ダーク・ファンタジー小説
- Re: 叛逆の燈火 ( No.65 )
- 日時: 2022/10/06 22:15
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
僕は「ふわ~あ」と欠伸をして、両手を挙げて肩を伸ばしていた。……ほんっと、ずーっと座りっぱなしだと、しんどいなぁ。肩がギシギシ音を立ててる。あーあ。「ロンド」も「ルチア」ちゃんも「メラム」ちゃんもその弟子で、次期宮廷占星術師の「パッさん」も……「バーバラ」も。今は会議だったっけ。僕だけなんかヒマみたいじゃん。
「あ~あ。机の前で無意義なお勉強なんか暇だよ。僕も遠征とか行きたいなぁ~。ずーっと中で勉強とか退屈だしやだなぁ。なんか面白い事起きないかなぁ~」
僕がそうぼやいていると、背後から僕の名前を呼んだあと、コツンと衝撃が走る。
「いったー!」
「もう、ラケル! そうやってまたぼやく! そんなんじゃ次期皇帝の名が泣くわよ!」
僕が痛みのある場所を手で押さえながら、背後を見る。
そこには金髪のふわりとした波打つ長い髪を持つ、白いブラウスと黒いスカート、金色の刺繍が施されたフードのついたローブを羽織るスレンダーな妙齢の女性。だけど顔は少し幼さというか、童顔というか。真ん丸な青い瞳をこちらに向けて、しかめっ面をしながら頬を膨らませている彼女。
名は「アシュレイ・ルーギウス」。ナインズヴァルプルギスの一人で、序列は第4位。「ザ・フォウ」の名前を賜ってる、僕なんかよりすごく優秀な人だ。僕の親友でもあり。なんと、序列第9位のバーバラと同じく、「魔法」っていうものが使える。だけど、「万能魔法」のバーバラとは違って、彼女は「治癒魔法」の使い手。どんな傷も、彼女に言わせれば"朝飯前"。たちどころに治ってしまうんだ。まあ皆は彼女が魔法を使えることは知らない。もちろん力だと思ってる。だからかな。その力を讃えられて彼女は、「エターナルの使者」とか「天使の御使い」だとか、「聖女」だとか。そんな風に呼ばれてる。……ま、性格の方は全然聖女じゃない。むしろすぐに手が出る、しかも怪力。だからこの子は妖怪暴力鬼女――
「誰が暴力鬼女よ、聖女チョーップ!」
ドゴォという音と先ほどより重い衝撃。一瞬花畑が見えたような気がする。……この子、一応聖職者をやってるんだけど、聖職者は聖職者でも、「モンク僧」だよね。ゼッタイ。
「ラケル。そんな変な事ばっかり言ってないで、勉強は終わったの?」
「全部終わったよ~。だからこうして羽を伸ばしてるんじゃないか」
勉強……「帝王学」の。僕は「次期皇帝」の一人だ。なんせ、僕はアルゼリオン帝国の現皇帝の第二皇子。「ラケル・イルミナル・アルゼリオン」ってのがフルネーム。ああ、「イルミナル」ってのは、母が嫁ぐ前の領地の名前。次期皇帝とはいえ、もし何らかの理由で皇帝になれなかったら、祖父が席を空けてくれてるから、家督を継ぎに戻ってこい。って言ってたんだよね。
あと、ナインズヴァルプルギスの第3位でもあるから、そっちでは「ラケル=ザ・スリイ・イルミナル」って名前を使ってるんだけど。……まあ、僕が第二皇子って理由でナインズヴァルプルギスに選ばれたんじゃないかっていう人もいるけど。否定はできない。だからこそ、実力で物を語らないといけない。実力主義の世界なんだから。
まあそんなこんなで、次期皇帝ではあるんだけど、ナインズヴァルプルギスの一員でもあって。結構複雑な立ち位置なんだけど、僕自身も正直自分の家系含めて複雑すぎて覚えてらんない。それに僕は別に皇帝にはなりたいと思わないんだよね。僕は「魔人」。短命で、60代を迎えるまでに死ぬ。だから、老い先短い魔人が皇帝になるよりは、人間である「レア」兄上がいい。僕は辺境の領地でひっそりと領主をやりながら、スローライフを満喫してさぁ~。年取ってのんびりお茶をすすりながら死んでいきたいかなぁ。それが僕の理想!
