ダーク・ファンタジー小説
- Re: 謝って済むのなら【一部グロ注意】 ( No.3 )
- 日時: 2022/03/20 18:17
- 名前: 緒宵 蒼 (ID: hDVRZYXV)
【悲劇3~月影の美少女~】
「こんなとこで何してるの?」
突然の人声に太郎と湊は思わず振り返った。
だが、声の主が少女だと分かると、すぐに安堵する。
今は夜中であり、さらに彼らのいる場所は電灯のあかりが届かない路地裏のため、少女の外形は捉えにくい。
ただ、首もとに赤いリボンの付いた、まだ新しい真っ白なセーラー服に見を包むのが見てとれることから、彼らは少女を学生と判断した。
「何って俺ら、壁にお絵描きしてたの。君は塾帰りかなぁ? こんな夜遅くに男二人に声かけたら何されるか分からないよ」
太郎がそう言うと、湊が続いて下卑た笑い声を少女に浴びせた。
相手が少女であるということが彼らの心と態度をでかくしているのだろう。
さらに、彼らは壁への落書きという悪戯を為した直後であったため、若干の興奮状態にあった。
だからこそ二人はすぐ気づかなかった。
こんな夜中に少女が何も持たず、手ぶらで街を歩いている不自然さに。
少女は男達に近づく。
太郎の視界の影から、少女は姿をあらわにした。
そのとき、太郎の体中の脈が激しく波を打つ。
美しい。
そう、少女はあまりにも美しかった。
目元のまつげは一本一本均等に跳ね、ハッキリと開いた圧のある瞳が太郎の目を離さない。
鼻も曲がることのない綺麗な一本筋を描いており、その下の唇は程よい膨らみを保ちつつ、伸び縮みがなめらかであり、ほのかに苺色を染めている。
それらを調和させる端正で混じりけのない白い顔。
もちろん顔だけではなく、なだらかな肩から真っ直ぐに伸びた両腕はもちろんのこと、腰の艶やかな曲線美は前姿からも容易に想像することができ、丈の短いグレーのスカートから伸びる生々しい肉感を孕んだ長脚が色気を存分に放つ。
太郎と湊は渇いた喉で唾を思い切り飲み込んだ。
そんな二人を鋭い目付きで一瞥しながら、少女はその足取りを二人に向け続ける。
湊が話を切り出した。
「ねえねえ君、そんな怖い顔しないでさぁ、お兄さん達と楽しいことしない? きっと心も体も気持ちよくなるよ」
少女は二人の眼前で足を止め、湊の荒っぽい鼻息をよそに、言葉を紡ぐ。
「ここの所有者に許可は取ったの?」
「は?」
湊は思わず声を出す。
少女が何を言っているのか理解できない。
太郎も同じように首をかしげていて、そんな二人を見て、少女はさらに続けた。
「だからさっき、壁にお絵描きをしたと言っていたじゃない。ちゃんとここの持ち主に許可は取ったの?」
二人の青年は思わず吹き出してしまう。
少女にとってはその話題が続いているのかもしれないが、二人にはもうどうでもいいことだ。目の前の美少女しか眼中にない。
湊はいやらしい笑みを浮かべながら言った。
「そんなの知らねーよ。そもそも路地裏に所有者とかいんのぉ? それより俺らと楽しく遊ぼうよ」
湊は少女の肩に手を置き、優しくなで回した。
少女は表情一つ変えずに肩の手をはたく。
「つまり無許可で絵を描いたのね。それって落書きじゃない」
「きびしーっ。てか絵じゃなくて文字なん」
「『罰』ね」
……。
……え?
太郎は違和感を覚えた。
なぜなら、
少女の言葉を境に、湊の声が途絶えたからだ。
そして太郎はさらに気づく。
自分の着ている灰色のジャージに、『赤い何か』が付いていることに。
全身を寒気が襲う。
太郎はゆっくりと視線を移した。
「あ……」
そこには、喉をナイフで刺された湊の姿があった。