ダーク・ファンタジー小説

Re: その足、あたしにちょうだいよ【ホラー】 ( No.2 )
日時: 2022/03/09 20:14
名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: NdcMw1Hu)

第二話【希望】

 メクは事故に遭った後、数週間眠っていたらしい。
 短く切っていた髪は、肩まで伸びていた。
 病院から退院し、家に帰り自室の鏡を見たとき、自分の髪と同時に、顔を見た。まったくと言っていいほど生気がない。
 数日の間、学校に行く気が起きず、一生の相棒となろう車イスで部屋を動き回っていた時、鏡に映る自分と目が合った。

「……ははっ」

 ゆるく笑い、腕で体を支えながら車イスから降り、ベッドへ飛び込む。
 もう何度泣いたか、分からない。
 泣くのも疲れて、笑った。それは己への嘲笑か、残酷な世界への恨みか。
 いっそ殺してくれればよかった。陸上が出来ない人生に、メクは生き甲斐を見出せずにいた。
 ふと、枕元に投げ捨てたスマホが光る。
 親友である、愛鷹山陸あいたかやまりくの文字。彼女のアイコンは、メクとのツーショットの半分だ。もう半分は、メクが使っている。―――大会の後にトロフィーを掲げて撮った物。前は見るだけで嬉しさがこみあげてきたそれを、見たくなくて、いつもすぐに切っていた。けど、そろそろ……向き合わなきゃな……。
 スマホを手に取り、電話に出る。

「陸?」
『もしもし、メク? ほんとにメクだよね?』
「正真正銘の沙羅川メクだよ」

 小さく、呆れたような声で言うと、しばらくは沈黙が響いた。

『退院、おめでとう』

 沈黙を破り、陸から祝福の声。

「どうかな? もう、陸上はできないのに……」
『……コーチがね、走ることはできないけど、マネージャーとして陸上部に残ってくれないかって』
「……マネージャー……か……」

 少しだけ、顔を出す希望。
 大好きな陸上は、もう二度とできない。けど、サポートという面だけでも、陸上に関われるのは、いいんじゃないだろうか。

「分かった。やる」
『本当に!?』
「……明日から学校、行くよ」
『うん。……ねぇ、メク。私ね、メクがもう走れないって聞いて、すごくつらかった。……けどね、何よりも、メクが生きてることがうれしかったんだよ』
「……うん」

 涙は、これで最後。
 神様、もう泣かないから、最後に、許してください。―――嬉しさから来た、この涙を。