ダーク・ファンタジー小説
- 盗賊殲滅戦 ( No.9 )
- 日時: 2024/05/02 21:15
- 名前: 柔時雨 (ID: ..71WWcf)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13011
一夜明けて……【 創造 】のスキルで出した懐中時計で時間を確かめたところ、現在午前7時。
宿の主と衛兵さんに挨拶してから、少し遠出してそこそこ広い森へ、レベルアップがてら
モンスター討伐に訪れていた。
「森を訪れると、シルヴィアと初めて出会った時のことを思い出すな。」
「うふふ。そうですね。あのとき、主様が誘ってくださったときのこと、今でもハッキリと
覚えていますよ。」
一瞬断られた記憶もあるが、今、こうして仲間として隣を歩いてくれているんだし、
そのことをわざわざ口に出すこともないよな。
そんなことを思い出しながら歩いていると、前方の茂みが大きく揺れ動いた。
「ん?モンスターでしょうか?」
「あの叢の揺れ具合……仮にモンスターだった場合、そこそこ大きなモンスターか、
群れでの襲撃かもしれないな。」
俺とシルヴィアが戦闘態勢を取った目の前の叢と、周囲の叢から厳つい男性達が姿を現した。
殆どの男性がボサボサに髪を伸ばし( 中にはスキンヘッドやモヒカンヘッドの奴も居るが )無精髭を
生やして、ボロボロの衣服や防具を着用している。
そして……男達の手には、剣や鉞、短剣が握られている。
「おうおう!此処は俺達『 グラウザム盗賊団 』の縄張りだ。通りたければ、通行料として有り金を
全部置いていきな!」
いきなり出て来て、アホな要求をしてくる盗賊達を目の前に俺とシルヴィアは同じタイミングで
溜め息を吐く。
「なぁ、シルヴィア。」
「はい。」
「この世界で賊に襲われた際の対処法っていうのは、あるのか?」
「賊の扱いというものは、害獣やモンスターに襲われた時と同じです。私達の判断で処断して
構わないです……が、主様。先日、アルガスの町で少し話題に出ましたが、この世界には奴隷制度が
存在します。相場というものは詳しくないので判りませんが、関所などで引き渡すと、それ相応の
報酬が支払われる制度があったはずです。」
「なるほど……ただ、生け捕りにしたら、討伐した際の経験値って手に入らないよな?」
「そうですね。」
「おいっ!いつまでグダグダ喋ってやがる!有り金全部置いていくのか!?いかねえのか!?」
俺とシルヴィアが話していると、痺れを切らした盗賊の頭と思われる男が怒鳴ってきた。
「置いていくわけねぇだろ。何が悲しくて、俺達の大事な生活費をてめぇ等賊共にくれてやらなきゃ
ならねぇんだよ?」
「交渉決裂だな……おいっ!野郎共!!」
一際厳つい賊の頭が短く発した声を合図に、武器を持った数人の賊が俺達に向かって走り出す。
「ぎゃははははっ!!死にやがれぇぇぇっ!!」
「はぁ……」
俺はツヴァイハンダーを片手で持って横一閃に薙ぐように振り、先頭を横一列になって走って来ていた
3人の賊の腹部に等しく同じ斬り傷を刻みつけた。
「「「ぎゃあああああああああぁぁああぁぁぁぁぁっ!!」」」
血が噴き出た腹部を抑えながらその場で蹲ってしまった3人の賊の肩や腕に
俺の背後からシルヴィアが放った矢が突き刺さった。
追撃を受けた盗賊達が、更なる痛みに地面の上をのたうち回る。
「シルヴィア。」
「何でしょう?主様。」
「以前、シルヴィアと一緒にゴブリン共と戦った時も思ったんだけど……この世界の連中は、
弓の重要性を知らないほど、馬鹿なのか?」
「どうなのでしょう……?ですが、遠距離攻撃は攻撃系の魔法スキルがあれば事足りると思っている節は、
あるかもしれませんね。それに……私はまだ見たことありませんが、弓と同じように、
遠距離攻撃ができる『 銃 』という武器が、少しずつ世に出回っているそうですよ。」
「そっか……」
それでも魔法は呪文詠唱中は仲間に守ってもらわないと隙だらけになるし
この世界の銃のレベルがどれほどのもんかは知らない……ライフルやショットガンとかなら
どうかは知らないけど
