ダーク・ファンタジー小説

岩山の闘士 ( No.11 )
日時: 2024/05/02 21:17
名前: 柔時雨 (ID: ..71WWcf)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13011

アルガスの町・冒険者ギルド

自分達のレベルアップに付き合ってくれた魔物達の素材を買い取ってもらっている間、空いている席に座り
テーブルの上に、このヴェルスティア大陸の地図を広げる。

「ん~……」
「どうされました?主様。」
「ん?あぁ……そろそろ拠点を手に入れようかなぁって考えてたんだけど……」
「まぁ!拠点ですか!主様と私の……私達だけの……うふふ。良いですね!是非、検討しましょう!」
「それでなんだけど、今考えてるのは、この町で家を買うか……何処か、空いた土地に作るか……なんだけど
 シルヴィアはどっちがいい?」
「私は主様と一緒でしたら、どこでも構いません。ですが……そうですね。できれば、空いた土地に
 1から作っていただけると……」
「了解。でも……そんな都合よく、空いてる土地なんてあるのかな?」
「ありますよ。つい最近、空き地になった場所が……此処です。」

そう言いながらシルヴィアは、地図の一角を指差す。

「以前はエルフの里があった場所です。主様にお話しした通り、此処は心無い人間の襲撃に遭い、
 森が燃やされ、現在は一部が焦土となっています。」
「一部?」
「はい。地図に描かれているこの森全体が、人間がこの大陸で栄える以前からエルフが所有していた
 独立した土地なのです。長い年月の中で様々な生き物や魔物も棲み付くようになりましたが……
 そして、エルフの里があったこの一部だけが、現在焦土になっているんです。」
「なるほど。ん~……エルフの里が襲撃されたことが既に世間に広く知れ渡っているなら、エルフ達が
 居ないこの土地を自分の領地にしようと思って動き出す奴も、少なからず出てくるよな?」
「おそらく……」
「ちなみに、此処は絶対駄目!みたいな場所はあるか?」
「はい。私も以前、エルフの里で少し話に聞いただけですが、このヴェルスティア大陸の東にある……
 此処です。」

そう言いながらシルヴィアは、机の上に広げている地図の一角を指差した。

「此処は?」
「『 聖都・ルルブシア 』。この世界を想像したと云われている神様を初め、様々な神様を信仰している
 聖騎士や神官が集う町です。そして、その殆どの人間が『 絶対人間至上主義者 』で、
 闇に染まった者に対し激しい嫌悪感を抱き、アンデッドやモンスター、ドラゴンの討伐、幽霊や悪魔祓いの
 エキスパートであるそうです。敵対するものが倒れるまで、攻撃の手を緩めない過激な
 集団なんだとか……」
「なるほど。暗黒騎士として転生した俺や、過程はどうあれダークエルフになったシルヴィアが
 この町に行けば、都市全体を巻き込んだ闘争が勃発しちまうと……」
「そういうことです。」
「ふむ……なぁ、シルヴィア。」
「はい。」
「俺のスキルで、海に1から土地を作って、領土と拠点を作るのは……有りだと思うか?」
「海に……ですか?そうですね……えぇ、問題無い……いえ、むしろその方が良いかもしれませんね。
 建国というほどではありませんが、1から拠点を作るメリットは大きいと思います。」
「そっか。それじゃあ、とりあえず海に出て、どの大陸にも属していない海域に、【 創造 】のスキルで
 土地から作る方針でいくか。」
「はい!では、主様。海に出る前に、必要な物を用意しましょうか。」
「ん?何か必要な物があるのか?大体の物は【 創造 】のスキルで出せるけど……」
「ですがそれは、主様が以前居た世界の物であったり、こちらの世界の物であっても、1度見たりして
 認知していないといけませんよね?」
「あ、確かに……ということは、俺がまだ見たことが無い物が必要なんだな?」
「はい。主様、この後ですが、『 転移石 』を採りに行きませんか?」
「転移石?初めて聞いた……けど、何となく、どういう物なのかは解かった。それがあれば、
 瞬間移動ができるっていうアイテムか?」
「その通りです。その石の片方をこの拠点に、もう片方……破片でも構いませんので、
 それを私達で持っていれば、何処に居ても、瞬時に此処へ戻って来ることができます。使用するには
 主様や私の持つ方の転移石に、今後できる拠点のことや目的地の場所を記憶させる必要がありますが。」
「なるほど。何にせよ、その石が無いと始まらないってことか。」
「そうですね。人間の里の市場に出回ることもあるそうですが、比較的に簡単に見つけられる鉱石なので
 常識の範囲内で、自分達で採取する方が確実かと。」
「わかった。それじゃあ、その石を探して、見つけたその足で海に……あぁ、いや。アルガスの情報を
 石に記憶させる必要があるから、1度戻って来ないといけないのか。」
「えぇ。焦ることはありません。主様、まずは確実に石を見つけることに専念……見つからなかった場合は
 購入する方向で事を進めましょう。」
「そうだな。よし!それじゃあ、この町から1番近い場所にある岩山に行ってみようか。」
「はい!」