っていう話をアシュレイに聞かせていたら、彼女は半目で呆れたような視線と顔でため息をつく。
「ラケルって、ホントちょっとズレてる感じよね。普通野望を叶える為とか、理想を実現する為に皇帝に俺はなる! みたいなのはないの?」
「えぇ、何それ超面倒臭い」
僕が即答すると、さっきより大きくため息をつく。……何がいけないのかな?
「なんだよその反応! 僕はゆったりのんびりしながら商売して、領民達と一緒に畑を耕して、美味しい作物を皆さんの食卓に届けたいんだよ! 商売したいの! 皇帝になるとそれができなくなるじゃん! 正直、帝王学より商売の勉強した方が絶対将来生きていけるよ!」
「あなたねえ――」
「なるほど、君は確かに、商売を取り仕切る方が合ってるかもね、ラケル」
ん。
僕とアシュレイが話していると、部屋の外から僕の一回り大きな青年が入ってくる。
整った顔立ち。灰色の短い髪と青い瞳を持ち、白衣と黒いマントを羽織る、僕に似ても似つかない……「レア」兄上がにこりと笑いながら僕達の部屋へと入ってきた。噂をすれば影が差すってヤツ? あんまり他人の悪口とか言えないね。
「あーら兄上ってば。盗み聞きなんて」
「ふふっ、ごめんね。そんなつもりは無かったんだが」
兄上の笑みに、僕も釣られて笑ってしまう。……正直、僕は兄上の方が皇帝にふさわしい。そう思う。だって、兄上の掲げる「平等主義」からなる「民主派」の思想は、国民一人一人の意見……つまりは民意を尊重して反映していく。貧しい人間が苦しまないような政策を掲げ、誰もが平等に衣食住を手にすることができる。まさに理想の国の像。僕はそんな未来に、兄上がしてくれると信じているんだ。
僕はさっき言ったように、商売で経済を回して、国家間の資金の流れを潤滑にしていけたらいいなって思う。僕は経済を回して、兄上は国を良い方向に動かす。これが未来の理想像!
っていう話をしていたら、アシュレイはやっぱり呆れて首を振ってる。
「まあ、理想を語るのは、酒場に入り浸ってるオッサンだってできるんだけど?」
……それを言われちゃぐうの音も出ない。
「ラケルの考えは素晴らしいと思う。だけどね、君が皇帝になり、そのずる賢さがあればきっと――」
「ずる賢さって……兄上も失礼しちゃう!」
「はははっ」
兄上が笑うと、僕もやっぱり笑い、アシュレイも笑った。
理想を語り合うのは楽しい。それがいつか現実になる事も夢見て、信じて疑わない。信じれば、きっといつかは理想も現実になるはずさ。なーんて、我ながら青臭い事を思ってたよね。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.66 )
- 日時: 2022/10/08 21:52
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
僕、「ラケル・イルミナル・アルゼリオン」は現在16歳。あと2年で成人の儀で黄金の聖杯に、清水を捧げれば、僕は晴れて成人。予定ではそこで皇帝に即位できる。……って母上が言ってた。あー、でも。なんとか兄上が2年間の間に何か成果を上げて、皇帝に選ばれればいいかな。兄上は今年で18歳。つまりは皇帝になれる年齢なんだ。
兄上も次期皇帝なんだけど、兄上と僕で宰相達が勝手に派閥争いをしていて、勝手にどっちかが皇帝になるのにふさわしいとかなんだとか。勝手に話を進めてる。ぶっちゃけ迷惑でしかない。なんで助け合うとか、協力し合うとか。そういうのができないんだろうな、あの頭のお堅い連中は。
現皇帝……父上は厳格な方だ。古い考えを持ったまま、死ぬまで変える事はないだろう。宰相達と全く同じ考え方だ。「支配して管理し、金も物資も人も掌握できるので、皇帝が人の上に立つべきだ」ってさ。それ自体は悪くはないさ。悪くないんだけど……。
ナインズヴァルプルギスの中にもそういった考えを持つ人はいる。第1位の「ザ・ワン」を始めとする半数が、父上と同じ考えなんだよね。彼らは兄上の考えを「ただの理想論」だって一蹴するけど……。
