ダーク・ファンタジー小説

第7話 #1 ( No.40 )
日時: 2021/06/24 07:27
名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014

「散らかってるけど、ゆっくりしていけよ」
 ヴィルは、気前良くそういうと僕を家にあげた。
 ヴィルが暮らしているのは、小さなアパートメントの一室だった。そこそこ散らかった部屋は、いかにも男一人暮らしといった感じで、所々にある設計図やら工具が、とても彼らしい。
「アポなしで来るなよな。なんも用意してねぇよ」
「…ごめん」
「真に受けるなって!頼ってもらえて嬉しいんだぜ?」
 ヴィルは、コーヒーを淹れながら言った。
 相変わらず、僕は彼にとってはかわいい弟分らしい。
「で?何があったんだよ」
「…なんでわかったの?」
 僕は驚いてヴィルを見た。彼は別にどうとでもないという風にコーヒーを僕の前におく。
「おまえはすぐ顔に出るんだよ。見ればわかる。で?どうしたんだよ」
 僕は口籠もってしまった。
 なんて説明すれば良いんだろうか。どこから説明すれば良いんだろうか。そもそも信じてもらえるのだろうか。
「……伊藤さんの様子が変なんだ」
 結局、僕はヴィルに何もかも話すことができなかった。
 ヴィルは驚いた顔で僕を見て、それから静かにコーヒーを啜った。
「ロッカの様子が変ってどんなふうに?」
「なんていうか、目がギラギラしてるっていうか…」
 ヴィルはコーヒーの入っていたカップをクルクルと回す。
「俺なんかよりも、アラタの方がわかるんじゃねぇの?おまえが1番付き合い長いだろ?」
「ううん。俺もみんなとそう変わらないんだ」
 僕と六花は、同じクラスだったけれど、ここに来るまであまり話したことがなかった。僕も六花のことをあまり知らない。
「ま、困ってる時はお互い様だな。仲直りできるように協力してやるよ」
「別に喧嘩は、してないよ」
「よし!任せとけよ!」
 ヴィルは豪快に笑いながら、僕の背中をバンバンと叩く。この様子だと、僕の話は聞いていなそうだ。
 僕は小さなため息を吐いた。