ダーク・ファンタジー小説

Re: 疾風の神威 ( No.33 )
日時: 2022/06/27 22:55
名前: 野良 ◆hPknrgKNk. (ID: JGdWnGzk)

〔燐音〕

「……以上で報告を終わります」

凍玻璃いてはり先輩がそう言って口を閉ざす。団長さんに任務報告をしていたのだ。さっきの任務では、虚無の量はいつもとなんら変わりなかった。

「……そうか、ありがとう。虚無の数は、増える一方だな」

団長さんは悔しそうだった。私も悔しい。このまま、抗うだけで人間だけが苦しむなんて嫌だった。

「それじゃあ、次の任務まで各自休んでくれ。今は不安定だから、突然任務が来るかもしれな__」

ピリリリッ

団長さんの言葉を遮るように、通信機が鳴った。団長さんの通信機だけじゃない。先輩のも、私のも鳴っている。全員接続になっているみたいだ。

「どうした?」

団長さんが接続し、問いかける。通信機の向こうからは、浅い息継ぎが聞こえてくる。

<だ、団長ですか!?お願いです、今すぐ他の隊を呼んでください!!>

別の隊の人だ。怯えたような声で、その人は必死で言う。しかし、状況が理解できない。一体どうしたんだろう。

「ど、どうしたんだ!?何があった!」

<俺たちはもう駄目です……!みんな殺られてしまった。次は俺だ……!!>

「状況を説明してくれ!何があった!?」

<黒いスライムみたいなのが、突然襲ってきたんです……!そいつにみんな殺された……!>

「黒……!?虚無か……!?」

<分からない!!とにかく、早く応援を__>

その人が言いかけた途端、声が途切れ、ぐちゃ、と音がした。声も聞こえなくなってしまう。それが何を意味するのか、分かってしまう。

「__……!!」

団長さんがハッと息をのみ、すぐに電子パネルを操作する。水瀬市全体が記されたパネルで、団員の位置や情報が示されているパネルだ。

「ゼロ、今の隊がどこなのか分かるか」

「……おそらく、本倉隊かと」

「本倉隊……任務先はどこだ……?」

手の動きが速い。冷静な団長さんや先輩たちに反して、胡羽はガタガタと震えている。恐ろしくてたまらないのだろう。

「__任務先は銀杏街道……。付近にある建物は、ダルコ……」

「ダルコって……デパートじゃないですか!人が多いところですよ!近くに団員はいないんですか!?」

焦って語気が強くなってしまう。団長さんは、すぐにみんなの通信機から団員の位置情報を割り出した。パネル上に、三つのマークが現れる。

「__いる」

「……いるって、誰が……」

凍玻璃先輩とゼロ先輩が、パネルに視線を移す。団長さんは言った。

「__皐月隊隊長、柚月。副隊長、交喙。隊員、刹那」

「……夜明ちゃん……?」

「刹那君……」

感情の起伏が少ない二人が、わずかに目を見開く。私の心臓は、バクバクと音をたて始めた。

「先輩……!」