ダーク・ファンタジー小説

ダンジョンに潜む性欲 ( No.10 )
日時: 2024/05/02 21:16
名前: 柔時雨 (ID: ..71WWcf)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13011

この日、俺とシルヴィアは地下ダンジョンを訪れていた。
屋外での戦闘はまぁまぁ戦えるようになってきたので、今回は限られたスペースでの戦闘をしてみようということになって
アルガスの町から1番近いダンジョンへ来たというワケだ。

「当然のことながら、俺はダンジョンを訪れるのは初めてなんだけど……シルヴィアは?」
「私も初めてですよ。主様に出会うまで、森を出たことはありませんでしたから。」
「そっか。じゃあ……己のステータスに慢心しねぇで、慎重に進んで行こうか。」
「はいっ!」

生前読んでいた漫画で、大まかにだがダンジョンというのが、どういう物かというのは理解している。
こういう地下へ伸びるダンジョンは、下の階層へ行くほど、棲息しているモンスターが強くなっていく……と、思う。

坂道を下りて出た場所は、小部屋風の洞窟。
4、5メートル四方はありそうな、正方形に近い小部屋だった。
明るくはないが、全体がぼんやりと光っている。

小部屋からは道が前方に1本、右に1本、左にも1本延びていた。
部屋から延びる道は、どこかのトンネルのような薄暗い空間で、幅は3メートルもないくらい。
薄暗いため、奥の方まで見通すこともできない。

前に進む道はすぐ先が十字路になっている。
結構複雑にできているようだ。

「思ったより、複雑な構造ですね。」
「マッピングが重要になりそうだな……シルヴィア、お願いしても良いか?」
「はい!お任せください。」
「とりあえず常に壁を左側において進むことで対処しよう。迷路を歩くとき、常に左右どちらか
 決まった方の壁に沿って進めば、迷うことはないって話を聞いたことがあるんだ。」
「なるほど。そのような法則が……わかりました。本日は左ルートで進みましょう。」

俺が前を歩き、シルヴィアが俺が【 創造 】のスキルで出した紙とペンで、ダンジョンの地図を描いていく。

「ちなみに主様、本日は何階を目指しますか?」
「ん~……初めてだし、いつでも挑めることを考慮して……3階くらいが妥当かなぁ。シルヴィアは?
 もっと深い階層を目指したい?」
「いえっ!どのようなモンスターが出てくるのか、まだ判りませんし、主様の仰る通りいつでも
 挑めるのですから、本日は様子見ということで、3階層辺りが私も妥当だと思います。
 そこまででしたら、急激に強いモンスターが出現するということもないでしょうし。」
「大丈夫か?無理して俺に合わせてくれなくて、シルヴィアの意見をちゃんと言ってくれて良いんだぞ?」
「大丈夫!大丈夫です!今回に関しましては、主様の考えに賛同できたからで、異論がある場合は
 きちんと申し上げますよ。」
「そっか?それなら良いんだけど。」

その後……

1階、2階に出現するモンスターは、このダンジョン周辺でもよく見るモンスターで
苦戦することなくモンスター共を倒しつつ、適度に休憩して

現在、地下3階に到達していた。

「ダンジョンに出現するモンスターは、このダンジョン周辺に棲息しているモンスターみたいだな。」
「既に何度か倒した事のある相手です。余程のことが無い限り、負けることは無いでしょうね。」
「慢心するつもりはないけど、これなら3階も割と簡単に踏破できそう……ん?」

3階層を少し歩いたところで、前方から身長2mほどある、頭から角を生やし、原始人のように皮の衣服を
纏った筋骨隆々のモンスターが歩いて来た。
手には木製と思われる棍棒を持っている。

「あれは……初めて見るモンスターだな。」
「主様。あれはオーガです。」
「オーガ!名前は聞いたことあるよ。……あれ?何か、名前の似たオークってのも居なかったっけ?」
「そちらは、豚の頭のモンスターですね。ゴブリンと同じ低級の悪鬼です。」
「あぁ、そっか。とりあえず……初見モンスターなので、ステータス確認しておくか。」

前方からのっし、のっしと歩いてくるオーガのステータスを【 超解析 】で確認する。


【 オーガ 】 Lv・48
種族・モンスター
年齢・-
性別・♂
移動ユニット・【 歩 】
属性・闇

【 使用武器 】
〇 棍棒

【 ステータス 】
HP・3700
MP・0
【 STR 】・450
【 VIT 】・390
【 INT 】・5
【 MND 】・10
【 DEX 】・5
【 AGI 】・80

【 スキル 】
〇 性欲 『 パッシブスキル 』
属性:-
消費MP:-
*戦闘中、隙あらば異性に対して優先的に襲い掛かろうとする。瞬間的に、【 STR 】の値が2倍になる。
*自分で自分を慰めた時、瞬間的に【 INT 】と【 MND 】の値が2倍になる。


「いや!スキルの内容が直球過ぎるわっ!」

思わず、反射的にそこそこ大きな声でツッコんでしまった。

同じようにオーガのスキルの内容を確認したのだろう。
俺の隣で、シルヴィアが苦笑いを浮かべている。

「でも、これ……スキルの対象が【 異性 】なら、オスのオーガは俺が前に出て対処して、
 メスのオーガはシルヴィアが対処してくれれば、そこまで危険な相手ってこともないよな?」
「そうですね。ただ……主様。以前、里に居た頃に他のエルフから聞いた話なのですが、オーガの中には
 時々、希少種と呼ばれる存在が産まれることもあるそうなんです。」
「希少種?」

