ダーク・ファンタジー小説

Re: カガミヨカガミ(No.2) ( No.2 )
日時: 2022/08/08 05:25
名前: みずま (ID: XLYzVf2W)

二 濡れた無情


 「ん…。」

思わず声が漏れた。冬の日中。余地がないくらいに濡れて透けた制服。

 仰向けだった身体を起きあげ、座り込むと同時に、ここが海であるという記憶が蘇る。そして全身が感覚を取り戻す。思い出したかのように急にあり得ない寒さが肌を刺す。身体が痺れて動かないほどに。

 そうして思考が追いつく。


 死のうと…したんだっけ…。



 俺は最寄りのバス停まで行って、バスを待った。ど田舎じゃないのに茶色い錆が覆う、古びたバス停の標識。最早駅名なんて半分も見えないほどになっていて。

 そんな標識の下の青いプラスチックの椅子。それは無駄に綺麗で。

 そこに座り、真上を見ると、俺の気持ちなんて一切無視したような陽気な太陽、明るい水色の空。気温は五度前後だろうか。

 
 俺は終点の向こう側へ歩き、家からは遥か遠い海岸に着いた。

 今更何も感じなかった。ただ清々しくて。

 俺は浅瀬へ裸足で遅足で突っ立って。そのまま寝転んだ。



 髪が濡れて。足先が痛いくらいに冷たくて。

 その感覚も何故だが徐々になくなっていったのがわかった。鮮やかな水色が、俺の人生の幕引きを祝福しているとでも思っておこう。

 そのまま目を閉じて眠ろうとした。眠ったまま海に流されて知らない間に亡命したかった。


 ―神様は無情だ。
 
 こういうときは願いを受け入れてくれない。

 それか、神様もこんな『ひねくれた』やつの願いなんてどうでもいいのか…。


 でも、なんだかもう一度眠りにつく気にはなれなかった。ただ、




 恋焦がれる相手すら選べないこんな世界なら、消えてしまいたい




という思いが昇華して、俺の心にずっしりとのしかかって残ったままだ。