ダーク・ファンタジー小説
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.2 )
- 日時: 2021/03/20 14:56
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ (ID: 0bK5qw/.)
第一章【大図書館】‐第一話「朝ですよ」‐
リーンゴーン……リーンゴーン……
教会の鐘が鳴り響く。朝の六時を知らせる鐘の音だ。
猫の耳と尾をもつ、メイド服を着た眼鏡をかけた女性が、白軍の寮の一部屋一部屋、団員を起こしてまわっていた。次で最後の部屋だ。いや、正確に言えば、まだ我が白の魔法騎士団、通称白団の団長、エマ・アフター・ハイの自室がまだ残っているが、相部屋の中では、最後の部屋だ。
目覚まし時計のアラーム代わりに、お玉とフライパンを持って部屋に入る。
カンカンカンカン……!
「皆さーん、朝ですよ! 起きてくださーい!」
お玉とフライパンを打ち付けながら、大声で言う。
この部屋には、まだ幼い少女や、大人の女性が混在していた。
眠そうにゆっくりと体を起こすものや、まだ眠っているものが多いが、一人だけ、ベッドから飛び起きる、犬耳と尾をもった茶髪の少女がいた。少女は猫耳の女性に駆け寄る。なんなら、押し倒さんばかりの勢いだ。
「マイさん! 今日の朝ごはんはなんですか⁉」
「メイヴェルさん落ち着いて……。今日の朝ごはんは、サラダとパン、それから生ハムですよ」
崩れかけた体制を元に戻しながら、朝ごはんの献立を伝える。
朝から元気だな……と心の中で思っていると、耳を塞ぎたくなるほどの大声が部屋に響く。
「生ハム⁉」
「うるさっ、そうですよ。ってエマ様⁉ 何故ここに⁉」
我らが団長、エマは先ほども言ったが自室……団長室が与えられている。ここは相部屋だ。
エマは先ほどまで眠そうにしていたにも関わらず、勢い良くベッドから飛び起きるとマイと呼ばれた女性に駆け寄った。
「そんなことは後だ! マイ、朝食に生ハムがあるって本当⁉」
と食い気味に聞く。
「本当ですよ! ていうか、団長なら献立くらい把握しといてください!」
そして、この部屋に居る理由を聞こうと思ったが、大体理由は検討がついている。
エマは、たまに相部屋を訪れては、カードゲームやらまくら投げやらをして、泊まっていくことがある。それに戸惑わなくなっている団員もいる。というか毎回歓迎ムードだ。
「まったく……自分は団長だということを自覚してくださいよ」
「してますー! 団長として、団のみんなとの仲を深めてるの!」
と小言に口をとがらせるエマ。
いや、エマ様はもうすでにとっっっっっっても仲いいじゃないですか。これ以上どう深めるというんですか。地球貫通しちゃいますよ。と言いたくなったが、それをそっと心の奥にしまう。
「ふんふんふふーん」
鼻歌を歌いながらマイの横を通り抜け、部屋を出るエマ。
「え、ちょっとエマ様、お着替えは⁉ ってしてる!」
自身の大好物をいち早く食べるため、脅威のスピードで着換えを終わらせたエマに、マイは呆れを通り越して感嘆の声を漏らした。
大きなため息をついた後、再度部屋の中に体を向ける。そして、未だスヤスヤと寝息をたて、気持ち良さそうに寝ている白髪の少女に目を向けた。
「……今日も起こすの大変そうですね」
独り言を呟いて、少女が寝ているベッドに歩み寄る。
「レイヴィーさーん。起きてください、朝ですよ!」
と小さく体を揺らしながら声をかける。しかし、少女――レイヴィーは、顔を歪めることもなく寝ている。レイヴィーは、白団一といっていいほど寝起きが悪い。毎日、起こすのに苦労する。
「駄目ですね、こりゃ。誰か手伝ってください」
「あいよ……ふわぁ」
羽が生えている朱色の髪の高身長な女性が、あくびをしながら、よたよたとした歩きでレイヴィーが寝ているベッドに向かう。
「あだっ」
背中から生えている大きな羽が、マイに当たる。
「あー、ごめん。今しまう」
シュルルルッと音を立てて羽が背中に吸収される。
パジャマの背中に、羽が生えていたであろう場所にぽっかりと空いた大きな穴を見て、マイは絶句する。そして、声を張り上げた。
「またですかーーーーー⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉」
「ん、敵襲?」
急な大声に、流石のレイヴィーも目を開けた。そして、少し様子を見ると、またベッドにもぐりこんだ。
レイヴィーが一瞬でも目を開けたことに気付かず、マイはパジャマに空いた穴を指さしながら、朱髪の女性を大声で𠮟りつけていた。
「またあなたはこんなに大きな穴空けてっ!」
「悪かった、悪かったって」
「反省が見えません!!!!」
そんな二人のやりとりをベッドの上から見つめている紫色の髪の女性がいた。目の下には、酷いくまがある。
視線を感じ、マイはそちらへ目を向ける。そして、目の下のくまを見ると、その女性に駆け寄った。
「また夜更かしして研究したんですか⁉」
怒ったような口調で聞く。しかし、女性は力なく微笑む。
「うん、もうすぐ新しいのできるよ」
「はぁぁぁぁ……いいですか。あなた自身が倒れたらその研究だって元も子もなくなるんですよ」
二人まとめて説教してやろうか。と考えていると、犬耳の少女――メイヴェルが話しかけた。
「あの、マイさん、そろそろレイヴィーちゃん起こした方が……」
「あっ、そうですね、すいません」
そう言って再度レイヴィーを起こしにかかる。
マイは大声でレイヴィーに呼びかけ、メイヴェルは尻尾でレイヴィーの鼻をくすぐった。二人で協力してやっと、レイヴィーは薄く目を開けた。
「……なんですか?」
「なんですかじゃありません。もう起床時間過ぎてますよ」
と時計を指さすマイ。レイヴィーは指さされた先を見て、ゆっくり布団から出ると、朝の支度を始めた。
「はぁ……干してた洗濯物回収しにいきますか」
そう呟いて、マイは部屋を出た。
‐第一話「朝ですよ」終‐
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.3 )
- 日時: 2021/03/20 15:54
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ (ID: 0bK5qw/.)