まずは理想を作って、未来を理想にのっとって作っていくのが、そういうのが政って奴じゃないの? あー、ムカムカしてきた。
「なーんだ。普段大人ぶってるから、もっと落ち着いた考え方だと思ってたけど、案外子供なのね~」
僕の愚痴を延々と聞いてくれていたアシュレイが、カップの中身を口にする。しかしすぐに「うわっ苦っ」とカップから口を離した。
僕とアシュレイ、兄上は一緒に僕の部屋でテーブルを挟んで、休憩がてらに将来について語り合っていた。兄上も僕もアシュレイも、もちろん今の帝国の在り方じゃ、誰かの悪意が爆発したり、はたまた誰かが何かを失って、それが引き金に何か悪い事が起きるんじゃないかって。そう考えている。
兄上が掲げる「平等」っていうのは、もちろん、貧しい人間にも選択肢が得られるようなシステムを造る事だったり、いずれ格差をなくして、ヒト一人が一人の人間として生きていられる。……っていう、まあ傍から見たら理想論も理想論なんだけど。僕も思うよ、この考え方は甘い。ってさ。
……この世界の始まりは女神に創られた調停者エンブリオが世界を安定させてたけど、悪意ある人間のせいで最期を迎えた。そういう話がある。悪意は善良な市民、全くの無関係な人間まで喰らい、世界を腐らせていく。
だからこそ、父上は支配することでその悪意を管理する考えを持っているんだろうね。……だけど、支配したって悪意を完全に管理はできない。とはいえ、兄上の考え方もだいぶ甘いし、今のままだと兄上も調停者と同じ運命を辿るかも。
支配と平等。どっちが正解かなんて答えは永遠に見つからないだろうけど……。でも、人の上に立つ以上は答えを出さなくちゃいけない。例え、間違いを選んだとしてもね。
「問題は、民主派の声より、支配派の彼らの声の方が大きい。と言う事かな」
兄上はため息をついてそう言ってる。
確かに。支配派であるあの野心家の「カティーア=ザ・トウ・ラミアス」は、裏から国を操ってるんじゃないかってくらい、父上の扱いが上手で。いつも会議で言い争っていると、カティーアの巧みな言葉で父上はすぐ納得する。父上は彼女をそりゃあもうすごく信頼してる。それに、宰相達を束ねてるのも彼女だ。僕ら民主派はカティーアの事を「女狐」って呼んでる。その位狡猾な女だよ。
「ま、カティーアの方が現実的だしね。陛下が同意されるのも無理ないわよ」
アシュレイは肩をすくめる。いや、それはわかってるよ。現実的で正当性もあるから、僕らはいっつも言い負かされるんだよなぁ。
そんなカティーアは、僕を次期皇帝に推薦してる。……まあ、だからといって僕の味方ではない。むしろ、敵だよね。
「あんなのに推薦されても嬉しくないなぁ。アシュレイが僕を推薦してくれたら、僕頑張って皇帝になるんだけどなぁ~」
「ないない」
僕の冗談に鼻で笑いながら、手をひらひらと振る。
……冗談でもいいから、「期待してるわ」って言ってくれたらなぁ。
なんて思う。
「じゃあアシュレイはどっちを応援してくれてるのかな?」
兄上がニコニコしながらアシュレイの方を見る。すると、アシュレイは顔を真っ赤にさせて、大声で叫んだ。
「べ、別にどっちでもいいでしょうがっ! どっちが皇帝になったって、仕える人が変わるだけってだけで何も変わんないわよっ!!」
トマトかってくらい顔が真っ赤に染まってる。……僕は兄上だっていうかと思ったけど、意外とチキンなんだなぁ。と、僕はニヤニヤしながらアシュレイを見ていた。
「何ニヤニヤしてんのよ、このバカっ!」
八つ当たりかな。アシュレイは僕の頬をビタンっと音を立てながら、思いっきり叩いた。……意識が飛びかけた。女の子なのに力はゴリラ並だぁ……。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.67 )
- 日時: 2022/10/08 18:47
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
