ダーク・ファンタジー小説
- 待ち時間の小騒動 ( No.7 )
- 日時: 2024/05/02 21:12
- 名前: 柔時雨 (ID: ..71WWcf)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13011
アルガスの町・冒険者ギルド
俺とシルヴィアは売りに出したツインヘッドヴァイパーの査定が終わるまでの間、ギルド内にある椅子に
座り、テーブルの上にグレン殿から貰った世界地図の方を広げていた。
「それでは、主様!お勉強の御時間です。」
「うっす。よろしくお願いします、シルヴィア先生。早速なんだけど、俺達が今居る大陸ってどこだ?」
「その前に、主様。まず世界地図の方をご覧になって、気付いたことはありますか?」
「ん?そうだな……」
俺は広げられた地図に視線を落とす。
「東西南北にいびつな形の大陸がそれぞれ1つずつ……ひし形を描くように存在してるってコトかな?
それと、大陸と大陸との間隔がかなり広い……移動は長い船旅になるんだろうな。」
「はい!正解です。そして、今私達が居るのは、こちら。西の『 ヴェルスティア大陸 』です。」
そう言ってシルヴィアは地図の左端に描かれた縦長の島を指差す。
「なるほど。しかし、随分とちゃんとした地図が存在するんだな……測量がしっかりしてるっつうか……
そういうのを調べる組織ってのがあるのか?」
「確か王都に、魔法でそのようなことをする人達が居るという話を聞いたことがあります。ただ、私は
まだ王都に行ったことがないので……仮に行ったとしても、そういう仕事現場みたいなのは
見せてもらえないでしょうから、どこまで信じればいいのか?と訊かれると……返答に少し
困ってしまいますね。」
「そっか……いや、シルヴィアが謝ることなんて無いよ。とりあえず今、自分達の居る大陸が
どこか判ったし、そうだな……南西の方角の何処かに……」
「ん?何だ?この町のギルドには珍しい、美女が居るじゃないか!」
ギルドの扉が開き、金髪の優男が入って来るなり、シルヴィアを見つけたようだった。
絵に描いたようなちょっと馬鹿っぽい貴族風の男性は腰に長剣を携えており、背後に侍らせている
女性2人も
1人は細身の長剣と小さな丸い盾を、もう1人はハルバートを所持している。
「ごきげんよう、お嬢さん。本日は何用でこちらに?」
「主様。この後はいかがいたしますか?」
男性の話をガン無視して、シルヴィアが対面に座っている俺に話しかけてきた。
なので、俺もシルヴィアの問いに答える。
「そうだな……査定がいつ終わるか分からないし、また夕刻になったら昨日と同じ宿に泊まるか。」
「ふむ……では、必要な物の購入は、明日の朝でも問題無いですね。」
シルヴィアに華麗に無視され、ギルド内の所々でクスクスと笑い声が漏れる中、横目でチラッと見た
キザな男性の顔は、目に見えて真っ赤になっていた。
「こっ……このっ!僕を無視するなんて……大抵の女性は、僕が話しかけるだけで好意の視線を
向けてくるというのに……」
随分な自信だな。
自分で自分のことを格好良いと思える自信があるのは、純粋に凄いと思う……俺には、自分をイケメンと
言えるだけの度胸が無いからな。
「はぁ……先程から煩いですよ、下郎。貴方には微塵も興味がございませんので、どうぞ。
お引き取りを。」
シルヴィアは心底うんざりといった表情で深い溜め息を吐き、親友だったエルフに向けたような
絶対零度の視線で男性を睨みつける。
「なっ!?げ……下郎!?この僕を下郎だって!?」
「ははっ。言うねぇ、シルヴィア。」
「私は事実を言ったまでです。特に!軽薄で誠意の欠片が微塵も感じられないような男など、スライムの
ようなものですので。」
「シルヴィア……そいつぁ、スライムに失礼だろ。」
「あっ、そうですね。私としたことが。」
シルヴィアが地図を丸めながらそう言った直後、男性が携えていた長剣を抜き、テーブルを叩き斬った。
「ふざけるなぁぁぁっ!ここまで馬鹿にされて、駄目っていられるか!」
「おいおい。お前は既に2人、女を侍てるじゃねえか。あいつ等とヨロシクやってろよ。」
「うるさいっ!……ところで貴様、このダークエルフの美女を幾らで買ったんだ?」
こいつ、何を……って、そうか。
俺がシルヴィアを奴隷商から買ったと思っているのか。
無理もないか。シルヴィア、俺の事『 主様 』って呼んでくれるからな。