-第二話「変わらない光景」-
朱髪の女性――ライトという女性は、マイが退出した後、自分が穴を空けてしまったパジャマを見つめていた。
毎度直すのをマイに丸投げしているのだ。それは怒られる。
いや、普通に買えばいい話なのだが、白団の経済管理をしている、センドという少年が実家が貧乏なためかかなりの節約家なので「こういうとこに資金を使うな! 直せ!」と言われている。
そうすると、ライト自身裁縫が苦手なので、マイに丸投げするしかない。
「……今回は下手なリにも自分でやってみるかぁ」
しかし、まだ問題はある。裁縫セットがない。「それこそ買えよ」と思うかもしれないが、これで買ったらセンドの雷が落ちる。とても怖い。メイヴェルに借りよう。
「メイヴェルー」
「なんですか?」
耳をぴょこっと上にあげ、振り返るメイヴェルの愛らしい仕草にライトは微笑み、言いずらそうに口を開く。
「そのー、なんだ。……裁縫セット、貸してくれないか?」
苦笑交じりでそう言うライトに、メイヴェルは一瞬きょとんとし、すぐに驚いた様子で自分のベッドのすぐ横にある棚を開ける。
「なんと、いつもマイさんに任せているライトさんが! どういう風の吹き回しですか?」
そして、裁縫セットを取り出し、ライトに渡す。
「で? まだ要件があるんでしょう?」
と、笑顔で首を傾げてそう言うメイヴェルに、ライトは苦笑する。どうやら、何でもお見通しのようだ。
「えっと……裁縫教えてください」
「素直でよろしい。……訓練後、時間空けておいてくださいね?」
そう言ってニコッと笑うメイヴェルに、ライトもつられて笑う。
メイヴェルは、レイヴィーを見て、話しかける。
「レイヴィーちゃんもどう? お裁縫!」
「いえ、私は大図書館に行くので」
「えっ、また? 昨日も行ってたよね」
メイヴェルが言うように、かなり前からレイヴィーは大図書館に通いっぱなしである。毎日どころか、時間が空いたら読書か、大図書館に赴いている。
「はい、面白い本が多いので」
「今度、私達も行っていいかな?」
「えぇ。お客がたくさん来た方がバラット……大図書館の主も喜びますよ」
そう言いつつ、朝食を食べ終わったら大図書館へ行く用に、返す本を何冊か持つ。
一足先に部屋を出たライトとメイヴェル、それから紫の髪の女性――アゲリ(本名はアゲリーヴェッタだが、長いので省略している)に続く。
「アゲリ、平気? ふらふらだよ?」
と心配する様子でアゲリを見る。
「だいじょぶだいじょ……」
「って危ない!」
倒れかけたアゲリを、メイヴェルが支える。
「今日は夜更かしさせませんよっ!」
「えっ、やだ。まだ途中……」
「やだじゃありません。まったく、戦場で倒れたらどうするっての?」
「薬あるし……」
「駄目なものは駄目」
「縛り付けてでも寝させます!」
賑やかな光景。いつもと、まったく変わらない光景。絶対に、誰一人とて欠けることはない光景だと、レイヴィーは信じていた。
保証できることでは決してない。白団は、黒の魔法騎士団と戦う立場にある。いつか、誰かが欠けるかもしれない。明日には、この場に己は存在しないかもしれない。それでも、このときは、この瞬間は、あったかい気持ちでいれる。
不意に、ライトが振り返る。
「レイヴィー、聖刀はちゃんと持った?」
「はい」
返事して、自分の首にかけているひもを指で持つ。
「ん、よし」
確認すると、また前を向く。
女子寮を出ると、晴れた青空と、爽やかな景色が広がる。
「んー、今日もいい天気ですね!」
と言って背を伸ばすメイヴェル。
「そうだな」
微笑み、そう言うライト。
そして、黙ったまま皆、空を見上げた。
「……さっ、食堂行こう!」
しばらくの沈黙を、ライトが破る。
「そうだね」
頷き、歩き出すアゲリ。
食堂に入ると、数人の団員がいるのが見える。
「よっしゃ、今日も残さず食べるぞー!」
ライトが笑顔で言い、列に並ぶ。それに、三人も続いた。
-第二話「変わらない光景」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.4 )
- 日時: 2021/04/30 21:15
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ (ID: 0bK5qw/.)