シルヴィアの言葉に首を傾げた瞬間、接近してきたオーガにガシッ!と肩を掴まれた。

体術……投げ技に持ち込まれるかと思ったが……

俺の方を掴んでいるオーガは頬を赤くして、荒い息遣いでジッと俺を見つめている。

そして

「ウホッ!イイオトコ

と、野太い片言で確かにそう言った。

「おぉぉおおおっ!?希少種って、そういうことかぁっ!?」

最近、世間様ではようやく寛容に認知されるようにはなってきてはいるみたいだけどさぁ!
漫画や動画で、ネタとして見る分には笑って済ませられるが
いざ、実際に自分の身に迫ってくるとなると……
生憎と!俺にそっちの気はありませんのでっ!

全てを理解し、咄嗟にオーガを突き飛ばしたが、オーガはすぐさま起き上がり、今度は俺のズボンに
手をかけてきた。
同時に、『 これだけは死守しなくては! 』という防衛本能が、俺の身体を条件反射で動かす。

「させるかぁぁあ!何が悲しくて俺の初めてを、てめぇなんぞに奪われないといけねぇんだよ!シルヴィア!
 援護を……援護を頼むっ!」

オーガの攻撃を必死に防ぎつつ、シルヴィアに援護要請をしたのだが……
シルヴィアは何か、考えるような素振りで俺とオーガをジッと見つめている。

「このままいけば、主様の……しかし、オーガに先を越されるというのも、釈然としませんね……」
「えっ?ちょっ!?シルヴィアさん!?」

結局……
意地でオーガを蹴り飛ばし、再度跳び込んで来るタイミングで、オーガの首をツヴァイハンダーで
斬り落とした。

「はぁ……はぁ……危なかった……いろんな意味でヤられるかと思った……まさか、同性愛者が
 存在するとは……なんて恐ろしいダンジョンなんだ……」
「災難でしたね、主様。」
「あぁ……まったくだぜ……」

己を犠牲にオークの危険性を確認した直後、前方からオーガが歩いてくるのが見えた。
腹筋が割れ、筋骨隆々なのは今倒したオーガと同じなのだが、胸の膨らみが先程のオーガより大きいような
気がする。

「あれって……まさか、メスのオーガか!?」
「主様……」
「はぁ……マジで今日は厄日か?」

迫り来るオーガを倒すため、再びツヴァイハンダーを構えると……

メスのオーガは俺の隣に居るシルヴィアの両肩をガシッ!と掴んだ。

「「え?」」

オーガは頬を紅潮させ、荒い息遣いで、熱い視線をシルヴィアに向けている。

そして

「ウフフ!カワイイネ」

と、片言で確かにそう言った。

同時にシルヴィアの顔がサー……と、一気に青ざめる。
そんな彼女を前に、オーガはシルヴィアを押し倒し、衣服を強引に剥ぎ取りにかかった。

「きゃあぁぁああぁぁぁぁっ!!ちょっ、やめっ……やめなさいっ!何を考えているのですかっ!?」

いきなりのことで、普段落ち着いているシルヴィアが、珍しく取り乱している。

「あぁ~……そりゃ、オスの同性愛者のオーガが居るなら、メスの同性愛者のオーガも居るわな。」
「主様!観察して納得されてないで!たっ……助けてくださいぃいっ!」
「ん~……でも、女性と女性なら、別に失う物は何も無いような……」
「ありますっ!純情とか、尊厳とか……そういう何か大事な物を無くしてしまいますからっ!」

ステータスの【 STR 】の数値だけを見れば、シルヴィアも充分オーガを突き飛ばせるんだろうけど
それができる状況かどうかというのは、また別の話で……

仕方ないので、メスのオーガの顔面を蹴り飛ばした後、ツヴァイハンダーで首を斬り落とした。

「はぁ……はぁ……主様……本当はもっと早く、動けましたよね?」

胸を両手で隠し、黒い紐パンツ1枚の状態にされてしまったシルヴィアが、肩で息をしながら恨めしそうな
視線を俺に向けてくる。

「いやぁ、初見のモンスターの生態を、より詳しく確認しておく必要があると思ってな。それで……
 シルヴィア、変えの服は?」
「いえ……オーガに引き裂かれた、あの1着しか……」
「だよな……わかった。同じ物で良いか?」

俺は【 創造 】のスキルの『 自分の記憶にある物・1度見たことある物を、『 お金 』以外なら作り出すことができる 』効果を利用して
シルヴィアがいつも着ていた服を出現させた。

「ありがとうございます、主様。」

俺から服を受け取ったシルヴィアが、いそいそと着用する。

「とりあえず……倒すことはできるけど、厄介な敵が居るってことは、分かったな。」
「えぇ……同時に、予想外の事態に陥ると、対処が遅れるということも分かりましたね。」
「……今日はここまでにしておこうか。」
「はい……違う意味で、どっと疲れてしまいました。」

目的の階層に到達し、棲息している( ある意味 )厄介極まりないモンスターの存在も確認したことだし
これ以上何かされる前に、俺達は上の階層へと引き返した。