ダーク・ファンタジー小説
- 1 ( No.1 )
- 日時: 2022/08/13 02:00
- 名前: しいら! (ID: Yp4ltYEW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13106
#1 失われた運命
———運命とは、既に決まっているものなのだろうか。
逆らうことのできない、曲がることのできない一本だけの道なのだろうか。
それとも、何かがきっかけで、突然変異するものなのだろうか。
例えば、何か……衝動に駆られるとか。
「……………!」
……僕にはまだよく分かっていない。
「………….君!」
……これから、ゆっくりと分かっていくのだろう。
「……佐倉君!」
「うわっ!?」
「はあ、やっと気づいた……もう7回も呼んでたんだよ?」
女は、呆れながらそう言った。
「ご、ごめん……えっと、何の用?」
「同じ3組の、佐倉智晴君だよね?私、戸塚。戸塚穂波。よろしくね」
戸塚は微笑みながらそう言った。
「え……あ、ああ、こちらこそ、よろしく……」
佐倉は戸惑いつつも何とか返事をすると、戸塚がまたもや呆れながら、
「んもう、つれないわね……もうちょっとこう、ゆるーく出来ない?」
「すいません、僕、あまり人と馴れ馴れしくするの苦手で……」
「その敬語もいらない!同級生だよ?」
困惑しながら、どう返そうか佐倉が迷っていると、まるで今までの話がなかったように、戸塚が突然話し出した。
「そんなことよりさ、いい学校だよね〜!私立泥場法明高等学校!ほんと受験苦労した甲斐があったわ〜!」
何やら話が長くなりそうだと思った矢先、校内放送が入った。
「まもなく、入学式を開式します。新一年生は体育館に集まってください」
「あ、そろそろ行かなきゃ……」
「一緒に行こうよ。いろいろ聞きたいこともあるし」
若干面倒臭そうに受け入れ、一緒に体育館に向かおうとした時、
ガサッ
「……え?」
「ん?どうしたの?」
「いや、今何かいた気がしたんですけど……」
何か音が鳴った。
「気のせいじゃない?早く行こうよ」
急かすように戸塚が腕を引っ張ろうとするも、
「……やっぱり、気になる。ちょっと、見てきます」
腕を掴む前に、佐倉は颯爽と行ってしまった。
「え?ちょ、ちょっと!もう、私も行くから待って!」
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「はぁ……はぁ……佐倉君、速いって……いや、私が運動神経悪いだけかな……佐倉君?」
そこには、呆然と立ち尽くす佐倉と、
ポタッ ポタッ
「ウグウウ……ギチャアアア……」
「あ……あ……」
「え……?なに、あれ……」
よだれを垂らす、黒い毛に染まった獣がいた。
「うあああああああああ!!!!」
「グギュギアアアアアアアアアアアアア!!!」
「え……」
「戸塚さん、逃げ……!」
ドスッ
「ぐあっ……」
佐倉が必死に叫ぼうとするも、獣に体当たりをされ突き飛ばされてしまった。
「あ……あ……」
「と、づか……さん、にげ……て……」
「駄目……足が……動かないっ……!」
獣は刻一刻と戸塚に近づいていった。
(クソッ……このままじゃ……戸塚さんが……!)
(……だめ……だ……もう……)
スパッ
「グギァ?」
もう駄目だと諦めかけていたその時、
パリン……
近くにあった壺が、静かに音を立てて割れた。
そこには、粉々になった壺と、一本の矢があった。
「全く……とんだ始業式……いや、入学式になったな」
そこには、弓を構えた、1人の青年が立っていた。
2話→