-第三話「朝ごはん」-
列に並び、朝ごはんを受け取っていく。
「お、3バカ&レイヴィーやん、おはよう!」
と言って元気に手を振り、四人に朝ごはんを渡す、巫女服の女性。暗い藍の髪色で、左目には傷があった。
「おはようございます、アヴェーニャ姉さん」
「アヴェ姉、おっはよー!」
レイヴィーとアゲリがそう答える。
藍髪の女性――アヴェーニャは四人の顔を見回すと、満足したように頷いた。
「うん、今日も調子よさそうで何よりや。今日も一日、超元気に、やで」
そう言って微笑み、手を振って席を探しに行く四人を見送る。
レイヴィーを除いた三人は、もう既に座る席を決めていた。走り出しそうな勢いで、レイヴィーを半無理矢理連れて目的の席に向かった。その先には、これ以上ないくらいに美味しそうに食事をしている金髪の女性の姿があった。
「団長!」
「んっ、ふぇいえる(メイヴェル)!」
そう言うと一度黙り、口の中にあったものを飲み込むと、再び喋り始めた。
「やっほ、一緒に食べようか」
そう言って、ここに座ってとでも言うように、隣の椅子をぽんぽんとたたく。
レイヴィーは早く食べ終わって図書館に行きたいのか、急ぎ気味にエマの隣に座った。
「あぁあ~! レイヴィーずるい! エマの隣は私が座る!」
「いや子供か」
レイヴィーがエマの隣に座ったのを見て頬を膨らませてそう言ったアゲリに、ライトがツッコミを入れる。
別にエマの隣に座りたかった訳でもないので、朝ごはんを持ち上げて、エマの向かいに座った。
アゲリは満足そうな笑顔で、レイヴィーが座っていた席に座り、レイヴィーを見る。
「ありがとう!」
「いえ、別に、団長の隣に座りたかった訳でもないので」
「それはそれで私が傷つくなぁ、珍しくレイヴィーが可愛いとこ見せてくれたと思ったのに」
「戦場で爆薬積んでる馬車に火をつけて敵側に吹っ飛ばした人に可愛げを求めないでください」
そんな会話をしている間に、ライトがメイヴェルにジャンケンで負け、メイヴェルはエマの隣に、ライトはレイヴィーの隣に座った。
「くっ、また負けた……」
「ふふ、ジャンケンで私に勝てるとは思わない方がいいですよ」
悔しがるライトに、ドヤ顔でそう言うメイヴェル。
小さい頃からジャンケンで負けなしだった。メイヴェルに勝てるのは、故郷にいるメイヴェルの姉くらいだろう。
「それにしても美味しいなぁ」
「良かったですね、生ハムあって」
「うん!」
笑顔でそう言い、また一口食べる。
ライトはそんなエマを見て、微笑んだ。
「さっ、アタシ達も食べよ」
「そうですね! いただきます」
「いただきまーす!」
「いただきます!」
「ごちそうさまでした」
三人揃って手を合わせ、食べ始めると同時に、レイヴィーはもう既に食べ終わり、片付けに行く。
「レイヴィー食べるの早っ、エマよりも先に食べ終わってる……」
「私はよく味わって食べたいからね、ちょこっとずつ食べれば美味しいのを何回も味わえる」
と微笑み、自慢げに言うエマ。
「そうですね、私達は特に用事はないですし、このままゆっくり食べましょう」
「そうだな」
そう言っては、談笑を楽しんだ。
-第三話「朝ごはん」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.5 )
- 日時: 2021/04/11 16:06
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第四話「大図書館」-
朝ごはんを食べ終わり、片付けが終わったレイヴィーは本を持ち、白団の寮を出る。
いつも通りの賑やかで人が多い平和な街。その奥の奥へと進むと、その大きさの割にはひっそりと立っている大図書館がある。
ギィと音をたてて扉を開け、大図書館の中に入る。そのままレイヴィーは迷うことなく、大量の本が積まれたカウンターのような場所に向かった。
レイヴィーよりも背丈がある本の壁を軽くノックする。上の本が少し崩れ落ち、音が鳴る。
積まれた本が、小柄な色白肌な手でどかされる。現れたのは、白髪に近い水色髪に、紅い瞳の本を読んでいる少年――いや、小柄な男性と言った方が正しいか。
「……いらっしゃ、ってレイヴィー‼ おはよう!」
最初はかなり気だるげにしていた男性だったが、相手がレイヴィーだと分かるが否や、パッと笑顔になった。
「相変わらず私とエマさん以外の人にはその態度ですか、バラット」
「今日は何をしに来たの?」
どうやらまったく話を聞いてない様子だ。
レイヴィーはため息をつくと、先ほど積まれた本がどかされたことにより空いた隙間に持っていた本を置く。
「これを返すのと、新しく本を借りに来たんです」
「いつもこんなとこに来て、レイヴィーつまらなくない?」
頬杖をついて微笑みながら問いかける。
「いえ、別に。それに、いつも来たところで迷惑じゃないでしょう? 貴方いつも暇ですし」
「一言多いかなー」
ニコニコしながらレイヴィーの話を聞くバラット。そして、自分が読んでいた本を閉じ、レイヴィーに差し出す。
「これ、オススメだよ。大昔の預言者の話。結構田舎んとこから取り寄せたんだ」
「へぇ。それでは、それとあと何冊か借りて帰ります」
そう言い差し出された本を受け取り、天井まで伸びる本棚が並ぶ方へと進んだ。
☽
本棚の横をゆっくり歩き、興味を引いた本を二冊ほど引き抜く。既にレイヴィーの腕には三冊ほど本が抱かれていた。
そして次に、魔法を使って上の段をあさる。一冊の本に手をかけ引き抜くと、思った以上に本が重く、下に落としてしまった。
魔法を解除し下に落ち、床に触れる直前にふわりと浮き、足をつける。
バラットが読み漁りそのまま放置した本がごった返しており、先ほどの本を見つけるのは苦労しそうだ。
一冊一冊持ち上げ、先ほどの本の重さに該当する物を探す。しかし、何度も何度もやっても、そんな本は見当たらない。どうしたものかと考えていると、これだけ苦労する原因になる張本人が現れた。
「やぁやぁお姫様、何か探し物?」
「えぇ、貴方のせいでかなり大変になっていますが」