◇◇◇

……ということがあり、【 Soul of Centaur 】を発動し、シルヴィアを乗せて走ること数十分。

現在、岩山に到着して【 Soul of Centaur 】を解除した俺とシルヴィアは、岩の壁に挟まれた
谷底を歩いていた。

「勢いで来たけど、この岩山にあるのかな?っていうか、俺、その転移石ってのがどんな見た目なのか
 知らないんだけど?」
「そうですね……青緑色で、水晶のように透き通っているので、割と簡単に見分けられると
 思うのですが……」
「今まで歩いて来た処には無かったな……ん?」

シルヴィアと話しながら歩いていると、前方240度を聳え立つ岩の壁に囲まれた、足場が平らで円形の
石舞台に出た。

「此処で行き止まりでしょうか?」
「……いや、目の前の壁に、洞窟がある。ダンジョンになっていて、モンスターが居るかもしれねぇけど
 まだ先に行けそう……っ!?」
「どうされました!?主様!」
「いや……誰かに見られているような視線を感じて……」

ツヴァイハンダーの柄に手をかけたまま、視線を感じた方を見ると、切り立った岩壁の上に1人の
女の子が立っていた。
女の子もこちらに気付いたのか、岩壁の僅かに出っ張っている所を足場にしながら、垂直跳びで
華麗に跳び下り……石舞台の上に着地した。

石舞台に下りて来てもらって、初めて気付いた。

菫色の綺麗な長髪、人間のどちらかといえば『 可愛い 』よりは『 美人 』寄りの顔立ち、
袖と脇腹から腰に掛けて生地の無い、『 覚悟を感じる 』エグい角度の白いハイレグのレオタードの上から
灰色の何かの生き物の毛皮をジャケットのように羽織り、殆ど機能していないほど
丈を極限まで詰めた薄い灰色のミニスカートを穿いている。
そして、彼女の左目の処を縦に、右頬や剥き出しの手足には、所々に大きな古傷が刻まれている。

ここまでは人間としての容姿……

その女の子の頭には、髪の毛と同じ色の毛の犬の耳が、わざわざレオタードに穴を開けたのか、
尾骶骨の辺りから、犬耳と同じく、髪の毛と同色の犬の尻尾が生えている。

「お前達……何の目的で、こんな場所に来たのかは知らないが、その先には何も無いぞ?」
「その先って……あの洞窟の奥のことか?」
「あぁ。以前はリザードマンの集落があったのだがな……」
「以前はあった……今は無いのですか?」
「何ヶ月か前に、何処の鉱山から来たのか、ドワーフ達がこの岩山を訪れてな……夢中で採掘しているうちに
 リザードマンの集落の壁に、大穴を開けてしまったんだ。」
「それは本当なのですか!?まったく!本当にあの者達は!他の種族への迷惑も考えないで!」

珍しく、シルヴィアが感情を剥き出しにして怒っている。

「どうしたんだ?シルヴィア。」
「見たところ、その女はダークエルフ……エルフなのだろう?エルフとドワーフの仲の悪さは
 有名だからな。」
「あぁ、なるほど。何かで読んだことがあるな、その情報。」
「まぁ……そういう事情があって、リザードマン側は大激怒。武力行使によって、ドワーフ達を
 その集落……いや、この岩山から追い出した後、何処か他所の土地へ遷都していったというわけだ。」
「なるほどな。それで、お前はそのことを伝えるためにずっと、この岩山に……」
「ん?いや、違う。アタシは……他に、行く場所が無いだけだ。」
「行く場所が……なぁ、もし良ければ、お前のことを色々聞かせてくれないか?時間はあるんだろ?」
「え?まぁ……あるにはあるが……アタシの事を?」
「シルヴィアも構わないよな?」
「はい。急ぎの用事でもありませんから、ゆっくり致しましょう。」
「…………わかった。だが、アタシの話が終わったら、お前達のことも話してもらうからな?」
「あぁ。わかった。」