「…………その値段を言ったら、てめぇはどうするつもりなんだ?」
「倍以上の金額を用意してやる。だから、彼女をこの僕、『 ユーレウス 』に譲ってくれないか?」
「断固拒否するっ!」
まぁ、そうだろうと思ったので、俺はユーレウスの申し出を即答で断った。
同時に、至近距離に居るユーリウスのステータスを【 超解析 】で覗き見た。
【 ユーレウス 】 Lv・45
種族・人間
年齢・21
性別・男性
身長・182cm
クラス・ウォーリア
Range・前衛
職種・冒険者
移動ユニット・【 歩 】
属性・光
【 使用武器 】
〇 エストック
全長 : 80cm
重量 : 0.7kg
武器適正 : 剣術
【 ステータス 】
HP・190
MP・170
【 STR 】・120
【 VIT 】・90
【 INT 】・10
【 MND 】・60
【 DEX 】・80
【 AGI 】・150
<< 適正 >>
【 歩兵 】 A 【 騎兵 】 A 【 弓兵 】 D 【 海兵 】 A 【 空軍 】 F
【 魔導師 】 F 【 工作兵 】 F 【 商才 】D 【 間諜 】 F
【 軍師 】 G 【 築城 】 F 【 統率力 】 E
【 剣術 】A 【 短剣術 】A 【 槍術 】E 【 弓術 】D 【 格闘術 】F
【 銃撃 】G 【 投擲 】E 【 魔術 】F 【 召喚術 】G 【 防衛術 】C
【 生産職 】G 【 罠工作 】F 【 機械操作 】G 【 交渉術 】D
【 推理力 】G 【 軍略 】G
【 スキル 】
〇 魅惑のフェロモン 『 パッシブスキル 』
属性:-
消費MP:-
*【 MND 】の数値が500以下の異性を口説いた際、100%成功する。
* 異性の敵から受ける攻撃、魔法攻撃系スキルの威力を全て半減する。
「(弱っ!これが、この世界に活きる人間の基本的なステータスなのか……それとも、コイツが
特別弱いのか?【 INT 】なんて……ぷっ!ゴブリンと同等の数値じゃねぇか!後は……
なるほど。コイツが女性を侍らせているのはスキルの効果で、シルヴィアの【 MND 】が
コイツのスキルが示している数値よりも高かったから、効果が無かったのか。)」
ということは、ユーレウスと一緒に居るあの女達は、あんまり【 MND 】が高くないんだな……
「はぁっ!?なぜ断る!?彼女を手に入れた時の倍の金額を出すと言っているのに……」
「どれだけ金を積まれたって、俺はシルヴィアを誰にも譲るつもりはまったく無い!世の中には金で
解決できねえことだってあるんだよ!」
「ちっ……!ならば、強硬手段だ!既成事実さえ作ってしまえば……来いっ!僕無しじゃ
生きていけない体にしてあげるよ!」
そう言ってユーレウスがシルヴィアの手首を掴んだ瞬間……いや掴むって判っていたんだろうな。
気が付いた時には既に立ち上がっていて、ユーレウスの右頬に拳を叩きこんでいた。
「ぶるぉああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
奇声を発しながらユーレウスが錐揉み回転しながら吹っ飛び、ギルドの壁に叩きつけられた。
今のでHPが0になったのでは?と思ったが、ピクピクと痙攣しながら何とか起き上がろうとしている。
どうやら、今のは『 戦闘 』と見做されなかったようで、HPのやり取りも発生しないようだった。
「てめぇ……俺の、大切な女性に、汚い手で気安く触れてんじゃねえぞ、コラァ!」
「主様……♥」
俺は何とか座り込んだユーレウスの金髪を掴み、グイッと引き上げる。
「うぐっ……」
「今度同じ真似をしてみろ。俺のツヴァイハンダーで、てめぇの両手と、その両足の間に
ぶら下がってる粗末な棒を斬り落とすぞっ!大層な女好きみてぇだが……二度と生殖活動が
できねぇようにしてやるっ!」
「お……お前、僕にこんなことして……ただで済むと思っ……」
殴られて尚、大口を開けて抗議するユーレウスの口に、俺の隣に立ったシルヴィアが弓矢を構えて狙いを
定める。
「ひっ……!?」
「主様に抗議されるのですか?下郎の分際で……」
シルヴィアに睨みつけられ、咽の奥に銀色に光る矢で狙いを定められているユーレウスのズボンの股の間が
変色し、そこからゆっくりと黄金の液体が染み出してきた。
「あら?粗相ですか。」
「公衆の面前で女性に脅されて失禁か?……ぷっ、くく……無様だなぁ、おい。」
俺は掴んでいたユーレウスの髪から手を離し、シルヴィアと一緒に距離を取る。