「え? 酷くね?」
せっかくだしこいつにも協力させようと思い、さっき起こったことをバラットに説明する。
「あぁ、それ大図書館のお化けの仕業だねー」
「え?」
-第四話「大図書館」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.6 )
- 日時: 2021/04/30 21:33
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第五話「大図書館のお化け」-
「あぁ、それ大図書館のお化けの仕業だねー」
「え?」
お化け、という単語に反応したレイヴィー。その次には、体が異様な速さで震え始めた。
その犯人のことを詳しく知っており、それがお化けでもないことは知っているバラット。レイヴィーの大のホラー嫌いを知っているため噓をついたが、中々面白い反応が見れて内心ニヤニヤしながらレイヴィーを見ていると、次の瞬間、頬にかなり鋭い痛みが走った。
「だぁれがお化けじゃこのバカットォォ‼‼‼‼‼」
「ぐえっ⁉」
頬に思いっきり飛び蹴りをくらい、壁まで吹っ飛び、背中を打つ。
「げっほ、いった⁉ ハァ⁉ ふざけんなバレット!」
赤くなった頬を手でおさえ、飛び蹴りしてきた相手を見る。
「人をお化け呼ばわりした自分を恨みやがれ!」
ローブを着たバラットに似ている少年が、そう叫ぶ。
一方レイヴィーは急に現れた第三者をお化けと勘違いし、しゃがみ込み頭を腕で隠し、震えながらブツブツと何かを呟いていた。
「悪霊退散悪霊退散悪霊退散」
「だから誰がお化けだ! って……お前誰?」
怒った声でレイヴィーを見やり、首を傾げる少年。
かなり痛む背中と頬をさすりながら起き上がり、2人に歩み寄るバラット。
「客だよ、客。数少ない人なんだからお前失礼働くなよ」
「は? マジ? あれ噓じゃなかったんだ」
と顔をしかめる少年。バラットはレイヴィーに手を差し出す。
「すまんすまん、大丈夫だから、な?」
「……」
まだ少し警戒しながらその手を取り、立ち上がる。
「紹介するよレイヴィー、俺の妹のバレットだ」
「……え? 女?」
「誰が男だ!」
カッとなりレイヴィーに殴り掛かったバレットを、バラットが捕まえる。
「ごめんな、こいつ女のわりに血の気多くってさ」
「うるせぇ死ねやクソ兄貴」
そう言うと自分をホールドしている兄の腕に嚙みつく。
「ん゛っ……。まぁ、とりあえずこいつがさっきのレイヴィーの話の真犯人ってとこ」
「実の妹をお化けって……」
「そりゃレイヴィーの面白い反応見たいじゃん?」
「一回天国行って私のこと脅かしに来ます?」
「申し訳ございませんでした」
☽
その後説明されたことによると、バレットは普段2人の家に居るらしいのだが、暇つぶしに大図書館に来てはさっきみたいに本を魔法で重くして落としたり、面白そうなのがあれば読んで帰っていくそうだ。
ちなみにバラットが小声で、
「鬼! 悪魔! 本当にお前人類を救うための騎士団入ってんのか!」
と言っていたので軽く(結構強めに)殴っておいた。
「これとこれ、借りていきます」
「はい、500*セダットです……(涙)」
お金を置いて大図書館を去る。早く帰ってこれらを読もう。
*セダットとは
ラジャリスの世界共通のお金の単位です。この世界のお金はほぼ全て紙幣で、後は特に模様が描かれていない金貨などです。
-第五話「大図書館のお化け」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.7 )
- 日時: 2021/04/09 20:46
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-【第一章最終話】第六話「白き勇者」-
寮に帰り布団に飛び込むと、借りてきた中の、バラットがオススメだと言っていた物を読み始める。
本の内容は、どうやらどこかの預言者の日記を無理矢理小説にしたようだった。
「……白き勇者」
白と黒の戦に終わりを誘われん、か。そんなのが居たらこちとら苦労しないんだよ。
そう思いながらペラペラとめくっていく。
「……便利そうな魔法。今度マイさんに教えましょうか」
中には魔法のことが書いてあり、それが中々面白く、あっという間に読み終わってしまった。
本を閉じ、他の本を手に取ってまた読み始める。それはシリーズ物の小説で、ラジャリスの世界の伝説のお姫様の話が元になっている。ちなみに、まだ完結しておらず絶賛連載中だ。
「……スゥーッ…………今回も最高ですね」
あそこの大図書館は主の性格はともかく、こういうのが発売されたら即何冊も入荷されてしかも空いているからとてもありがたい。
次回も入荷したら教えてくれるだろうし、楽しみで仕方がない。
「ただいまー! ってレイヴィー何読んで…………え?」
「どうしたんですかライトさ……ふぁ?」
「何々何して……………………ハァァァ⁉」
3人が帰ってきて、レイヴィーの読んでいる小説に目を向け、驚いている。
まぁ仕方のないことだろう。この小説、『羽ばたき姫様』、通称*羽セスは男女関係なく大人気な小説で、手に入れるのがかなり難しい物だからだ。
「え? え? なんで持ってるのレイヴィー⁉」
「あっ分かった! 最近通い詰めの大図書館だな!」
「レイヴィーちゃんズールーいー! 羽セスある大図書館なら早く紹介して欲しかった!」
困惑した様子でレイヴィーに質問攻めする3人。
いつもは帰ってくるのはもう少し遅いので、完全に油断していた。
「……教えてあげてもいいですけど、絶対に誰にも言いませんね?」
「分かった!」
「絶対ですよ?」
と言い、大図書館の奥の方の本棚にあると伝える。
「凄く広いので、迷わないでくださいよ」
ため息交じりにそう言った。
☽
「……気付くかな」
本を読みながらそう呟く。
「白き勇者。……俺的には、レイヴィーだと思ってるんだけど」
静かにそう言い、読んでいる本のページをめくった。
*どうして羽セス?
