヴェルが話しかけた。
「あの、マイさん、そろそろレイヴィーちゃん起こした方が……」
「あっ、そうですね、すいません」
 そう言って再度レイヴィーを起こしにかかる。
 マイは大声でレイヴィーに呼びかけ、メイヴェルは尻尾でレイヴィーの鼻をくすぐった。二人で協力してやっと、レイヴィーは薄く目を開けた。
「……なんですか?」
「なんですかじゃありません。もう起床時間過ぎてますよ」
 と時計を指さすマイ。レイヴィーは指さされた先を見て、ゆっくり布団から出ると、朝の支度を始めた。
「はぁ……干してた洗濯物回収しにいきますか」
 そう呟いて、マイは部屋を出た。

 ‐第一話「朝ですよ」終‐