「見ろよ。お前と一緒に居た女2人もドン引きしてるぜ。」
「まったく……一体、この者の何に魅かれて、一緒に居たのでしょう?理解に苦しみます。」
「さぁ?財力とかじゃねぇか?……さてと、もう充分醜態を晒したみてぇだし。今回はこれで
見逃してやる……とっとと俺達の前から消え失せろ!」
「ひっ!ひぃぃぃぃぃぃ!!」
ユーレウスは四つん這いの状態で手足をバタつかせながら建物から出て行き、一緒に居た女性達も顔を
見合わせた後、彼に続くように静かに建物から出て行った。
「ははっ、絵に描いたような小物っぷりだな。」
「うふふっ、そうですね。」
「ユーヤさん、シルヴィアさん。査定が終わりましたよ。」
名前が呼ばれたので、シルヴィアと一緒に受付カウンターへ向かう。
俺達がカウンター前に立つと、前回も担当してくれた受付嬢が笑顔で対応してくれた。
「悪いな、騒動を起こすつもりは無かったんだが……床も汚しちまって……」
「お気になさらないでください!実は、私も何度かアイツに言い寄られていて、迷惑していたんです。
なので今日、アイツの無様な姿が見られてスカッとしました!ありがとうございます。」
アイツ、女を見ると見境なく言い寄っていたのか……あんまり評判は良くなさそうだな。
「まぁ、アイツの粗相したものは後でモップで掃除するとして……こちらが、今回の報酬になります!」
そう言って受付嬢さんはパンッパンに膨れ上がった前回よりも大きな麻袋を1つ置いた。
「危険度Aランクモンスターであるツインヘッドヴァイパーの素材提供ということで、今回は
金貨3000枚で買い取らせていただきます。」
「「金貨3000枚!?」」
俺とシルヴィアは思わず声を上げて驚いてしまった。
前世で遊んでいたRPGでは3000円は初期費用だったり、読んでた漫画では主人公に金貨1000枚くらい
支給されていたし
『 1000 』という単位は割と良心的な枚数なのか?とも思えるけど……
確か、この世界の金貨1枚で10000円の価値があるから……30000000円だと!?
「ほっ……本当に貰っていいのか?コレ……」
「もちろんです!御二人はそれだけのことをしてくれたのですから。正当な評価と報酬です。それに……」
受付嬢の視線が、奥で豪快に酒盛りをしている冒険者達の方へ向けられる。
「あの人達はウチのギルドに加入している冒険者さん達なのですが……『 俺達に合った仕事が無い 』とか
言って、昼間からお酒を飲んでばかり。実績を積まなければ冒険者ランクは上がらないのに、
危険度の高いモンスター討伐がしたいなんて言っているんですよ。」
「まぁ……自分達の生活が苦しくなったら、本気を出すのではないでしょうか?それに、私達に
支払ってくださるような出費を頻繁にしないで済むと考えれば……お酒代の方は、笑って済ますことが
難しそうですけど……」
「シルヴィアさんの仰る通りかもしれませんね。あの人達が仕事に成功したときにでも、お酒代を纏めて
請求しようと思います。」
「お……おぅ。あのおっちゃん達のことは置いておくとして……本当に良いのか?ギルドに登録していない
冒険者の俺達がモンスター討伐をして、こんなに報酬を貰って……あのおっちゃん達だけじゃない。
他の冒険者の仕事を奪ってるような気が、今更ながらに思っちまって……」
「大丈夫です!仮にそのような事態になったとしても、依頼した冒険者達はクエスト失敗という事に
なりますが、罰則も何もありませんし、手数料が支払われます。その後、こちらで受けていた依頼を
取り下げ、依頼主に成功を御伝えするだけです。」
へぇ……この世界のギルドのシステムは、そんな感じなのか。
「その代わり!その内容が今回のモンスター討伐のような内容だった場合、なるべく早くギルドに
ちゃんと報告してくださいね。あと、虚偽の報告はいけませんよ?まぁ、素材の買取りに関しましては、
物的証拠を提示していただきますので、そのようなことは滅多にありませんが。」
「あぁ、もちろんだ。それじゃ……今回もありがたく、この報酬を貰って行くよ。」
俺はカウンターに置かれた麻袋を受け取った。
「またいつでもいらしてくださいね。御二人なら大歓迎です。」
「あぁ……今は懐が温かいから、自分達から進んで狩りをするつもりはないけど……」
「冒険の途中で仕方なく何か討伐した際には、また買い取りをお願いしますね。」
「はい!お待ちしております!」ニコッ