姫、は英語でプリンセス。それのセスとタイトルの羽ばたきの羽をとっている。
-第六話「白き勇者」終-
第一章【大図書館】-終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.8 )
- 日時: 2021/04/11 16:05
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
第一章【大図書館】-番外編「羽セスが全巻ある!?」-
レイヴィーが羽セスを読んでいるとこを同室の3人に見つかって数日。
大図書館が凄い広いため、迷わないようにレイヴィーが付き添いで向かうことになった。
「ここが大図書館……」
「でっか!」
「早く中入りますよ」
そう言い、レイヴィーが扉を開ける。既にバラットには魔法で連絡しており、すぐさまニコニコ微笑んだバラットが4人の視界に飛び込んだ。
「ようこそ大図書館へ!」
「いやひっろ!」
「羽セスはこっちにありますよ」
そう言ってレイヴィーが案内する。
真っ直ぐ進んで本棚のいくつかが横を通り過ぎたのち、横に曲がる。
「ここです」
「……あれ、おかしいな。なんか全巻あるように見えるや」
「偶然ですね、私もなんですよ」
「ライトとメイヴェルもそう見えるんだ」
普通ならば発売されたらすぐさま本屋から無くなるような本だ。それが全巻あり、しかも何冊もある。きっと、初めて見る人は自分の目を疑うだろう。
「安心してください3人とも。これ全部現実です」
呆けている3人に、レイヴィーが話しかける
「え」
「うっそ……」
「まじで羽セスが全巻ある⁉」
驚いた後に、各々読みたい巻に震える手を伸ばした。
☽
「いっやーいいね、大図書館!」
日が沈みかけている空の下を歩きながら、ライトが言う。
「あれは隠したくなるねー、大人気の本が全巻揃ってるんだもん。他にも面白そうな本いっぱいあったし!」
「今度また行こ!」
だんだんと日が沈み、彼女らの影は少しづつ伸びていった。
-番外編「羽セスが全巻ある!?」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.9 )
- 日時: 2021/04/30 21:13
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
第二章【祀られる少女】-第七話「戦闘訓練」-
「んじゃ、二人一組になったら各々訓練開始ねー」
銀髪の高身長な男性がそう言う。彼は白団副団長、サーラ・シェーリス。薄い緑の瞳に、方眼鏡を付けている。
「ライト、私と組もう」
アゲリがライトに話しかけ、微笑む。
「奇遇だね、アタシもそう言おうと思ってた。んじゃ、魔法能力使用可能スペース行こっか」
「らじゃ!」
敬礼ポーズをして微笑むアゲリ。
訓練場には二つのスペースがある。魔法能力使用可能スペースとは、彼女ら一人一人が持つ‶魔法能力"や魔法が使用可能の場所だ。この世界に生存する者全てが使用可能というわけではないが、白団団員はほぼ全員が能力を持っている。
「副団長、私と組みましょう」
「あっ、レイヴィー。いいよ、どうする?」
「能力使用禁止訓練で。私の場合、能力に頼り切ってしまうところがあるし、それに、能力を使うにしても触れることが必要ですから」
「理由も用意してて立派だよ。早速やろっか」
そう言ってレイヴィーの手に触れ、次にはワープしていた。この時点で、レイヴィー、サーラペアの訓練は開始している。
まずレイヴィーはサーラから距離を取り、ワープする前にサーラから手渡されたナイフを持つ(玩具です安心してください)。
レイヴィーが斬りかかり、サーラが避けるを繰り返す。
「ってナイフだけ? 能力使用禁止とはいえ魔法は使っていいんだよ?」
「魔法使うと魔力消費がありますし、今能力使用禁止なので……!」
「なるほどね。でも、君の魔力はそんなすぐ魔力切れを起こすほど少なくないと思うけど……」
と不思議そうに呟きながら斬りかかってきたレイヴィーを受け流し、一度距離を離すと炎魔法を使いレイヴィーに向かい放つ。防御魔法を使い、それを防ぐレイヴィー。
「……そうですね、一応」
片手を出して手のひらの上に水球を作り出し、その中に微細な雷魔法を入れる。
「あー……」
恐らく彼女の中では本気ではないのだろうが、防御できなければ普通に感電する魔法を使ってくるのは少し怖い。初対面の人は「一応とは?」となるだろう。
思いきり投げられた雷入り水球を防御魔法を使って弾く。
「!」
「一瞬の油断は戦場じゃ命取りだよー?」
その声が聞こえた次の瞬間、レイヴィーの視界が暗転した。
-第七話「戦闘訓練」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.10 )
- 日時: 2021/04/30 21:07
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第八話「保健室にて」-
「……ちゃん……レイヴィーちゃん!」
ゆっくり目を開けると、心配そうにこちらを見るメイヴェルが視界に飛び込む。
メイヴェルの補助で体を起こすと、訓練場ではなく保健室におり、顔は見えないが恐らく黒笑だろうとオーラでわかるアヴェーニャと隣に居るエマに、正座して震えているサーラが見えた。
「レイヴィー! 起きたんやな。痛いとこや、変な感じするとかないか?」
後ろを振り返り、レイヴィーのそばに行くと、瞳や、顔色を確認しながら、微笑むアヴェーニャ。
「だ、大丈夫です」
震えて正座しているサーラの方が気になり、あまり話が入ってこない。チラチラとサーラを見るレイヴィーに気づいたのか、サーラに目を移すアヴェーニャ。
「サーラ?」
そう言い、ニコリと笑うエマだが、その笑顔からはかなりの恐怖を感じるだろう。
「……すいませんでした……」
「い、いえ。その、頭をあげてください」
と少し困惑しながら言うレイヴィーだが、アヴェーニャが思いきりサーラの頭を殴る。
「上司やからって遠慮せんかてえぇ。たっく、レイヴィーが無意識に受け身とってなかったら当たり所悪くて死んどったかもしれへんのやでこのダァホ!」
「死⁉」