話がどれくらいの長さになるかは判らなかったので、俺とシルヴィアはキャンプの用意をして
人数分の飲み物を用意する。

「まずは名乗るべきか……アタシは『 ライザ 』。半人半狼ライカンスロープだ。」
半人半狼ライカンスロープ!その名前は聞いたことがあるな。」

そっか、狼の耳と尻尾だったのか。
迂闊に犬耳とか言ってたら、どうなっていたことやら……

「どうされました?主様。」
「いや……何でもない。俺はユーヤ、彼女はシルヴィアだ。」
「よろしくお願いしますね、ライザ。」
「ん……」

微笑むシルヴィアに、ライザが短く返事をして、ペコリと頭を下げる。

「それで?ライザはどうして此処に?さっき、他に行く場所がないって言ってたけど……」
「そのままの意味だ。アタシにはもう……帰る場所がない。それだけのことさ。」
「「帰る場所が……?」」

ライザの言ったことに、俺とシルヴィアはほぼ同時に訊き返してしまった。
 
「……まず、私は自分の両親のことを知らない。父親が狼で母親が人間、あるいはその逆なのかも
 判らない……此処より遥か北にある『 エギス 』という極小の村の外れにある廃れた教会に、
 赤子だったアタシが籠に入れられた状態で放置されていた……と、私を見つけて育ててくれた
 老夫婦から聞いた。」
「そっか。ライザの御両親が何でそんなことをしたのかは判らないけど、そうしないといけない理由が
 その時にはあったんだろうな。」
「あぁ。アタシも、その件に関しては別に何とも思っていない。育て親の老夫婦にはとても
 良くしてもらったからな。ただ……村の人間の全員が全員、好意的だった訳ではなかった。
 見ての通り、アタシには狼の耳と尻尾が生えている。それが、恐怖の対象……いや、嫌悪の対象とでも
 言った方が良いのか?とにかく、『 自分達とは違う 』という理由で、村の同世代の子ども達の中には
 アタシに小枝や小石を投げつけてきた奴等も居たし、老夫婦に幾度かアタシを捨てる様に
 意見してきた奴等も居たが、あの2人はアタシを慰めてくれて、頑なにアタシを追放することを
 拒んでくれていた。」

ライザは少しだけ空を見上げた後、続けて話してくれる。

「ある時、老夫婦の母の方がアタシに、『 近くの林で焚き木にする様の枝を集めてきて欲しい 』と
 お願いしてきたので、言われた通りに作業をこなし、意気揚々と帰宅したら……家が炎に包まれていて
 育て親の老夫婦が……村人共の足元で、血を流して倒れていた。」
「「!?」」
「アタシは集めた枯れ枝を投げ捨て、慌てて駆け寄ろうとしたんだが、まだ意識があった父に
 『 逃げろ! 』と言われ……正直、今思えば、あの時、村の連中を八つ裂きにできたかもしれない。
 でも、その時は父の言いつけを守らなければいけないと思ったことと、本能で『 生きなければ 』と
 思ったから、歯を食いしばってその場から逃げたんだ。何人か追って来ていたような気もするが、
 狼の脚力で逃げ切ってやった。」
「「ライザ……」」
「それからは、生きるために動物や鳥、モンスター共を狩って、その血肉をすすって今日まで何とか
 生きてこられた。たまに、傭兵として人間と共闘したこともあれば、この肉体を求めて襲ってきた連中を
 返り討ちにしてやったこともあったな。」
「なるほど……ありがとな、ライザ。話してくれて。そして、悪い……『 大変だったな 』っていう
 ありきたりな言葉しか出てこなくて。」
「いや、そんな……構わない。聞いてくれただけでも、気が楽になったし……それに、アタシも今から
 お前達のことを聞かせてもらうんだからな。」
「わかった。じゃあ、俺から話そうか。」

