ダーク・ファンタジー小説
- 再会 ( No.5 )
- 日時: 2024/05/02 21:08
- 名前: 柔時雨 (ID: ..71WWcf)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13011
アルガスの町で俺とシルヴィアは観光と買い物を楽しみ……街道から外れたところにある
1軒の宿屋を訪れた。
建物内は全体的に薄暗く、御世辞にもあまり繁盛しているようには見えない。
「いらっしゃい……」
受付カウンターで、覇気の無い爺さんが出迎えてくれた。
「1泊させてほしい。部屋は空いてるか?」
「あぁ……見ての通りさ。昔は栄えてたんだけどねぇ……人が大勢この町に来るようになって
大通りの方にも新しい宿屋が増えてね。客は皆そっちに行っちまった。」
そう言いながら爺さんは、俺達を見て言葉を続ける。
「えっと……お客さん、別々で宿泊するのかい?それとも同じ部屋かい?」
「そうだな……じゃあ、別べ……」
「同じ部屋で!お願いします!」
俺が別々の部屋を頼もうとした横から、シルヴィアが袋から銀貨を10枚取り出し、カウンターに
威勢良く叩きつけて力強く発言した。
「お……おぉ……エルフのお嬢さん。生憎ウチでは食事の提供をしてないんだ。儂も見ての通り
歳だからね。それで1泊、同じ部屋だってんのに、こんな大金受け取れないよ。」
そう言って爺さんはカウンターに置かれた銀貨を3枚だけ手に取り、棚から鍵を取り出して
カウンターに置いた。
「2階の1番奥、向かって右側の部屋の鍵だ。好きに使うと良いよ。」
「あ……あぁ、世話になる。」
俺は鍵を受け取り、シルヴィアと一緒に指定された部屋へ向かった。
外装やフロアとは違い、部屋は綺麗に掃除されていて、荷物や衣服などを収容できる箪笥が
設置されており、風呂もあればベッドはダブルベッドという……なかなか良い感じの部屋だった。
「まぁ……良い部屋……なのでしょうか?人間の宿を利用するのはこれが初めてですので、
よく判らないです……」
「いや、充分豪勢な部類に入ると思うぞ。」
ただ……部屋に置いてあるベッドが、シングルベッド2つじゃなくて
ダブルベッドかぁ……
他の部屋を知らないから、此処だけダブルベッドなのかどうかの判別はできないけど
もし、俺達を見て、いらん気を回してくれたのだというなら、あの爺さんには説教が必要だ。
「さてと……飯は出ないみたいだから、何か食べに行こうか?」
「はい。参りましょう、主様。」
俺は受付の爺さんに、外食に行く旨を伝え、シルヴィアと共に夜の街に繰り出した。
戻って来た後のことは……未来の俺の自制心に期待しよう。
◇◇◇
『 夜は静かに過ごすもの 』という考えを、この世界の人達は持ち合わせていないようで
酒場がある大通りは普通に賑やかだし
宿のある裏通りも……宿の中に酒場があるのだろうか?寝る人も居るはずなのに、建物の中から
複数の豪快な笑い声が聞こえてくる。
「なぁ、シルヴィア。」
「はい。」
「俺が前に住んでいた世界では、酒は20歳になってからじゃないと飲めなかったんだ。だから、18歳で
死んだ俺は、酒を1度も飲んだことが無い。それで話を戻すんだけど……この世界って、何歳から
酒が飲めるんだ?」
「そうですね……さすがに幼少の頃は無理でしょうが、冒険者として1人立ちができたら……
15歳からでも飲めたはずです。」
この世界ではだいたい中学3年生頃から酒が飲めるのか……進んでるといえばいいのか
規制が緩いといえばいいのか……
「どうします?主様。私と一緒に、人世で初めてのお酒を体験しますか?」
「魅力的な提案だけど……それは別の日に、どこかの店で酒を買った後に楽しもう……あっ!
ちなみに……シルヴィアって、お肉とか魚は食べられなかったりする?」
「そうですね……以前はまったくと言って良いほど無理……臭いを嗅ぐのにも抵抗がありましたが、
この姿になってからは抵抗を感じてませんね。この町に来た時点で実感しました。」
「そっか。そういえば、朝食に出した動物の乳製品であるチーズも、問題無く食べてたもんな。
じゃあ、これからも俺と同じものを食べられるな。」
「はい!」
酒場や宿屋に居る男女入り交ざった賑やかな笑い声を聞きながら、俺達は夜の町を宛も無く歩いていると
宿屋のある区域とはまた別の意味で華やかな建物が並んでいる場所に出た。
「あの建物は……?」
「大勢の女性が、男性を誘っているようですが……」
「まさか……ここら一帯全部、娼館なのか!?」
「娼館……以前、人間の里に出向いたエルフから聞いたことがあります。確か、お金を払って女性と
如何わしいことをする施設がある……と。そうですか、此処が……」
「俺も存在は知ってたけど、まさか現物を見るとはな……」
「興味があるのですか?」
目は口程に物を言うとは、よく言ったもので……
シルヴィアが何か、もの言いたげな視線を俺に向けてくる。
「えっ!?いや、その……」
「ふぅん……そうですか。まぁ、主様も男性ですしっ!あぁいう場所に興味を持っていたとしても、
それは健全というものでしょうから、えぇ!私は何とも思いませんよ。思いませんともっ!