もし、戦国時代の長篠の戦いで猛威を振るった火縄銃レベルなんだとしたら……
弾1発を撃った後、次弾を装填・発射するまでに時間がかかることを考えると
やっぱり、弓の方が強いんじゃないかと……どうしても思ってしまう。
「くそっ……おいっ!てめぇ等!何を怖気付いてやがる!こうなりゃ数で押し切れ!!」
「「「「「へいっ!!」」」」」
盗賊の頭の背後に居た賊達が武器を握りしめ、正面から俺達に向かって突っ込んでくる。
「ちっ……馬鹿の一つ覚え見てぇに。」
「しかし、正面から来てくださるのはありがたいです。主様、先程と同じように、確実に対処して
いきましょう。」
「あぁ、そうだな。」
俺とシルヴィアが身構えた直後、盗賊達は足を止め……俺の少し後方から短い悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁっ!」
「っ!?シルヴィア!?」
勢いを付けて後方へ振り替えると、森の中の離れた茂みから迂回してきたのか……賊の仲間と思われる
屈強な男が1人、シルヴィアを羽交い絞めしていた。
全然気づかなかった……
シルヴィアも……気付いていたかもしれないけど、弓の弦を引き絞っている最中で、
対処できなかったのかもしれない。
移動しているわけでもなかったから、彼女のスキル【 森林の先駆者 】の【 隠密効果 】も
発動しなかったのだろう。
ただ正面から突っ込むだけの賊かと思っていたど、隠蔽魔法かスキルを使えるくらい賢い奴も居たのか……
くそっ!人数が多かったからって、最初に【 超解析 】を使って連中のステータスを見ておかなかったのが
裏目に出た!
「頭ぁ!やりやしたよ!」
「おうっ!よくやったぁ!!」
「くっ……このっ……!触らないでください、下郎っ!」
「ぐっへっへ……ダークエルフってのを初めて見たが……めちゃくちゃ可愛い顔してるじゃねえか!
胸も尻もデカいし……頭ぁ!俺、何だかムラムラしてきやした!」
「馬鹿野郎!そんなに上玉なら、まずは俺に楽しませろやっ!その後、お前にもヤらせてやるからよぉ!」
「へぇい……」
「まったく……おいっ!そこの黒鎧のお前!その嬢ちゃんは頂いていくぜ!俺達無しじゃ
いられない身体に調教してやるよ!けどまぁ、俺も鬼じゃねぇ。どうしても離してほしいってんなら、
まずはその武器を捨てやがれ!!」
「…………」
俺は賊の頭に言われた通り、握っていたツヴァイハンダーを地面の上に落とした。
「がっはっは!金の時とは違って、えらく素直じゃねぇか!」
「金はてめぇ等にくれてやるのが嫌ってだけで、無くしてもまた稼げばいい……けど、シルヴィアは
替えの利かない、俺の大事な女性だからな。シルヴィアの身の安全を約束してくれるなら、
俺は喜んで自分の武器を捨ててやるよ。」
「主様…… 」
「そうかい、そうかい。まぁ、何にせよ……そこを動くなよ!野郎共!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
賊の頭の声を聞き、一時的に足を止めていた賊達が俺に向かって再び走り出し、手に持っていた
剣・短剣で、俺の影の鎧で守られていない箇所を刺してきた。
HP 86000 → 85360
当然だけど刃物で突き刺されたことによりHPが減少し、同時に刺された場所と、口の右端から血が
流れ出てきた。
「ぐふっ!」
「主様っ!!」
「大丈夫……俺はまだ、大丈夫だ……この程度、シルヴィアを危険な目に遭わせちまった自分への
罰だと思えば……問題無い、耐えられる。」
羽交い絞めされながら悲痛な声を上げるシルヴィアに対し、俺は口の端から血を流しつつも、
優しく答える。
それと同時に
【 スキル『 Revenge the Nightmare ( リベンジ ザ ナイトメア ) 』を習得しました。 】
というメッセージ画面が、目の前に表示された。
「新しいスキル……なら、この状況を打破できるかどうか……早速使ってみるか……」
俺は説明文を見る前に、魔法を使用してみた。
すると、俺の全身を紅と黒が混ざった色のオーラが包み込むと同時に、猛々しい馬の嘶きが周囲に