翌日、月に一度の招集があったので、僕達ナインズヴァルプルギス及び、統制機関が集う議会に参加した。城の会議室に議長、「ザ・ワン」を始めとする、「ザ・ナイン」である「バーバラ=ザ・ナイン・ゴーテル=ヤーガ」までの9人の執行役員、その他直属の側近などが数人。そして皇帝と次期皇帝である兄上を交えた重要な議会なんだ。この議会では前回の議会から昨日迄の経過報告や意見交換、明日から次回の議会までの課題などを話し合い、実行する。……最近はカティーアの声が大きく、主導権も握られてるためか、有益な会議なんてできてない。今日もどうせカティーアが会話の主導権を握って、何の進展もなく終わるんだろうなぁ。なんて僕は退屈そうに頬杖をついて、議会の流れを静観している。……と、僕の隣にいるアシュレイが脇腹を肘で小突いて来て痛みで悶えながら、話を聞き続けていた。
「――以上が昨日迄の報告となります」
やっと昨日までの報告がカティーアの口からされて、それが終わったみたいだ。時間的には20分か。先月は40分だったから、それより半分だな。
「ふむ。報告ご苦労。……して、意見のある者は申してみよ」
父上がこの場にいる全員を見回し、いつものようにそう言う。意見かぁ……昨日話していたことを思い出す。だけど、どうせカティーアは僕らの意見を遮って、父上を良い様に納得させるんだろうな。だったら言っても意味ない気がするなぁ~。
と、思っていたら、第7位であるメラムちゃん――「メラムプース=ザ・セヴン・メガリ・アルクトス」が挙手をした後、許可が下りて立ち上がる。ナインズヴァルプルギスの中では最年長。年齢の事言ったら、水晶玉でドカッとやられちゃうけど。事実なんだよね。大きな三角帽子を揺らせながら立ち上がり、顔が隠れる程の長くふわりとした髪も同じように揺れる。見た目は濃い桃色の髪の魔女のおばあさんって感じだ。……顔は見た事ないけどね。彼女がしわがれた老婆のような声を出す。
「陛下。来月はレア殿下の成人の儀があります。その際、殿下を皇帝に即位させるべきかと」
僕は驚いて思わず二度見。兄上とバーバラ、それに父上以外は全員何かしらの反応を見せていた。ざわざわと皆が口々に騒ぎ出し、カティーアもザ・ワンも目を見開いてメラムちゃんを見ている。皆予想外だったんだろう。僕もだよ。
カティーアが慌てた様子で挙手をした後、メラムちゃんを指さしながら父上の方を見る。
「陛下……ザ・セヴンは少々寝不足の御様子。仮眠室に――」
「誰が寝不足だ女狐。ワタシはこの通り健康そのもの。他人を寝坊助扱いしないでいただきたい」
メラムちゃんは強気な態度を崩さず、カティーアを遮る。
……普段は顔が隠れてるし、いっつも静かだから、議会中に寝てるんだと思ってた。ちゃんと起きてるんだ。それに、彼女の強気な態度というか、毅然とした態度でカティーアに反論するなんて。それにしても、彼女はどうして兄上を即位させた方がいいなんて突然言い出すんだろう? バーバラと兄上が静観を貫いているところを見ると、昨晩何か話していたのかな?
「ふむ……して、その理由を申せ」
父上も未だざわついているギャラリーを余所に、メラムちゃんに尋ねる。すると、彼女は「は」と短く返事をした後、首を垂れる。
「恐れながら、ラケル殿下はまだ若く、未熟であると考えます。それともう一つ。陛下も、ワタシの力、「フォルチューヌ・テラー」の事は存じ上げている事でしょう。ワタシは先の事が良く見える。当然、自分の死ぬ寸前まで」
「其方は、未来を見たのか?」
「は」
深々と頭を垂れるから、帽子がずれ落ちそうになる。……確かにメラムちゃんの力のおかげで、この帝国はこの数十年で著しく成長を遂げた。僕が生まれる前の事は知らないけど、とりあえず、フォートレス王国と手を組み、技術革新。フォートレスが技術提供し、帝国への機械の導入のおかげで、帝国は高度経済成長を遂げたんだ。その事をきっかけに、外交が始まり、国家間の交流と物資の流通が行われ、この大陸はかなり豊かになったんだ。
そんなメラムちゃんだからこそ、父上は彼女の事を信頼している。