大声でサーラを怒鳴りつけるアヴェーニャに、サラッと自分が死んでいたかもしれないことを伝えられ驚愕するレイヴィー。
心の中でひっそりと、無意識に受け身をとった自分に感謝した。
「まぁまぁ、落ち着いてアヴェーニャ。……サーラ?」
「な、なんでございましょうエマ様……」
「後で気絶するまで私と特訓しよっかぁ?」
「ヒュ……」
サーラの心にひびが入る音が聞こえたが、レイヴィーは聞こえないことにした。
後日、ボロボロの副団長が男子寮前の野原でただ呆然と空を眺めているという噂がたったとかたってないとか……。
-第八話「保健室にて」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.11 )
- 日時: 2021/05/01 18:06
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第九話「援助拒否」-
「うっ……」
左右に手を広げてふらつきながら歩くレイヴィー。
「はいあんよが上手!」
そう言いながら手をたたく、レイヴィーの少し先に立っているアゲリ。
二人共ヒール靴を履いており、アゲリは自然に立てているが、レイヴィーはかなり震えていた。レイヴィーの横には倒れてもいいようにライトが一緒に歩いていた。
「頑張れレイヴィー、アタシも六年前にアゲリにしごかれたよ」
と苦笑しながら言うライト。
「こ、この靴にも、対応しなきゃ、パー、ティー中に、敵襲、があれば、対応、しきれませんし」
「うん、辛いなら喋らなくていいから」
ふらつきながらも集中しつつアゲリのとこまで歩き続ける。
かなりふくらはぎが痛い。明日動けるだろうか。いや、明日は一歩も動かない。本を読み漁ってやる。そう思いながら歩いていた。しかし、あと数歩というとこで、エマの声でレイヴィーの集中の糸がちぎれた。
「レイヴィー、アゲリ、ライト、少し話が……ってレイヴィー⁉」
ばたりと前方方向に倒れ込んだレイヴィーに驚いているエマ。
「エマサイテー」
「え⁉」
「あとちょっとだったのに……バカエマ」
「えぇぇ⁉」
あまりにも理不尽な罵倒に涙目になっているエマに、容赦なく言葉のチクチク攻撃を仕掛けるライトとアゲリ。
「あの……大丈夫ですので……要件は?」
倒れたままでエマにそう言うレイヴィー。
「あ、うん、それなんだけどね。……ここじゃなんだから、会議室まで行こうか」
真面目な顔になったのを見て、少し三人は息をのんだ。
☽
「援助拒否?」
三人は声を揃えてそう言った。
「そ、黒団の強襲の恐れがある村に援助することを知らせたら、なんと援助拒否で帰ってきたわけ」
青い髪色の少年が、そう言い地図を広げ、村の場所を指さす。そこを見たとき、レイヴィーが少し驚いた表情をしたのを見て、サーラがレイヴィーに話しかけた。
「どした、レイヴィー」
「いや、これバラットが本を取り寄せたって言ってた村です」
「バラットが? どんな本?」
エマが身を乗り出して聞く。
「預言者の日記でした。後から聞いたらバラットが無理矢理小説にしたそうです」
「へぇ、書いてあったので目立つのは?」
青い髪の少年――サイネが首を傾げ、聞く。
「うーん……あっ、あの預言ですかね」
そう言うと白き勇者の預言の話をする。
その話を聞いたサイネは、困惑した様子で頭をかいた。
「おっとおっとぉ? ……ちょぉっとそれ、話そうと思ってた内容そっくり」
-第九話「援助拒否」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.12 )
- 日時: 2021/05/04 15:45
- 名前: 雪見餅 (ID: 0LEStScZ)
この小説にちょっとだけ関係無いお話になってしまうのですが、何故か掲示板全域に入れないのでなりきりの方多分来れないです.....はい。
雑談の方も行けないのでこうしてお伺いしました。
小説の方、面白いです!
タイトルがカッコいいので滅茶苦茶惹かれました!
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.13 )
- 日時: 2021/07/18 12:56
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第十話「勇者様がいるから」-
「どういうことです? それ」
「いや、援助拒否の連絡が来たとき、手紙も一緒についてきたんだよ」
食い気味に聞くレイヴィーに、落ち着くように言いつつ、説明を始めるサイネ。
「その中の内容に、『我々には勇者様がいる。主らの援助など必要ない』って書かれてたんだ。もしかしたら関係あるかなって」
「それ、もしかしなくても関係あるでしょ」
そう言って顔をしかめるアゲリ。
「そうなると、自ら白き勇者を名乗っている人がいる、もしくは村の人が勝手に白い容姿の人を勇者様と祀り上げてる感じかもね」
と冷静に整理するライト。
まぁ、ここまで来てしまうと少し厄介になってくる。その白き勇者が村を守る実力があればいいのだが、もし力ないただの一般人だったらと考えると、襲撃を受けた際、この村は血に染まるだろう。
「……急ぎましょう。今すぐ白団兵をこの村に送らなきゃ……」
表情は動かさないが、焦った様子でそう言うレイヴィー。
「待ってレイヴィー! ……焦るのは分かるけど、まずは作戦を」
「はい……」
エマがレイヴィーを呼び止め、五人は作戦会議を開始した。
☽
黒団の襲撃がありそうな日まで、まだ時間はある。その前にレイヴィー、メイヴェル、ライト、アゲリ。この四人と、回復役のアヴェーニャを含めた少人数部隊を送り、警護をする。ついでに、その白き勇者の正体を探る。
「これでいいね」
「あぁ、異論ないよ」
「んじゃ、人を決めよっか」
こうして、部隊の人を決めた。
「さっき言った五人に追加し、サーラを含めた男子三人の八人を送り込むよ」
「ん。じゃ、今ここにいない四人呼んできて、集合し次第出発するよ」
「了解しました」
>>12
返信遅れてすみません……。そして、コメントありがとうございます。確認遅すぎてもう戻ってきてらっしゃる……ほんとすみません……。
お褒めの言葉、とてもうれしく思います! ありがとうございます!