響き渡り……
オーラと同色の闇で作られた馬が、俺に剣を突き刺している賊の人数と同じ数出現し、賊達の腹部に
突進して……そのまま駆け抜けて行った。
「「「「「ぐはああああああああぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
闇で作られた馬の突進を受けた賊達が、外傷は無いのに腹部を抑えながら後方……俺から見て前方へ
大きく吹っ飛んだ。
「なっ……!?何だ!?今の黒馬は……?てめえ!一体、何しやがったんだ!?」
「さぁな……俺だって、初めて使ったんだから……」
俺は自分に突き刺さった剣を引き抜きながら、たった今習得した魔法の内容を確認する。
〔 使用魔法 〕
〇 Revenge the Nightmare ( リベンジ ザ ナイトメア ) 『 特殊攻撃スキル 』
属性:闇
消費MP:10
攻撃威力:-
攻撃範囲:G ~ SS++
射程距離:G ~ SS++
*自分の全身に闇のオーラを纏わせ、自分にダメージを与えた敵に向けて馬型のオーラを放って反撃する
カウンター系魔法スキル。
*馬型のオーラは自分にダメージを与えた敵に当たるまで戦場を駆け巡り、敵に与えるダメージは
自分が受けたダメージを3倍にしたものになる。
*近距離でダメージを受けた直後に発動した場合のみ、カウンター効果が適用される。
魔法攻撃、矢や銃弾などの遠距離攻撃をカウンターする場合は、事前にオーラを展開しておく必要がある。
*効果は1度オーラを展開してから、1分間持続される。
3分のクールタイムの後、再度使用することができる。
「なるほど……やられたらやりかえす……倍返しだ!ってヤツか……それも、3倍返し……」
1刺し、1刺しの威力は判らなかったけど、俺に剣を突き刺した盗賊達は俺が受けた痛みを3倍にした
痛みを受けたんだ。
外傷は無いけど、もしかしたら、体の内側からダメージを受けてショック死してしまったのかもしれない。
「さてと、次は……」
俺はスキル・【 影の鎧 】の効果を発動し、自分の身体を影の中へと沈ませていく。
「なっ!?何だ、アイツ!!人間のはずなのに、影の中に溶け込んでいきやがる……!」
「何だ?もしかして、自分の仲間の女を置いて逃げるつもりなのか!?がはははははっ!
とんだ腰抜け野郎だな!でもまぁ、これで……俺達は上玉の女を手に入れることができたってわけだ。」
盗賊共の笑い声を無視して、完全に体を影の中に潜ませて、ふっと顔を上げると……地面の中から
地上の様子がぼんやりと透けて見える。
あれ?これって……女性のスカートの中身、覗きたい放題なんじゃね?
「( それはいずれ楽し……考えるとして、そんなことよりも今は…… )」
俺は地上の様子を確認しながら、シルヴィアを羽交い絞めしている賊の背後まで移動していく。
「ひっ!あいつの影が、俺の影と同化しやがった!!」
賊がそう言うってコトは、俺の影は見えている状態ってことなんだよな?
地上に居る奴等から見ると、俺の影だけが蛇行して移動しているように見えてるんだろうか?
「( まぁいいや。あいつの影と同化したってんなら…… )」
俺はシルヴィアを羽交い絞めにしている賊の背後から、わざとらしくゆっくりと頭だけを出現させる。
「てめぇ、コラ……いつまでもそんな汚い手で、俺の大事な女性に触れてんじゃねぇぞ……」
「主様!」
「ひっ!ひぃぃぃぃぃっ!?」
「悲鳴を上げる前に、早く離せっつってんだよ!【 我流東雲家護身用体術・三千年殺し 】!!」
地中を蹴って勢い良く影の中から飛び出し、合わせた両手から突き出した計4本の人差し指と中指を
シルヴィアを羽交い絞めにしていた賊の尻の穴に……ズボン越しに突き刺した。
「ぐっほぉぉぉぉ!!お……俺は、アブノーマルじゃ……ねぇ……」
世間一般にいう『 カンチョー 』をされた賊が、シルヴィアから手を離し……尻を突き出すような
姿勢でうつ伏せに倒れた。
「シルヴィア、すまない。助けるのが遅れたな。」
「そんなっ!私なら大丈夫です。主様なら、必ず助けてくださると信じていましたから。」