「して、レアを皇帝に即位させた暁には、国にどのような繁栄が齎される?」
当然の質問だ。僕も気になる。アシュレイも気になっているようだ。
「は。レア殿下もラケル殿下も国民からの人気は絶大でありますが、レア殿下が皇帝に即位された場合。帝国は少なくとも"ワタシが生きているうち"は殿下の尽力によって、さらなる成長を遂げるはずです。ワタシが死んだあとは、弟子の「パメラ」に全て任せますんで、その先は弟子に聞けばよろし。どういった成長かは、見えましたが、そこは殿下次第であります」
言いたい事を全部言い終えたのか、ふぅっとため息をついてから着席するメラムちゃん。まあ「詳細はわかんないけど、兄上が皇帝になった方が未来は明るいぞ」みたいなことを言いたいわけか。……そうなると、僕が即位したらどうなるのか逆に気になるな。こっそり聞いてみるか。
父上は彼女のアバウトな占いに深く頷く。
すると突然、ザ・ワンが挙手をした後、立ち上がる。白い髪の青年。金色の瞳、黒装束。なんか吸血鬼みたいな見た目だね。さっきは目を見開いていて驚いてはいたけど、今は冷静な様子。彼は口を開いた。
「陛下、私もザ・セヴンと同意見であります。レア殿下を皇帝に即位させた方がよろしいかと」
「ほう。その理由は?」
「ラケル殿下は日頃の態度から、皇帝には向いていないと私は考えます。教養や配慮、日頃の態度などを比べれば、レア殿下が皇帝に即位されるべきですな」
……面と向かって言われるとカチンとくるけど、事実だよ。言い返せない。くそっ、ザ・ワン。いつかボコる。僕は唇を噛んでぶるぶる震えていたが、アシュレイが同情するように、僕の肩を叩く。同情はやめてくれ。惨めになる。
カティーアは彼の言葉を聞いて随分慌てている様子だ。初めて見た。
「ザ・ワン、あなた――」
「あいわかった。そなたらの意見を聞き入れよう。だが、結論は明日また議会を開き、そこで出そうと考えている」
父上がそう言い終えると、議長が「静粛に」と木槌を叩きならして、今回は解散となった。
……結局、どうなっちゃうんだろうな。
メラムちゃんも、だけど。あれだけカティーアと同意見だったザ・ワンの動向も気になる。……喧嘩でもしたのかな? ああ、今日は眠れないかも。メラムちゃんに話しかけようにも、すぐいなくなっちゃうし。
いろいろ考えはするものの、明日まで結論が出ないわけで。僕はおとなしく自室に戻る事にした。今日終わらせないといけない事務仕事があるし。それが終わったらアシュレイとバーバラも交えて話し合うか。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.68 )
- 日時: 2022/10/08 20:03
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
そんなこんなでまた翌日。
昨晩はバーバラもメラムちゃんも兄上も呼んだんだけど、皆口を揃えて「明日になればわかる」なーんてだけ言って消化不良気味だ。でもどんなに心配事があっても、夜がくれば朝はくる。そして人は必ず睡眠を欲しがる。僕はモヤモヤしたままベッドの中で朝を迎えたってわけさ。
そして会議の時間まで僕はアシュレイと昨日の事を話していたが、「まあなるようになれでしょう」と肩をすくめる。そりゃあそうなんだけど。
そんなわけで昨日の続きとして、議会が開かれた。昨日と同じ場所、昨日と同じ面々。2日目に入る議会は数か月ぶりだ。
長い話になるから、割愛させてもらうけど。一言で言えば……兄上が皇帝に選ばれた。
うん、それはいいんだけど、一番気がかりなのは、カティーアが昨日とは打って変わって、兄上を推薦した事だ。いや、昨日とは変わり身速すぎてびっくりだよ。
「まあ、あなたが皇帝になっても、すぐに逃げだすのは目に見えてるでしょう」
バーバラに「なんで兄上は皇帝になれたのかな」と聞いたら、バーバラの答えがこれ。……いや、失礼すぎ! 僕も確かに皇帝になりたくなーいって言ってたけど、そんな理由で皇帝になれなかったって思うと、なんか腹立つ……!