-第十話「勇者様がいるから」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.14 )
- 日時: 2021/05/29 12:41
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第十一話「出発」-
先ほど決めた数人を探し、ぞろぞろ引き連れて保健室へ向かった。
「なんやなんや⁉」
驚いた様子で立ち上がるアヴェーニャ。事情を説明すると、
「それはすぐ行かなあかんな。準備するから待っとき」
と言って保健室の奥に行ってしまった。
「にしてもなぁ、仕事が急すぎるぜ? サーラ」
「しょうがなかよ。もしわー達の見立てが間違いで、もっと早ぐ黒団が来たら大変なことになっちゃ」
ヴィラという活発そうな少年がサーラに文句を言い、それをサレーナという方言で喋る少年が𠮟る。サーラが苦笑して、二人を見た。
「悪いけど、俺達にとってもけっこう急なことだったんだよね」
「お待たせ、ほな行こか」
包帯やら薬やらをバッグに詰め込み、それを肩から下げて、杖を持って奥から出てきたアヴェーニャ。皆頷き、寮の正門へ向かった。
☽
正門につくと、見送りのエマがスタンバっていた。
「皆、気を付けてね」
「大丈夫。うちがついてるんやから、心配せんかてええ。あんたこそ、うちがいてへんからってはめ外すんとちゃうよ? あんたのことはマイに頼んでるさかいな」
優しく微笑んだアヴェーニャの言葉に、エマは苦笑した。
「皆さん、魔法陣の上に」
エマ達が話していた間に、レイヴィーが広めの転移型魔法陣を地面に描き、その真ん中にあの村の場所に特殊なインクをたらした地図を置き、レイヴィーもその上に立っていた。皆が魔法陣の上に立ったのを確認し、呪文を詠唱し始める。
「偉大なる魔法の女神よ。我らをこの場に導きたまえ」
長い呪文を詠唱し続けるうち、魔法陣が光り始め、だんだんとその光が強いものとなっていった。
「ほんとに気を付けてね!」
そのエマの言葉を最後に、彼らはその村に転移した。
-第十一話「出発」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.15 )
- 日時: 2021/06/17 16:55
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第十二話「牢獄」-
「なんでだよ! なんで俺ら捕まってるわけ!?」
叫びながら鉄格子を蹴り飛ばすヴィラ。
一行の手には、鍵付きの手錠がかけられていた。全員、広めの檻に閉じ込められていた。
「……こりゃぁ、まずいね。レイヴィー、どう? 解除できそう?」
「ごめんなさい。魔法返しがついていて……外すのには一日と半日かかります」
サーラからの問いに、アヴェーニャの手錠に手をかざしながら、苦い顔をしてそう答えるレイヴィー。
「ねぇレイヴィー。これさ、その、白き勇者が村人洗脳してるルート濃厚じゃない? 前に来たとき……と言っても百年は前だけど。そのときは、こんな感じじゃなかった」
というライト。ワイトの中でもかなり長寿な種族に生まれたライトは、この村に来た経験もあるため、今回一行の中に組み込まれた。
「凄くじれったいです。……黒団に寝返ってた方が楽ですよ、これ。ただ、侵入者への警戒しか感じないのがまた……」
苛立ちが混じる声でそう言いつつ、座り込むメイヴェル
なぜ、このようなことになったのか。それは、数時間前――レイヴィー達が村に転移しきったときに起きた出来事だった。
村人達が、レイヴィー達に襲い掛かったのだ。
あくまで、一行の目的は”村の防衛”。反撃するわけには行かず、流されるがままに、この牢獄に入れられてしまったのだ。――厳密に言えば、この牢獄も、手錠も、レイヴィー達にとっては簡単に壊せるものだったが、かけられている魔法返しの術がやっかいだった。檻も頑丈に作られているため、簡単には壊せなかった。
どうしたものかと頭を抱えていると、一人の少女が牢獄のそばにある階段から駆け下りてきた。肌が焼けていて、動きやすそうな服を着ていた。少し周りを見ると、小声でレイヴィー達に話しかけてきた。
「迷惑をかけてごめんなさい、少ないけど、ご飯を持って来たわ。あと少し待ってもらえる? 多分、ライレンがあなた達を呼ぶと思うわ」
そう言うと、おにぎりがのった紙で出来た皿とコップを手渡し、コップには水をついでくれた。
「ライレン?」
「あなた達が知ってるのかどうか知らないけど……白き勇者ってやつ。これで分かる?」
レイヴィー達は息をのんだ。
白き勇者――つまり、村人達を洗脳しているかもしれない張本人。それが、自分達を呼んでいる。――自分に悪意がないのを伝えるためか、はたまた処刑というのもあり得るか。
捕らえてそのままというわけではないだろう……せめて普通の縄に変えてさえくれれば反抗できるかもしれないが、相手は人間。刺しても余裕で動き続ける魔物とは、全くもって違うのだ。それだけで、レイヴィー達にはかなり重い足枷がつく。
色々な考えが巡りながら、全員考えが一致していることがあった。この少女からは、まったく敵意を感じられないことだ。
「あっ、勘違いしないで! ライレンはいい子なの、本当に。ただ、村のみんなが……」
皆の表情が曇ったのに気付いたのか、少女はそう言った。そして、少しの間黙り込み、苦しい顔をしながらこう言った。
「……勝手に、ライレンを祀り上げたの。何かに操られてるみたいに」
-第十二話「牢獄」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.16 )
- 日時: 2021/07/18 14:40
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第十三話「少女ライレン」-
「どういうことです? それ」
顔を曇らせながら、小さくそう言った少女に、レイヴィーはそう問いかけた。
「私にもわからないのよ。ただ、勝手にライレンを祀り上げて、崇めて、お助けください、白の勇者様って。
そうならなかったのは、私たち子供だけ。それを少しでも否定すると、家族だろうと、平気で捕らえて、牢獄に入れて、ひどい拷問を受けさせるの。……わ、私の、お兄ちゃんも、今も、目を覚まさなくて……」
肩を震わせながらそう言った少女を見て、レイヴィーは心の中で舌打ちをした。