「はは……期待に応えられて、安心した。」
「それよりも、主様……こちらを。」
「おう。ありがと。」
俺はシルヴィアが拾ってくれたツヴァイハンダーを受け取り、シルヴィアは俺に剣を渡した後、
弓に矢を番え
そして……ほぼ同時に残りの賊達を睨みつける。
「くそっ!仕切り直しか……野郎共!何が何でもあいつ等を始末しろっ!」
盗賊の頭はやや怒気を含めて発言したが、残った盗賊達が少しずつ後ずさりを始める。
「あ……あれ?おっ、おい!お前等!?何で後退を……」
「冗談じゃねえ!今回は相手が悪かったんだ!」
「俺達はまだ死にたくねえ!これ以上続けるなら、御頭1人でやってくれ!」
「はぁっ!?ふざけるな!そんな勝手な真似、許さねえぞ!!」
俺達の目の前で、盗賊達がしょうもない口論による仲間割れを始めた。
「私達そっちのけで口論ですか……どういたしますか?主様。」
「このまま連中を放っておいても、『 盗賊団 』は解散するだろうけど……俺達が許してやる義理も、
見逃してやる義理も無いよな?」
「えぇ、まったく……その通りです。」
そう言いながらシルヴィアが放った5本の矢が1本ずつ、逃げる5人の盗賊の肩や背中、足に突き刺さった。
「なら……俺もスキルを発動させるかな。」
俺もシルヴィアの隣で【 Soul of Centaur 】を発動させ、闇で馬の身体と脚を造形する。
「……先程のナイトメアといい、そのケンタウロス状態といい……主様の魔法系のスキルは、
馬絡みの物が多いのですね。」
「確かに。今のトコロ、そうだな。これから先、違うモンスターの力とか借りることになるんだろうか?
まぁ、今はそんなことよりも……乗れ、シルヴィア!一緒に目の前の連中を粛正するぞ!」
「はいっ!私達に挑んできたことを、泣いて後悔するが良いですっ!」
質量のある闇で作った馬の身体にシルヴィアが乗ったのを確認し、勢い良く地面を蹴って
統率がグダグダになった盗賊達との距離を一気に詰める。
「……ん?おいっ!何だ!?あれ!」
「やべぇ!あいつ、あんなこともできたのかっ!?」
「逃げろっ!殺されちまう!!」
「おっ、おい!お前等落ち着け!!あんなの、ただの見掛け倒しだ!逃げてねぇで、戦いやがれっ!」
「連中、逃げ出したか……シルヴィア!俺のツヴァイハンダーから逃れた連中を頼む!」
「承知致しました!」
俺はツヴァイハンダーを『 ∞ 』の形を描くように振り回しながら、通り抜け様に剣の軌道上に居た
賊達を斬りつけていく。
「ひいぃぃっ!やっ、やばい!アイツが来たぁぁぁ!」
「狼狽えるな!あいつに対して直角に逃げるんだ!」
そう言った1人の賊が、俺の正面から向かって左側にある叢へと駆け込もうとした。
「そうさせないために、私が居るのです。うふふっ……残念でしたね。」
「しまっ……」
叢に駆けこもうとした賊の背中に、シルヴィアが放った3本の矢が突き刺さる。
矢を受けた盗賊が、短い苦痛の声を上げながら、ゆっくりとうつ伏せに倒れた。
「くそっ!あいつ等、好き勝手やりやが……ひぃっ!」
仲間を見捨てて逃げようとしていた賊の頭の目の前に回り込み、ツヴァイハンダーの刃の
先端を喉元に突き付ける。
「てめぇ……さっき、シルヴィアが羽交い絞めにされていた時、自分で何て言ったか……覚えてるか?」
「え?さっ、さぁな……」
「そっか。なら、記憶力は0点っと……安心しな、てめぇが覚えてなくても、俺が覚えてる。
『 そんなに上玉ならまずは俺に楽しませろや! 』『 俺無しじゃいられない身体に調教してやるよ』
だっけか?クソがっ!そんなふざけたことを言っちまった時点で、てめぇの末路は決まったんだよ!」
俺がツヴァイハンダーを振り上げた瞬間……
パンッ!という破裂音が聞こえたのと同時に、俺の鎧に何かが当たったのかチューンッ!という弾き
飛ばす様な音が聞こえた。
「…………っ!」
「何ですか、今の音は!?主様、お怪我は!?」
「あぁ……問題無い。さっき剣でめった刺しにされたところ以外の傷は無いよ……でも、今のは……」
ふっと視線を盗賊の頭より遠くの方をへ向けると、賊が1人、銃を構えていた。