ですが、せっかく入手したお金をあぁいう場所で浪費するのは、いかがなものかと……」
「大丈夫!行かない、行かない!その……そういうことをヤって病気になる恐れもあるし、ぼったくり……
えっと、無駄に高い金額を支払わされる可能性もあるし、何より……シルヴィア程の美人が、
あぁいう場所に居るとは思えないからな。」
「主様……うふふ。ありがとうございます。」
町の散歩を続けるため、誘惑する女性の甘い囁きと、それに吊られて建物へ入っていく男性を横目に通りを歩いていると
宿とも娼館とは逆に、重い空気を放っている建物が目に留まった。
「ん?」
「どうしました?主様。」
「いや、前方の、あの店は何だろうと思って……」
「前方の………あの看板は……主様。此処はその……奴隷を売買する店の様です。」
「奴隷!?」
シルヴィアに言われて軒にぶら下げられた看板を見ると、首輪……足枷?と長い鎖の絵が描かれていた。
「マジか……やっぱり、そういうのも存在するんだな。」
「主様が以前住んでいた世界には、奴隷という制度は無かったのですか?」
「あぁ……俺の住んでいた町の周辺では無かったけど、同じ時代の別の国や、俺が産まれる前の時代では
戦争があり、敗戦国の人達を捕虜に……ってことがある、あったらしい。」
「そうですか……物の考え方というのは、どこの世界でもあまり変わらないのかもしれませんね。」
「シルヴィア。奴隷ってのは俺の身近には居なかったけど、書物を読んで大体の扱いは理解しているつもりだ……
けど、この世界の奴隷って、どういう扱いを受けるんだ?」
「そうですね……私も文献で読んだり、里に居た年上のエルフ達から聞いた話でしか知らないのですが……」
シルヴィアが言葉を続けようとしたとき、奴隷を売買する店の扉が開き、1人の屈強な男性と……
ボロボロの布の服を着た美人な女性が1人、店の中から出てきた。
「ん?何だぁ?兄ちゃん。隣に居る綺麗な姉ちゃんをこの店に売りに来たのか?」
「まさか!彼女は俺の大切なパートナーだからな。絶対に!誰にも譲る気は無いよ。」
「大切なパートナーって……主様……❤️ 」
「俺達はただ、この店が何なのか気になって見ていただけだ。」
「なんだ、そうかい。この店は良いぜ!エルフやリザードマンみてえな亜人種なら人間よりも高値で
買い取ってくれるし、同じような店の中では比較的リーズナブルな値段で買えるからなぁ。」
そう言いながら、屈強な男性は自分の後ろに居た女性を親指で指し示す。
「へぇ……それはちょっと、貴重な情報だな。」
「奴隷売買の値段に関しては他の店を存じ上げませんし、実際に売買の契約手続きをしたことが無いので
何とも言えませんが……私のような妖精種や亜人種など、人間以外の種族の方が高く売れるというのは
彼の言う通りでしょう。私達は人間よりも遥かに長生きできますから。」
「なるほど……その分、労働力として長期間運用できるんだもんな。そう考えると、爺さん婆さんよりかは
若い奴の方が高く売れるってことか……」
「えぇ。そういうことになりますね。」
俺が見た漫画の奴隷の中には、明らかに少年少女の姿も描かれていたが……そっか。
そりゃ成人よりも若ければ、主に奉公する時間も長くなるわな。
「奴隷を購入する予定は無いけど、お兄さんとシルヴィアのおかげでまた1つ知識が増えたよ。
ありがとうな。」
「いえ。少しでも主様の御役に立てたのでしたら、私は……」
「シルヴィア……?シルヴィアですって!?」
それまで男性の背後で黙っていた女性が、急に声を荒げて男性の後ろから俺達の前まで
やや慌て気味で現れた。
「そうですが……貴女は?」
「何言ってるのよ!?貴女、親友の顔も忘れたっていうの!?」
女性がそう言って、俺はそこで気付いた。
周囲が夜で暗いのと、今まで男性の体で隠れて良く見えなかったけど……この女性
シルヴィアと同じ耳をしている。
それでシルヴィアを『 親友 』と呼んでいたってことは、彼女はシルヴィアと同郷のエルフなのか。
「何だ?兄ちゃんトコのエルフはダークエルフだぞ?お前の仲間なワケねえだろうが。」
「この子は私達の里の掟を破って、禁断の書という物を読んだ副作用でダークエルフになっただけよ!