そんなことが、偶然で起こるはずもない。こちら側の戦力を一時的にでも狙ったのか、私たちが内側から食いつぶされるのを狙ったのか。少なくとも、被害が出たのは確かだ。
「……ライレンは、優しいから。私はそんなのじゃないって言えないのよ」
悔しそうな声で、少女はそう言い、レイヴィー達を見た。
「そういえば、名前言ってなかったね。クラハよ、クラハ・ガーデン」
全員の自己紹介を終えると、もう少しだけ耐えてと言い、クラハは上に行ってしまった。
「……さてと、じゃあそれまでの間、どうする?」
「はい! ベリーのマジックショー!」
アゲリが手を挙げ、端っこで杖を抱えて座り込んでいる少年を見る。
「へ?」
前髪が長く、片目しか見えてないベリーと呼ばれた少年はその言葉に驚き、間の抜けた声を出した。そして次には、ものすごい勢いで首を横に振った。
「ぼ、ぼくのマジックなんて、全然すごくないし……」
「でも、魔法を使わんであんなのでぎるって、結構凄いと思うげど」
「サレーナさぁぁん……」
涙目でサレーナを見るベリー。サレーナはニヤッと笑った。
ベリーはマジックが得意で、集中のためにマジックをよくやっている。その腕前は確かなもので、普通にそれで食べていけるほどだが、本人がとても内気なため、それを見せびらかしないし、したがらないのだが、白団内では人気なのだ。
「ほーらー、ベリーお願い!」
「う、うぅ……少しだけですよ?」
半ば涙目になりながらそう言うと、トランプを取り出し、混ぜ始めた。
☾
ベリーのマジックショーで暇つぶしをすること一時間。数人の村人が階段を降りて、何故かレイヴィー”だけ”を檻から出した。
「ハァ!? おい、俺も出せよ!」
「黙れ、あのお方はこの方だけをお呼びになられたのだ。さぁさ、こちらへ。あのような者共と話すことはございません」
「え?」
自身に向かって敬語を使われ、手錠を外されたことに驚きながら、後ろを振り向き、口パクで、「何とかしますので、待っててください」と伝えた。
外へ出ると、村の中で一際大きな家へ通された。中には、着物で身なりを着飾り、正座をした少女がいた。彼女から感じられる雰囲気は、まるで女王のようだった。
「……二人にして。彼女と話します」
レイヴィーを見て、次に村人へ目を移してそう言う少女。村人達は立ち上がると、外へ出た。
村人達が外へ出たのを確認すると、少女はハァッと息をつき、正座を崩した。
「あぁもう足痛い! 無理!」
「!?」
そう叫んで足をっさすている姿は、普通の少女そのもので、レイヴィーは少し困惑した。
「……あ、ごめんなさい。びっくりさせたよね。私はライレンです。あなたは、レイヴィーさんよね」
「はい、そうですけど……」
「私は、あなたに……いいえ、あなた達に頼みたいことがあるのです」
-第十三話「少女ライレン」終-
- Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.17 )
- 日時: 2021/08/07 16:38
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: 0bK5qw/.)
-第十四話「解術」-
「この村の洗脳を、どうにかして解いてくれませんか」
「! ……やっぱり、洗脳の類なんですか?」
そう聞くと、ライレンは頷き、話し始めた。
「心当たりはあります。先日、魔物が来たんです。ワイトを装っていましたが、こうなって気が付きました。恐らく、あれは黒団の者でしょう」
悔やむかのようにそう言うライレンを見て、レイヴィーは黒団への憎悪が更に増した。
年々、魔物がワイトを装って油断させ、人を食い殺すという事件が増えている。なんていう卑怯な……。
「特に、悪さをするでもなく去っていきました。その数日後です、村人達がおかしくなったのは」
あぁ、やはり黒団の仕業か……。
だが、こんなことをしたのには訳があるはず。単純に襲うためならば、その場で軍を差し向けてしまえばよいのだから。
ただ、その理由が分からない。……何か、何か理由が……。
「恐らく、あの魔物が村の者に何かかけたのでしょう」
「解術であれば、私達の中に出来る者がいます」
「ほんとですか!? お願いします!」
そう言われ頭を下げられて、レイヴィーは焦った。
「お礼など結構です。それが仕事なんですから」
「いえでも、酷いことをしたのに、引き受けていただいて……」
「悪いのは黒団です。あなた方は悪くない」
そう言うと、ライレンは泣き出してしまった。
見た限り、ライレンは12~13だろう。白い髪が長く伸び、立っても床につくだろう。体を覆える程長く白い髪から、白き勇者というのの信憑性が増したのだろう。
優しい子なんだろう。自分にすがる村人達に否定ができなかったのだろう。自分は神でも勇者でもないと言えなかったのだろう。
「……絶対に成功させます」
「これが鍵です。私から村人達に話しますので、大丈夫です」
「ありがとうございます」
鍵を受け取り、家を出て、真っ直ぐ牢へ向かった。
階段を駆け下りると、皆がこっちを見た。
「お、レイヴィー!」
「悪いのですが、とりあえずベリーだけ解放します」
「ハァッ!?」
ベリーの手錠を外しながら事情を説明すると、外しきったのとほぼ同時に、ベリーは解術の呪文を唱え始めていた。レイヴィーは音をたてないようにしながら他の者の手錠を外して回った。
解術はかなりの集中力がいる。言うなれば、絡まった糸を一つ一つ解いていかなければならないのと同じぐらい難しい術なのだ。脳内で絡まった術の糸をほどきながら、呪文も絶えず唱えておかなければならない。ベリー以外の誰かがやろうものなら、途中で挫折する者もいるだろうし、レイヴィーがやれば終わってすぐぶっ倒れるだろう。
だが、ベリーは違う。
ベリーは解術の才があるのだ。
「……ハァっ……」
しばらく待っていると、ベリーが大きく息を吐いた。
「大丈夫? 水だよ」
「ありがとうございます……終わりました……」
メイヴェルから渡された水を飲むと、終わったことを伝えてくれた。
牢から出ると、村人達は倒れていた。
「あっ、レイヴィーさん!」
ライレンが駆け寄ってきた。
「無事終わりました」
「……! よ、よかったぁ……」
涙を流しながら、ライレンは微笑んだ。
「しばらくこの村を護衛させていただきます」
「メンタルケアもうちがバッチリやるさけ、心配せんでええよ」
「ありがとうございます……ありがとうございます!!」
その言葉に、一行は嬉しそうに微笑んだ。
-第十四話「解術」終-