俺とシルヴィアは順番に、自分達の過去に何が遭ったのかを、俺達が出会って仲間になるところまで
ライザに話した。

「……アタシの人生も大概だと思っていたが、シルヴィアも散々だったな。しかも、ユーヤに関しては
 1度死んでいるというのだから、驚いた。」
「信じてくれるのか?シルヴィアにも言ったんだけど、すぐに信じてもらえそうな内容じゃねぇのに。」
「確かに、作り話という可能性はある……だが、アタシの話をとても真摯に聞いてくれた2人の
 これまでの話だ。アタシは2人の話を信じたいと思う。」
「そっか……ありがとな、ライザ。」
「いや……別に……」

少し頬を赤くして俯くライザだが、彼女の尻尾は左右にピョコピョコ振り動いている。
実は、案外分かりやすいなのかもしれない。

「なぁ、シルヴィア。」
「えぇ。私も良いと思います。」
「ははっ……おいおい。まだ、何も言ってねぇぞ。」
「うふふ。今の主様が考えていることは、手に取るように分りますよ。」
「? 何の話をしているんだ?2人共。」
「なぁ、ライザ。もし、お前さえ良ければ、俺達の仲間にならないか?」
「え……?」
「もちろん、これは強制ではありません。もし、ライザがこのまま1人での生活を続けたいというのでしたら
 私達は貴女の意見、意思を尊重します。」
「……お前達、アタシを仲間に誘うということが、どういうことか解っているのか?半人半狼を受け入れて
 あの老夫婦みたいなことになっても……アタシは責任を取れないぞ!?」
「それがどうした?俺は暗黒騎士で、シルヴィアはダークエルフ。そこに半人半狼ライカンスロープ
 仲間に加わったところで、別に痛くも痒くもねぇよ。」
「むしろ、戦力が増えるという考えですと、とても心強く思いますし、苦楽を共にできる仲間が
 増えるということは、とっても嬉しく思います。」
「お前が半人半狼だからっていう理由で馬鹿にするような奴等が現れたら、俺とシルヴィアが守ってやるし
 何なら一緒に戦ってやる。だから……仲間になってくれねぇだろうか?」

俺が右手を差し出す前で、ライザは両目の端から大粒の涙を零していた。

「「ライザ!?」」
「ぁ……すまない……嬉しくって……10歳で村を去ってから今日まで1人で……人間と一時的に
 共闘したことはあるが、こうして仲間に誘われたのは、本当に初めてで……」

涙を拭い、ライザは俺が差し出していた手を握り返してくれた。

「傭兵稼業は今日で廃業だ。アタシを仲間に誘ってくれたこと、心から感謝する。ユーヤ、シルヴィア
 これからよろしく頼む。」ニコッ
「おぅ!よろしくな、ライザ!」
「えぇ。仲良くしましょうね。」
「いやぁ、転移石を探しに来たのに、それ以上の存在を見つけてしまったな。」
「うふふ。そうですね。」
「ん?2人は転移石を探しに来ていたのか。」
「えぇ。ライザはこの岩山のどの辺りにあるか、御存知ですか?」
「それならアタシが持っている。以前、結晶で採掘した後に、当時の自分には使い道が無いと思ってな……
 でも、いつか使える日が来るだろうと思って、未使用のまま保管している物がある。
 今から取ってくるから、2人はアタシを信じて、此処で待っていてくれ。」
「あぁ。わかった。」

そう言うと、ライザは身軽な動きで岩山を跳び上がって行き……しばらくして、麻袋を持って戻って来た。

「待たせたな。ほら……これが転移石の結晶だ。」

ライザは麻袋から転移石の結晶を取り出し、俺達に見せてくれる。

「まぁ!とっても綺麗ですね!」
「しかも、こんな大きい物……本当に良いのか?貰っても。」
「あぁ。さっきも言ったが、アタシ1人では使い道が無かったからな。それに、ドワーフの連中が
 殆ど掘り返してしまったから……今から見つけるのは、難しいだろう。とにかく、これはユーヤに預ける。
 有効活用してくれ。」
「わかった。責任をもって与らせてもらうよ。」

ライザから転移石の入った麻袋を受け取り、目的を果たしたので1度、アルガスの町へ戻ることにした。

ただ正直、転移石の入手よりも、新しい仲間ができたことのほうが嬉しかった。