ダーク・ファンタジー小説

Re: 渇望の死察(デッドサーチ) ( No.3 )
日時: 2021/08/20 23:40
名前: しいら! (ID: Z7zUYNgK)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13106

第3話 your Destiny(君の運命)


…昨日。
僕の当たり前の日常は、「とある人達」によって一変した。運命的な出会いでは無いと思う。だけどその人達のおかげで、僕は知ることができた。今まで分かったつもりでいた自分自身の正体を、そして昨日僕をさらった「彼ら」の正体、僕をさらったその理由、そして、
これからの僕の運命…

全ては、1時間に遡る…


【1時間前】


「…うぅ」

激しい頭痛と共に少年は目を覚ました。彼の名前は来瀬双真くるせそうま。大学に通っている、ごく普通の19歳だった。
昨日までは…。

来瀬は激しい頭痛を堪えながら、なんとかベッドから起き上がった。すると、

「…目が覚めたか?」

右から男の声が聞こえた。振り向くと、そこには椅子に座った男がいた。

「昨日は長時間に渡って常にうるさかったから…頭痛がするのも、無理はない」

「現に俺も頭痛がする…」

急に起きたためか、いまいち状況が掴めてい来瀬に対し、

「コーヒー、飲むかい?眠気覚ましには、いいと思うのだが」

と、男が来瀬に対しコーヒーを差し出した。それを受け取った来瀬は、両手でカップを持ちコーヒーを飲んだ。

「うまいだろ?坂枝さかえだが入れたコーヒーだ。流石、喫茶店の娘だよな…」

「…美味しいです」

「…で、起きて早々悪いんだが、「下」に集まってもらえないか?」

「俺達の拠点はここの下にあるんだ…もちろん、急げとは言わない。ゆっくりでもいいから来てくれ」

と言い残し、「彼」は立ち去ってしまった。これから何が始まるのか、来瀬はそれとなく見当がついていた。


やがて、来瀬は彼の拠点である「下」に辿り着いた。

「来たね。そこに座ってくれ」

そこには、4人ほど男女が座っていた。そこには昨日出会した彼の仲間もいた。そして来瀬は言われた通りにその場にあった椅子に座った。”不安”を感じながら。

「…改めて」

「ようこそ。”死望体保護及び死霊体対策組織しぼうたいほごおよびしりょうたいたいさくそしき”ユグドラシルへ」

「…え?」

来瀬は余りにも長すぎる名前とよく分からない名前の意味に困惑して声を漏らしてしまった。

「はは、無理はない。こんな長い名前、最初に聞いたら困惑するのも当然だ」

「…昨日のこと。本当に申し訳なく思っている。何も話さずに君を引き連れてしまった」

「…大丈夫です」

「俺の名前は出岡風人いずおかふうと。ユグドラシルの一員だ。一応、リーダーとしてみんなを引っ張っている身だ」

「…俺の口から、話そう。何故、俺らが君を保護したか。そして、君の正体を…」

「え…?」

「まず初めに…単刀直入に言おう。君は”普通の人間ではない”」

「そして、それが君を保護した理由だ…」

「どういう…ことですか?」

「…ここにいるみんなも、君と同じく、普通の人間ではないのだ。もちろん、俺も」

「来瀬…君は昨日、俺が放つ光線ビームを見たよね?」

「…はあ、あのどす黒い光線ビームですよね?」

死術デッドスペル死射デッドランチャー…対象に黒い光線を放ち、対象を死に近づける…死術デッドスペル…この能力こそが、君の”正体”なんだよ」

「あの…”死期が見える”やつですか?」

死察デッドサーチ…対象を”よく見る”ことで、死期を見定めることができる…このような、対象を死に近づけるような技を持つものを死望体しぼうたいと呼ぶ。君も、その1人なんだ」

「そして、もう一つ。君は、とある”特殊体質”を持ち合わせている。”異種体”と呼ばれるものだ」

「異種体…?」

「…来瀬。君はこれまでに、命に関わるような体験をしたことはあるかい?」

急に聞かれたので、少し黙り込んで考えたあと、

「…いえ、無いと思います。なにせ、平凡な暮らしをしていたので…」

と答えた。

「来瀬。君は”死ににくい体質”なんだ」

「死ににくい…体質?」

「人は病気や怪我などを患って、それが致命傷であった場合、死に至る。もちろん、来瀬もそうだ」

「だけど、来瀬…君はその体質の影響で、死を遠ざける力を持つらしい。俺達は、そんな体質は持ち合わせていない」

「来瀬が狙われるのも…きっとその体質のせいだと思うんだ。死望体と異種体、2つの力を持つものなど、ほぼいないからな」

ここで、やっと昨日の”あの男”が言った言葉を理解したような気がした。

「死を秘める者…来瀬双真」

「このまま君を放っといたままだと、いずれあいつらに捕らえられ、何されるか分からない。だから、保護したんだ」

(そうだったのか…)

「…来瀬」

「…はい」

「…言いづらいが、このまま来瀬は普通の人間として生きることはできない。君は追われ身だからな。だから…」

「ユグドラシルの一員として、俺達の仲間になってくれないか?」

(…やっぱり…言われると思ったんだ…)

覚悟はしていた。だって自分を仲間にしないならば、僕を保護する必要はない。だけど…僕はやっぱり…

「……信じている」

「…え?」

「俺らは来瀬を信じている。だから、来瀬は俺らを信じてくれないか?」

「絶対に来瀬は死なせないし…俺達も来瀬を死なせるつもりはない」

「…信じてくれないか?」

…信じることは、良いことなのだろうか。裏切られたり、しないのだろうか?でも…

(この、出岡さんの真っ直ぐ僕を見つめる目…そこに偽りはない…)

「分かりました。僕も皆さんを…信じます!」

「ありがとう…来瀬」

「よーし!そうと決まったら早速自己紹介じゃない?」

急に、後ろの女が喋りかけてきた。

坂枝立花さかえだりっかよ。よろしくね」

湯上雄我ゆがみゆうがだ…よろしくな」

それがし重木惣流かさなぎそうりゅうである」

「その妹の、重木舞華かさなぎまいかですの」

「改めて、出岡風人だ。これから、よろしくな」

「…はい!よろしくお願いします!」

「…さて。そろそろ合流するか」

「何かあるんですか?」

「ユグドラシルは、これで全員ではないんだ。他にももっといるのだが、とある任務で、席を外してるんだ」

「…来瀬。お前としては、初任務だな」

「…え?初任務?」

「詳しいことは、追々話す…行くぞ、死霊体狩りへ!」


こうして、僕の新たな人生が、幕を開けた。でも、僕は、まだ知らなかった。やがて、この力が、この世界を大きく左右することになるなんて…。


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