ダーク・ファンタジー小説

Prologue ( No.2 )
日時: 2024/05/02 21:05
名前: 柔時雨 (ID: ..71WWcf)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13011

この日、俺は18年の人生に自ら幕を閉じた。

理由は本当に些細な事……どういう理由は忘れたが
高校生になってからしばらくして、いじめのターゲットになり
それから2年間、自分の心に対して騙し騙しなんとか過ごして来たけれど……

高校3年生になって、18歳の誕生日を迎えた翌日の放課後
高校1年生の頃から好きだったクラス委員長の女子から告白されて、人生で1番の幸せの絶頂を
迎えた……と、思ったのに……
後から現れたウチのクラスの不良共の登場により、実はそれがドッキリで、彼女の告白が嘘の物だと
知った瞬間、俺の心の中で、何かが『 ポキッ 』と音を立てて折れ、崩れたのが判った。

その後、どうやって学校から町まで来たのかは、心此処にあらずの放心状態だったから覚えていない。
ただ……何気なく見上げた廃ビルの屋上に目が止まり、俺は人気ひとけの無いその建物の
しんっと静まり返った階段を上り、1番上の階へ着くと、鍵が壊れていた屋上へ続くドアを
ゆっくりと押し開けた。

普通なら管理体制がどうこうと問題になるんだろうが……今の俺には、鍵が壊れていたことに対して
感謝の念しかない。
そういう面倒くさい問題に関しては、俺が居なくなってから好きなだけやってくれ。

古くなったフェンスを乗り越えて『 向こう側 』に立ち、俺は目を瞑って足を踏み出し

この世界と別れを告げた。

◇◇◇

???

ふっと、俺は楕円形のガラス板のような足場の上で目が覚めた。

『目が覚めたようですね、『 東雲しののめ 悠耶ゆうや 』くん。』

声がした方を見ると、白く短い口髭を生やした中年……初老?くらいの男性が立っていた。

「何で俺の名前を……あんたは……?」
『私ですか?そうですね。『 神様 』と言っておきましょうか。』
「……『 自分を神様だなんて言う奴に、碌な奴は居ねえ 』って、死んだじっちゃんが言ってたな。」
『私のことは良いのです。それより、悠耶くん。事情は概ね理解していますし、君の置かれていた
 境遇には同情しますが……自殺をしたのは感心しませんね。貴方の住む世界の宗教……仏教だと
 等活地獄に、ダンテの神曲の世界観だと地獄の第7のたに、自殺者の森に落とされるほどの
 罪なのですよ。』
「地獄……そっか、知らなかったとはいえ、地獄は嫌だな……」
『しかし……先程も言いましたが、貴方が自殺するまでに至った事情も経緯も、そして境遇は
 理解していますし、私の同僚である死後の国の女神もまた、『 自殺は罪であるが、情状酌量の
 余地がある 』と言っていました。』

死者の国の女神……?閻魔大王じゃないのか?
どうやらもう、この時点で俺の知っている『 死後の世界観 』というものは存在しないことだけは
理解した。

『そして他の神とも話し合った結果、悠耶くん。君に『 第2の人生を生きる機会を与える 』という
 結論に至り、転生を司る神である私がこうして、御迎えにあがったというわけです。』
「第2の人生……最近漫画で見た、異世界転生ってヤツか。」
『悠耶くん。次の世界に転生するにあたり、何か希望はありますか?可能な限り、叶えて差し上げますよ。』
「そんなこと言われてもな……どういう世界観に生まれ変われるか分らないし……ただ……必要最低限
 人間と関わらないような生活がしたい。変に人間と付き合って、イジメられたり、裏切られたり
 するのはもう……うんざりだ。そんな思いをするくらいなら、俺は人間と敵対するような存在で
 生まれ変わっても後悔しない。」
『ん~……私としては、あちらの人とも交流して欲しいのですが……まぁ、これに関しては保留と
 いうことで。それ以外は何かありますか?』
「他はそうだな……さっきも言ったけど、どんな世界に生まれ変わるのか判らないから、俺の記憶を
 そのままに……ゲームで見た武器や装備なんかを、随時作れるようにしてもらいたいんだけど……
 お願いできるかな?神様。そういうのが必要無さそうなら、特に何も無くて良いからさ。」
『解りました。転生した先で君が必要な物はすぐに用意、会得できるようにしましょう。』
「ありがとうございます。」
『それでは悠耶くん。君の第2の人生がより良いものになりますように……』

転生の神様と名乗る男性がゆっくりと右手をかざした瞬間、俺は睡魔に襲われ……ゆっくりと目を閉じた。


◇◇◇


???

