ダーク・ファンタジー小説
- 第2話 #1 ( No.5 )
- 日時: 2021/04/04 16:01
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
カーテン越しに朝日が差し込む。僕は、かすかに目を開けると、静かに起きあがった。
見渡すとそこは見慣れた自室ではなく、一昔前と今の外国を足して割ったようなリビング。石畳みに印象的な柱時計やランプが並ぶ。所々に金属質な歯車が回っているが、この歯車がどのような役割を果たしているのか、僕には全くわからない。
寝ていたソファから立ち上がって、カーテンを開ける。爽やかな朝日が部屋中に広がる。大きく伸びをした後に、パーカーを着た。
僕がこの部屋で目が覚めたということは、昨日の出来事は夢ではなかったのだ。いや、もしかしたら、長い夢を見てるのかもしれない。もう一回寝たら、次に目が覚めた時は自分の部屋で、何もかもいつも通りなんてこともあり得る。むしろ、そうであってほしい。
「おはよう、新くん」
そんなことをグルグルと考えていた僕に、伊藤が声をかけた。いつも結っている長い黒髪は下されている。
「朝、早いんだね。なんとなく、新くんは朝弱いと思ってた」
「おはよう。その…、伊藤さん、名前…」
伊藤とは、そんなに仲が良いわけではない。クラスメイトと言っても、話したことも数えるほどしかなかった。それがいきなり、名前呼びだ。これで戸惑わない男子はいないと思う。…あくまで、僕の持論だが。
「私さ、自分の名前好きなんだよね。」
「そうなんだ」
「そうなの。ロッカってひびきが、すごく好きなの。だから、誰かに名前呼ばれるのも好き。でもここでは、新くんと2人だけでしょ?私が名前で呼べば、新くんも下の名前で呼んでくれるかなぁ、なんて」
そんな急に呼べるわけないだろ。戸惑っている僕を見て、伊藤はにっこりと笑った。
「ベット譲ってくれてありがとう。おかげでよく寝れた」
「ならよかった。朝ご飯作るから待ってて」
「ありがとう。新くんきっと、いい旦那さんになるね」
顔が火照るのを感じて、僕は慌ててキッチンに向かった。
もしかして伊藤は、昨日から僕をからかって楽しんでいるのだろうか。それなら、いちいち反応するのも馬鹿らしい。こんなに照れる必要もきっとない。これはきっと、伊藤なりの距離の詰め方なんだ。
- 第2話 #2 ( No.6 )
- 日時: 2021/04/04 16:02
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
今まで誰かが住んでいたのか、この家は全体的に小綺麗だった。このキッチンもそうだ。わずかだが、食料もある。
パンをオーブンに入れて少し焦がし、ベーコンを薄く切る。卵もあるが、いつのものかわからない以上、あまり使いたくはない。
ベーコンに火を通して、トーストの上にのせる。あまりにも簡易的だが、朝食のできあがりだ。
「美味しそう!」
伊藤は嬉しそうに、トーストにかぶりつく。
「伊藤さん、これはすごく大事な話しなんだけど」
「なに?」
「食料、残り少ない。だけど、俺たちはここのお金を持ってない。」
信じたくないが、いきなり異世界に来た僕等は、もちろんお金なんて持っていない。このままでは、帰る前に餓死することになる。
「なんとかなるよ。そうだ、お店開こう!運が良いことに、家はあるんだし!」
あまりに突拍子のない話しに、僕は伊藤を二度見した。
「お店って…、なんの店をするつもり?そもそも、ここも誰かの家だし、お店を開くなら申請とかしないとダメなんじゃない?」
「新くんは真面目だな。異世界なんだよ?大丈夫だって」
さすがに楽観的すぎやしないか。わけがわからない異世界だからこそ、慎重に行動するべきだと言うのに。
「お店は、なんでも屋にしよう。開店準備、あんまりいらなそうだし」
「本気で言ってる?」
「本気だよ。帰るためには、まずここで生活できるようにしなきゃ。」
伊藤は伊藤なりに考えて、そして行動しているのだ。彼女の目には、並々ならぬ決意が浮かんでいる。
「わかったよ。じゃあ、準備しよう。看板作るくらいは、やらないと」
「!ありがとう、新くん!」
僕は喜ぶ伊藤を尻目に、物置きへ向かう。昨日この家を探索した時に、ガラクタの置かれた部屋を見つけた。そこなら適当な看板の材料があるだろう。
「店の名前、どうするの?」
ついて来た伊藤に声をかける。伊藤は、ワクワクとした声でこたえた。
「もう決めてるの。きっと新くんも気にいるよ」
- 第2話 #3 ( No.7 )
- 日時: 2021/04/04 16:10
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
いらなそうな少し形のいい鉄板に、いらなそうな歯車を貼り付ける。その上部に、落ちていた鎖を取り付け、下部には埃を払って綺麗にしたミニランプを取り付けた。
こうして作った看板には、鋭い小刀で文字を掘る。どういう原理なのか、この小刀には小さなボタンがあり、それを押すと電流なさが流れる。そのおかげで、文字入れは比較的簡単に行えた。
ダイニングにある椅子を持って外に出る。その椅子を踏み台にして、看板を取り付けた。
『なんでも屋 歯車の時計』
これが僕等の店の名前。あの家の時計と歯車が、印象的だからだそうだ。
「お客さん、たくさん来るかな」
「来てもらわないと困るよ」
「そうだね」
そう言って、伊藤とできるあがった看板を見つめた。
この店の始めてのお客さんが来るのは、この次の日のことだった。