ダーク・ファンタジー小説

Re: 白と黒の魔法戦争 ( No.3 )
日時: 2021/03/20 15:54
名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ (ID: 0bK5qw/.)

 -第二話「変わらない光景」-

 朱髪の女性――ライトという女性は、マイが退出した後、自分が穴を空けてしまったパジャマを見つめていた。
 毎度直すのをマイに丸投げしているのだ。それは怒られる。
 いや、普通に買えばいい話なのだが、白団の経済管理をしている、センドという少年が実家が貧乏なためかかなりの節約家なので「こういうとこに資金を使うな! 直せ!」と言われている。
 そうすると、ライト自身裁縫が苦手なので、マイに丸投げするしかない。
「……今回は下手なリにも自分でやってみるかぁ」
 しかし、まだ問題はある。裁縫セットがない。「それこそ買えよ」と思うかもしれないが、これで買ったらセンドの雷が落ちる。とても怖い。メイヴェルに借りよう。
「メイヴェルー」
「なんですか?」
 耳をぴょこっと上にあげ、振り返るメイヴェルの愛らしい仕草にライトは微笑み、言いずらそうに口を開く。
「そのー、なんだ。……裁縫セット、貸してくれないか?」
 苦笑交じりでそう言うライトに、メイヴェルは一瞬きょとんとし、すぐに驚いた様子で自分のベッドのすぐ横にある棚を開ける。
「なんと、いつもマイさんに任せているライトさんが! どういう風の吹き回しですか?」
 そして、裁縫セットを取り出し、ライトに渡す。
「で? まだ要件があるんでしょう?」
 と、笑顔で首を傾げてそう言うメイヴェルに、ライトは苦笑する。どうやら、何でもお見通しのようだ。
「えっと……裁縫教えてください」
「素直でよろしい。……訓練後、時間空けておいてくださいね?」
 そう言ってニコッと笑うメイヴェルに、ライトもつられて笑う。
 メイヴェルは、レイヴィーを見て、話しかける。
「レイヴィーちゃんもどう? お裁縫!」
「いえ、私は大図書館に行くので」
「えっ、また? 昨日も行ってたよね」
 メイヴェルが言うように、かなり前からレイヴィーは大図書館に通いっぱなしである。毎日どころか、時間が空いたら読書か、大図書館に赴いている。
「はい、面白い本が多いので」
「今度、私達も行っていいかな?」
「えぇ。お客がたくさん来た方がバラット……大図書館の主も喜びますよ」
 そう言いつつ、朝食を食べ終わったら大図書館へ行く用に、返す本を何冊か持つ。
 一足先に部屋を出たライトとメイヴェル、それから紫の髪の女性――アゲリ(本名はアゲリーヴェッタだが、長いので省略している)に続く。
「アゲリ、平気? ふらふらだよ?」
 と心配する様子でアゲリを見る。
「だいじょぶだいじょ……」
「って危ない!」
 倒れかけたアゲリを、メイヴェルが支える。
「今日は夜更かしさせませんよっ!」
「えっ、やだ。まだ途中……」
「やだじゃありません。まったく、戦場で倒れたらどうするっての?」
「薬あるし……」
「駄目なものは駄目」
「縛り付けてでも寝させます!」
 賑やかな光景。いつもと、まったく変わらない光景。絶対に、誰一人とて欠けることはない光景だと、レイヴィーは信じていた。
 保証できることでは決してない。白団は、黒の魔法騎士団と戦う立場にある。いつか、誰かが欠けるかもしれない。明日には、この場に己は存在しないかもしれない。それでも、このときは、この瞬間は、あったかい気持ちでいれる。
 不意に、ライトが振り返る。
「レイヴィー、聖刀せいとうはちゃんと持った?」
「はい」
 返事して、自分の首にかけているひもを指で持つ。
「ん、よし」
 確認すると、また前を向く。
 女子寮を出ると、晴れた青空と、爽やかな景色が広がる。
「んー、今日もいい天気ですね!」
 と言って背を伸ばすメイヴェル。
「そうだな」
 微笑み、そう言うライト。
 そして、黙ったまま皆、空を見上げた。
「……さっ、食堂行こう!」
 しばらくの沈黙を、ライトが破る。
「そうだね」
 頷き、歩き出すアゲリ。
 食堂に入ると、数人の団員がいるのが見える。
「よっしゃ、今日も残さず食べるぞー!」
 ライトが笑顔で言い、列に並ぶ。それに、三人も続いた。

 -第二話「変わらない光景」終-