「ま、あなたみたいなチャランポランが皇帝にならなくて良かったわ。その点ではザ・ワンに感謝ね」
と、アシュレイがうんうん頷く。……ほんっと腹立つ。
「だけど、これからが大変よ、ラケル。あいつらが次にどう出るか……」
「大丈夫。これからは私が取り仕切る。それに、バーバラもアシュレイも、メラムさんもロンドもルチアだっている。何も怖い事はないさ」
「えぇ、なんかちょっと不安だなぁ先行き」
僕はそうこぼすと、皆笑っていた。
だけどその後ロンド君がうーんと唸り始める。その姿に、ルチアちゃんが首を傾げた。
「どうしたのだ、ロディ。いつになく険しい顔だが」
「いや、静かすぎるなと思って」
「何がだ?」
ルチアが腕を組む。静かすぎる……ああ、確かに。
ザ・ワンを始めとする支配派がなぜか兄上を推薦し始めて、しかも何事も滞りもなく今日の議会はすんなりと終わった。……おかしくないかな。昨日といい、今日といい。メラムちゃんの言葉を聞いて素直に引き下がるって絶対何かありそう。そんな予感がするよ。
「流石に心配しすぎじゃないかしら」
アシュレイはそうは言いながらも、顔を曇らせている。やっぱりそれが気がかりなんだろうな。そりゃそうだ。僕だってそこまで能天気じゃないし。
「今後の動きに要注意だよね……」
僕らの予想には反して、兄上が皇帝になるまで平和そのものだった。気持ち悪いくらいに。
だけど、兄上が皇帝に即位した翌日、カティーアが行動を始める。彼女たち支配派が大きく動き始めたんだ。
メラムちゃんが「ある予言」をした後、カティーアに告発されて、父上に処分を言い渡された。……メラムちゃんはその未来も見えていたんだろう。とくに取り乱しもせず、それを受け入れた。もちろん、一番親しい仲だったバーバラは抗議をしたが、何よりメラムちゃんがそれを止めたんだ。
「おかしいわ、こんなの……あなたが何をしたって言うのよっ!」
バーバラは彼女の処刑の日まで毎日地下牢に入り、彼女の前で泣き続けていた。そんなバーバラに対して優しい言葉で彼女の頭を撫で、メラムちゃんは自分の帽子をバーバラに被せ、優しく諭している。
「ワタシが死んだらあの子を……パメラを頼むよ。そうだな。あんたは誰かの為に尽くしてあげな。そしたらきっと良い事ある。きっとね」
……思えば、バーバラが誰かの為に文字通り必死になるのは、きっとメラムちゃんのこの言葉がきっかけなのかもしれない。メラムちゃんの最期の予言でもあるんだろうか。多分、メラムちゃんは、自分の死すらも見えていたって言うから、この未来も見えていたんだろうなぁ。
その後はメラムちゃんの処刑をきっかけに、支配派の勢力が増していった。それは、僕がアレンに言った真実通り。兄上はアシュレイと結婚して、アレンとソフィアを生む。その双子がカティーアの手で化け物になってしまう。その後、僕とロンド君、それにマリアちゃんや元ナインズヴァルプルギスの面々は辺境の領地に追いやられた。
その後は、ソフィアの暴走で現状に至る。っと。大体こんなものか。
僕はアレンが寝ている間にとりあえず自分の過去を整理しつつ、自分の思いを一冊の日記帳に全部綴った。あとはこれを……
「閣下。アレン様を客室に運びました」
「お、ありがとね、フリジアちゃん」
フリジアが部屋に入ってきたので、僕は手に持っている日記帳を彼女に渡した。
「こちらは?」
「アレン君の仲間に渡してくれないかな。アレン君に読んでもらいたい、大事なモノなんだ」
僕がそう言うと、フリジアは何かを悟ったように顔を歪めた。……そんな顔しないでほしいな。主人の死を悟られるなんて、一番キツいんだよ。僕はそう思いながら、笑みを作った。
「とにかくお願いね。アレン君の仲間はこの街の宿屋にいると思う。会ったら逃げてって伝えておいて」
「閣下……私は、いつまでもあなたの御傍にいます。兄様も同じ気持ちです。もちろん、あなたの部下……この邸宅にいる皆が同じ考えです」
僕はその言葉を聞いて、鼻がツンとして涙が出そうになる。だけど、毅然とした態度で、首を振り。
「ダメだよ、ちゃんと邸宅にいる皆を逃がして。魔王が来る前に。いいね?」
フリジアは黙って俯くと、無言で部屋を出た。もう、「失礼しました」も忘れちゃうなんて。……って考えつつも、彼女たちには逃げてほしいから、いざとなればなりふり構わず遠くへ行ってほしい。
「……兄上、アシュレイ。僕ももうすぐそっちに行くから」
僕は窓を撫でながら外の方を見つめ、そうつぶやいた。