銃口からは白い煙が立ち昇っている。
「おっ!おいっ!お前!銃を使うなら使うで、ちゃんとあいつを仕留めやがれ!」
「へっ……へい!すいやせん、御頭!」
「あれが銃ですか……初めて見ました。」
「あぁ……俺も実物は初めて見た。」
ただ、FPSとか呼ばれる銃火器でドンパチするようなゲームに出てくるような最先端な銃ではなく
賊が持っているのは、歴史の教科書や戦国時代をモデルにしたゲームをしている時に見た、
火縄銃……ならば
「シルヴィア。今のうちに賊本人でも銃本体でもどっちでもいい、好きな方を射抜いてくれ。」
「えぇっ!?大丈夫なのですか?反撃されてしまったら……先程の弾というのですか?目視できなかった、
あの攻撃を回避できる自信はさすがに……」
「あのタイプの銃は次の弾を撃つまでに時間が掛かる。たぶん、シルヴィアが弓に矢を1本番えて放つ方が
断然早い。」
確か、1発撃ったら、あの筒の中を掃除して、火薬を詰めて、弾を詰めて、火縄に火を点けて……みたいな
次弾を発砲するまでに、かなりの手順を踏まないといけなかったはずだ。
「大丈夫、俺を信じてくれ。」
「主様……承知致しました!」
俺の馬の背中の上でシルヴィアが弦を引き絞っているのだろう。
キリキリという微かな音が、俺の耳に入って来る。
「この臭い……火薬という物ですか?失礼ながら、私はこの臭いを好きになれそうにありません。
このような危ない臭いを放つ代物……二度と使えなくしてさしあげますっ!」
シルヴィアはそう言いながら放った1本の矢が、賊が次弾を装填しようと立てていた銃を粉々に砕きつつ
そのまま貫通して銃を所持していた賊の膝に突き刺さった。
「なっ!?ぐあぁぁぁっ……!」
「なっ……何てことしやがる!?俺達の全財産をはたいて、やっと……やっと、この1丁を買うことが
できたってのに!!」
「あら?そうだったのですか。なら、それが使えなくなった今、貴方達に遠距離から主様を狙う手段が
無くなったということですね。主様!」
「おうっ!処刑……執行!」
「は?え?しまっ……おいっ!待っ……!」
俺はツヴァイハンダーを振り下ろし、何か言おうとしていた盗賊の頭の首を刎ねた。
刎ねられた賊の頭の頭部が宙を舞い……切断された首から血を噴出させた身体が先に
ドサッと倒れた後
ドシャッと音を立てて賊の頭の頭部が落ちてきた。
「断罪……完了!ふぅ……やっと終わった。」
「そうですね……では、主様!今すぐ鎧を解除して服を脱いでください!先程受けた傷の手当てを
致します!」
「あ……あぁ、そうだった。忘れてた。」
俺はまず【 Soul of Centaur 】を解除し、次に【 影の鎧 】を解除して、最後に服を脱ぐ。
「あぁぁ……酷い刺し傷……」
「まぁ、見た目の割にそこまでダメージが無かったけどな。HPもそんなに減ってない。」
「そうなのですか?ですが……少なからず痛みは感じたはず。申し訳ございません……
油断をしたつもりはなかったのだが、私のせいで……」
「気にすんな。えっと、その……ちょっと違うけど、憧れてた『 身を挺して好きな女性を守る 』
みたいなことができて、実は満足してたりする。」
「そう言ってもらえるのは、とても嬉しいです、が!その度に主様が傷を負う光景を見せられていては
気が気ではありません!今後はできるだけこのような真似を控えてください!私も、注意散漫に
ならないよう、気をつけますので……」
「シルヴィア……わかった。約束するよ。」
「えぇ!約束です。それでは……【 Perfect Cure 】!」
シルヴィアが俺が傷を負った箇所にそっと手をかざしたのと同時に、緑色の光がポゥ……と小さく灯り
俺が受けた傷が消え、HPが回復していくのが感じられる。
「お……おぉ。傷が癒えていくのが分かるよ。」
「そうですか。良かった……」
「シルヴィア、ありがとな。これからも、頼りにさせてくれ。」
「主様……はいっ!もちろんです。遠慮せず、私に頼ってくださいね。」ニコッ
俺が軽く頭を撫でると微笑み返してくれたシルヴィアに感謝しながら、西の地平線に日が
沈んでいくのを視認した。