ダーク・ファンタジー小説

Re: 渇望の死察(デッドサーチ) ( No.1 )
日時: 2021/08/18 02:25
名前: しいら! (ID: Z7zUYNgK)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13106

プロローグ 


人に生命があるかぎり、人は死ぬ。ずっと、そう思っていた。だって、それが常識なのだから。人は命が尽き、魂が冥界へと昇る。そして「天国」と「地獄」に魂が分かれる。生命ある時に善を多く働いた者は「極楽」である「天国」、生命ある時に悪を多く働いた者は「極苦」である「地獄」
にそれぞれ向かう、と。ずっと前に父が教えてくれた。それで、納得していた。あの出来事で、僕の常識が覆される前までは…。


第1話 死ナキ世界


響く目覚まし時計。眩しい太陽。あぁ、いつもの朝だ。そう考えながら太陽の光を浴びて、服を着替え始める。何も変わらない、いつも通りの朝を迎えられた自分に安心した。

僕の名前は双真。来瀬双真くるせそうま。19歳の大学1年生だ。僕には何の取り柄もなく、ただただ平凡な人間。生まれて、小、中、高と順に学校を卒業していって、これまで何の大事もなく生きてきた。

だけど…。

僕には2つ、今まで生きてきて「引っ掛かること」があるのだ。1つは、僕が小学6年生の頃、僕の実家の向かいの家が火事にあった時だ。来瀬家と向かいの家は昔から仲が良く、ある日親が不在で向かいの家に泊めてもらった時、向かいのおばさんに、「赤く燃える炎」が薄く見えていたのだ。
その時は気にも留めていなかったが、その翌日に火事が起こり、向かいのおばさんは亡くなった。「気にしすぎじゃない?」と親には言われたが、やはりその記憶はいまでも引っ掛かる。夢にも出るほどだった。

もう1つの「引っ掛かること」は、親がやたらと「死」を自分に、叩きこむように教えることだった。「人は死んだら魂となって、天国か地獄に行く」とか、「人は死んだら身内が弔う」とか、当たり前の常識をやたらと教え込まれていた。何故あそこまで叩き込んでいたのか、今でも引っ掛かっていた。

そんなことを考えながら、来瀬は大学へと向かった。



時は経ち夜。来瀬は苦手な教科の課題を遅くまでやっていたため、疲れていた。

(早く帰って寝たい…)

そんなことをを思いながら、疲れた足を何とか動かして、帰路についていた。
そしてやっとの思いで家であるアパートにつき、扉の鍵を開けたようとした、
その時—。

ドゴォォォォォン!

突然そばで轟く様な爆発音が聞こえた。何が起こったと思い、振り向こうとした時、足がふわっと浮いた感覚がした。

アパート2階の足場が崩れていたのだ。

気づいた時にはもう遅く、来瀬は崩れた足場と共に1階へと落下してしまった。

(なっ、何が起こってるんだ…)

辺りをよく見てみると、アパートの向こう側が完全に焼落ちていた。焦りと恐怖を覚えつつも、何とか正気を保ち、 

(早く消防署に連絡を…!)

という考えに至った。そしてスマホを出し、119番に連絡をしようとしたその時だった。

「見つけましたよ」

突如、声がした。

「死を秘める者…来瀬双真」

「…え?」

訳が分からなかった。何故この人達は燃えるアパートを目にして通報しないのか、そして、今の言葉…

(死を…秘める…?)

訳が分からないことだらけだったが、来瀬は困惑の他に、もう1つ、「恐怖」を覚えていた。

拳銃を突きつけられていたのだ。

今すぐここから逃げだしたかったが、さっきの落下の衝撃で足を痛めてしまっていたのだ。

「やっと、見つけましたよ。随分と探すのに時間がかかった…」

「大人しく、私たちと来てもらいましょうか」

男はにっこりと笑い、注射器のようなものをポケットから出し、来瀬の首に刺そうとした。

「これでやっと…”あの力”を…ッ!」

そう男は言い、注射器を来瀬の首直前にまで持ってきた。来瀬は恐怖と痛さで声が出ず、助けさえ求められなかった。

何をされるか分からない恐怖が来瀬を包み込み、もうだめだ、と思った瞬間だった。

「そこまでだ」

前から声がした。男も振り向くと、

「貴様ら…ユグドラシルかッ…!」

と憎む声で言った。

「来瀬双真は…俺らが”保護”する!」

そう言って、彼らは僕らに近づいた。


           次回 第2話