ダーク・ファンタジー小説

Re: 銀色の君は、 ( No.3 )
日時: 2022/01/31 10:08
名前: 名前は未だ無い。 (ID: Ch4ng4i/)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

「次の方、どうぞ」
梅越さんが退勤して精神科を一人でやりくりしていると、私は悟った。
ーこの患者さん、銀色集団だ。

一瞬戸惑った。どう対応をすれば良いのだろうか。
「お、おおおお名前を教えてく、ください゛」
「…俺の名前は、升銀ますきルア」
「升銀さん、ですねっ」
ここに来たとき最初に教えてもらったこと。それは、
“どんな人、事、時でも必ず平常心を保っておく。それが出来ないのなら、それは精神科医ではないのだ”
という事だった。
だから私はその約束を守った。平常心を保つ。人間と同じように接する。桃羽が言ってた。

「今回は、どのような理由で?」
「あ、実は…私…」
ルアさんは言葉を詰まらせてうつむいた。
精神科に来る人は、来るだけでも精一杯だから追い詰めるのは良くない。
「その、…」
「ゆっくりで大丈夫ですよ。自分のペースで話して下さいね。」
ルアさんは微動だにしない。
「お水…飲まれますか?」
「銀色集団の1人なんです」
私の質問とは違う答えだったが、充分気持ちは理解できた。
「そうなんですね。ここに来るのも一苦労でしたか?どうぞゆっくりしていってください。」
「あ、ありがとうございます…!」
その人は、人間みたいだった。

「ルアさんの名字その漢字なんですね!いい名前ですね。」
精神科の診療室裏には庭園が広がっていて、患者が医師と話をしながらリラックスをできるスペースがある。
そこで会話を繰り広げていると、段々場が和んできた。
ルアさんはまるで人間で、ロボットと信じられないくらいに人間に近かった。
ルアさんの家族は、いないそうだ。

「ところで、なんですけどね。何で精神科に来られたんですか。無理には聞かないですけど」
「あ…それは、」
ルアさんは和んだ空間の中で、事情を話してくれた。

ルアさんは言っていたように銀色集団で、最近は人間から追い詰められ人目のつかない所に身を潜めていたらしい。
しかし、暫くしてからそこに人間が侵入し、危機を乗り越えなんとか命を保っていたそうだ。
ただ、それだけの生活は苦しく、誰かに助けを求めていたが銀色集団にすがる暇はなく、唯一の頼り相手が人間だったんだとか。
他の精神科に行き、事情を説明しようとしても捕まえかけられたり、殺されかけたりと不安な毎日だった、とルアさんは話す。
そこで最後の頼みとやって来たのがこの精神科。
「だから、ここに来て良かった」
そう、ルアさんは語ってくれた。
その目許めもとには透明な水溜まりができていて、今にも溢れだしそうだった。

いつしか私の心には、ルアさんを放っておけないという気持ちが芽生えていた。

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