ダーク・ファンタジー小説
- Re: その足、あたしにちょうだいよ【ホラー】 ( No.1 )
- 日時: 2022/03/09 19:59
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: NdcMw1Hu)
第一話【絶望】
とある学園は、陸上部の強豪校である。
そして彼女は、その学園に通い、陸上部のエースとして生活していた。
何よりも愛している陸上の、憧れていた強豪校に入学できた時は、本当に嬉しくて、思わず涙が頬を伝った。
一年生のうちから大会に何度も出場し、その界隈ではそこそこ名が知れた。
―――しかし、名声というのは時に、嫉妬や恨みを引き出してしまう。
「沙羅川メクさんですか?」
部活の練習終わり。校門を抜け、家路をたどっていると、他校の女子数人に声をかけられた。
ライバル校の制服を着ている。もしかしたら、陸上部の人かもしれない。
「はい!」
自慢の元気よさで返事をし、ニコリと微笑む。
「よかった、人違いだったらどうしようかと……あの、私たち、沙羅川さんのファンなんです!」
「えっ?」
「こないだの大会、私たちも出ていたんです。前を走る沙羅川さんの姿が、すごい綺麗で……」
数人、見たことあると思っていたら、やっぱりだ。
褒め言葉は、素直にうれしい。
メクはその気持ちを思いっきり前面に出し、嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます! うれしいなぁ」
「あの、よければ一緒に下校してもいいですか?」
「もちろん! よろしくお願いします!」
ニコッと笑い、その後は他愛のない会話をしながら帰り道を歩いた。
途中信号に引っかかり、ついてない、と思いながら立ち止まろうとする。
―――不意に、背中を押される感覚がした。
「え?」
体が道路に押し出され、倒れる。めったにないが、何か躓いたのか、と思う。
膝を擦りむいたのか、少し血が出ている。やってしまったと思いながら、立ち上がった。……そんなことを、確認してる暇は無かったというのに。
大きなクラクションの音と、ブレーキの甲高い音。前を向いた時には、大きなトラックが迫っていた。
目を覚ました時に見たのは、見知らぬ天井と、カーテン。それから、点滴の袋。
ピッ、ピッ、ピッという電子音が耳に聞こえるが、しばらくは思考がボーっとしていた。
病室に入ってきた母親の呼びかける声に、ようやく思考がはっきりしてくる。
医師の人に質問され、それに答えていく途中、メクを酷い焦りの感覚が襲った。―――足の感覚がない。
布団をバッとめくると、包帯に巻かれ、指先が真っ白な足が、そこにあった。病的な程ひどい白色は、メクの健康的な足とは程遠かった。
「……言いづらいですが……恐らく、走ることは二度とできないでしょう」
ひどい耳鳴りがした。
その言葉を噓と、信じたかった。
「あぁ……」
小さなうめき声が出て、その後は―――
「ぁああああぁぁあああぁぁぁあああ!?」
ただただ、泣き叫んだ。