またふっと目を覚まし、ゆっくりと上半身を起こして周囲を見渡すと……どうやら俺は今、
洞窟の中にいるらしい。

「さっきのは……夢か?いや、でも……少なくとも、此処は俺が最後に居た場所ではなさそうだし……
 やっぱり、別の世界……なのか?」
『もしもし、悠耶くん。私、転生の神様。今、貴方の脳に直接語り掛けています。聞こえますか?』
「神様!?」

前世で動画か何かで見た
『 ファミ○キください 』と『 もしもし、私メリーさん。今、貴方の後ろに居るの 』を
合わせたような感じで、神様からの念話がきた。

『よかった。無事に転生して、私の声が聞こえる様ですね。ではまず、悠耶くん。君が居るその世界は
 モンスターが闊歩し、人と魔族が敵対する君が好きなファンタジーなゲームのような世界です。』
「そうなのか……それはちょっと、ワクワクするな。」

でも、それなら普通、村か町からのスタートになると思ってたんだけど……なぜ、洞窟?

『喜んでもらえて何よりです。次に、右手を軽く前にかざしてみてください。』
「右手を……」

転生の神様に言われた通りにしてみると、ヴンッという軽い電子音と共に、俺の目の前に横長の
長方形が出現した。

そこには俺の名前が『 ユーヤ 』とカタカナで表記されていて、攻撃力や守備力などの他に
スキルなんかの表記がある。
これがどうやら、ステータス画面ってことなんだろう。

『武器や防具、その他必要な物は【 創造 】のスキルで、君の好きな時に作ることができるように
 してあります。』
「へぇ!そんな便利なスキル、ありがとうございます!まぁ、その辺は後で自分で色々試していくとして……
 えっと、俺の職業ジョブは……暗黒騎士!?」
『はい。君が願った通り、人間に敵対する立場でもありながら……やはり、少しは人間とも交流して
 欲しいという我々神の願いを込めて、人間と魔族の中間という措置を取らせていただきました。なので、
 君の姿もモンスターではなく、前の世界の姿そのままですよ。』
「え?」

前の世界の姿そのまま……そう言われて、恐る恐る後頭部を触ってみたが、
よかった……手に血は付着していない。

掌に自分の黒い髪が数本付いてたけど……え?大丈夫?後頭部、ハゲてないよな?

どうやら、あの廃ビルから飛び降りる前の姿で転生してくれたらしい。

それに、人間と魔族の中間……まぁ、うん。
食料などの調達で町などを訪れることになることを考えると、この姿で転生させてくれた神様には、素直に
感謝しておくべきなんだろう。

「…………あっ、神様。後からで申し訳ねぇんですけど、1つ……お願いしたいことが。」
『おや?何ですか?』
「俺と敵対する相手のステータスを確認できるようにしてもらえませんか?こういうファンタジーの
 世界に転生してもらえるって判らなかったので……生き残るために、相手の情報を見えるように
 してもらいたいなって……』
『あぁ、それもそうですね。いきなり悠耶くんが居た世界とは全く違う文化の世界に転生したというのに、
 まったく何も判らないというのは大変ですよね。すみません。悠耶くんが先程申した条件に合う
 スキルをすぐに差し上げますね。』


【 スキル『 超解析 』を習得しました。 】


『私からの現時点での説明は以上になります。次は君から質問を呼び掛けられるまで、あまり
 関与しないでおきましょう。』
「わかった。ありがとう、神様。助かったよ。」
『どういたしまして。それでは悠耶くん。この世界で好きなように楽しんでくださいね。』

神様との念話……通話?を終え、俺はゆっくりと立ち上がり、洞窟の外に出る。
周囲は森で囲まれていて、人の気配が全く感じられない。

そんな環境の中、学ラン姿で転生された俺の第2の生活が始まった。