元は私達の仲間なんですから!ねぇ、シルヴィア!お願いっ!私を助けて!私達、親友でしょ!?」
必死な形相と作り笑いが合わさり、傍から見ると半笑いのような笑みを浮かべながら
男性の奴隷というエルフがシルヴィアに詰め寄る。
「…………どうする?シルヴィア。お前の好きにしていいんだぞ?」
「そうですか?……私があの時、禁断の書を読み、里から追放されたのは事実です。私自身、それは
仕方がないことだと思っています。代償は大きかったですが、この力のおかげで一時的とはいえ里を
守ることができましたし、それに……こうして私の生涯を懸けて、心から尽くしたいと思える殿方に
出会えたのですから。後悔など、微塵もしておりません。」
そう言ってシルヴィアは微笑みながら俺の左腕を引き寄せ、その豊満な胸の谷間に挟み込んできた。
おぉう……凄く柔らかい。役得、役得。
「そのことに関してはもう、本当にどうでも良いのですが……私が里を守ったあの日、この姿を見て
『 掟を破ったエルフ! 』と言いながら、それまで親友だった私の話を一切聞かず、少しも庇って
くれることもなく、それどころか他のエルフと一緒に石を投げて、『 里から出て行け! 』と
言っていた貴女を……どうして、私が助けると思ったのですか?」
「ぇ……?」
『 シルヴィアなら助けてくれる 』
……そう思っていたのであろう女性エルフの表情が一瞬で絶望の物へと変わり、顔面蒼白になる。
「たとえ追放が待逃れないものだったとしても、少しでも優しい言葉をかけてくださっていれば
私も今の貴女に対して、何とかしてあげようと思った……かもしれませんが、残念です。
残りの生涯を懸けてそちらの殿方に尽くしてから……地獄に堕ちなさい。」
俺の腕を引き寄せて先程まで微笑んでいたシルヴィアが、めちゃくちゃ冷ややかな視線を元・親友の
女性エルフに向ける。
「そ……そんな………嫌っ!嫌よっ!何で?ねぇ、何で!?何で里の掟を破った貴女が
そんなにも幸せそうで……里の掟を守り続けてきた私達がこんな目に遭わなくちゃいけないのよっ!?
おかしいじゃない!?」
「それに関しては私も同感です。うふふ。本当に……人生、どうなるか分からないですね。」
「そこの貴方!本当にシルヴィアと一緒に居て良いの!?その子、12歳までオネショをしていたような
残念な娘なのよ!?」
「なっ!?」
女性エルフの爆弾発言に、夜だというのにシルヴィアの顔が一気に赤くなったのが判った。
「あっ、あぁあ、貴女!何てことを言うのですか!?よりにもよって、主様の前で!
しかも、残念だなんて!」
「シルヴィア、今の話って……」
「主様!?まっ、真に受けないでください!そっ……そそそ、そんなこと、するワケないじゃないですか!」
めちゃくちゃ動揺してるな……おそらく、本当のことなんだろうなぁ
「まぁ、過去のことはどうあれ、俺はシルヴィアのことを大切にするって決めたんだ。
そういう揺さぶりをかけられても、彼女を見限るような真似はしねぇぞ。
たとえ、オネショをするような娘でもだ!」
「主様っ!最後のその一文は、余計ですっ!」
「話は済んだみてえだな。おらっ、行くぞ!ぐへへ……たっぷり可愛がってやるからな。」
「嫌ぁっ!奴隷は嫌ぁぁぁぁぁぁっ!くっ……覚えていなさい、シルヴィア!絶対に……絶対に
許さないんだからぁああぁぁぁっ……!!」
屈強な男性が持つ鎖の先に繋がれた鉄の首輪が引かれ、シルヴィアの親友と言っていたエルフは
泣き喚きながら、ズルズルと引き摺られて……路地裏の方へ消えていった。
「シルヴィア。さっき、聞きそびれちまったけど、この世界の奴隷の扱いって……」
「いろいろありますが、主に男性なら肉体労働が基本になります。それか冒険の荷物持ちや……
戦闘の際には最前線に立たされることもあります。女性の場合も戦闘に駆り出されることもあるでしょうが
主な役目はその……男性の性処理の相手だったりします。パーティに組み込まれることもあれば、
飽きれば路地裏に捨てられたり、先程見た娼館へ売られることも……」
「そ……そうか……じゃあ、さっきの子も……」
「おそらく……ふぅ。このようなことを言うと、性格が悪いかもしれませんが……少しだけ、
胸の内がスッとしたような気がします。」
「そっか。よかったな、思わぬ形でスカッとできて。」
「はいっ!」
俺の左腕に寄り添ったまま、可愛らしい笑みを浮かべるシルヴィアと、夜の街の闊歩を再開した。