ダーク・ファンタジー小説
- Re: Cord___CyAN ( No.21 )
- 日時: 2022/11/23 17:49
- 名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)
Episode 5.「Hyacinth」
「どうした?浮かない顔して」
有栖は優しく微笑み質問した。
まさか自分のせいであんなことになるとは思わなかった。
「いえ、何でも...」
目の前に出されたカフェオレを一口飲み、スマホに目を落とす。
「...そんなに圭のことが心配か?」
動揺。
スマホを持つ手は震え、焦点が定まらない。
「図星、か。自分が命令違反しなければ、彼女の右目は無事だった。そうだろ?」
「止めて、ください」
「いつまで経ってもそんなんじゃ変われない。はっきり言って、そんな迷いがあるから守れる人も守れない」
「止めろよ!!あんたに僕のこと言う資格なんてないだろ!!もうほっといてくれよ___」
乾いた音が部屋に響く。その直後に頬を突き刺すような鋭い痛みが走った。
何があったか認識するのに時間がかかった。
「...それだけ?自分のせい自分のせいとか思ってるんだろうけど、弱いよ、キミは。この程度の正論で感情的になるなんて、柏木さんの方が強い」
分かっていた。自分の弱さなんてとっくに知れていた。
目の前の有栖は無表情だった。怒りも、優しさも、悲しみも、何の感情も宿っていなかった。
「...キミを連れていきたい場所がある。いいかい?」
人を平手打ちしておいて、連れていきたい場所?
考えるだけ無駄だと思った。
- Re: Cord___CyAN ( No.22 )
- 日時: 2022/11/23 22:23
- 名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)
「少しは目が覚めたかい?」
「...はい」
車に半ば強引に乗せられると、そのままどこかへと走り出した。
叶魅はただ、車窓からの景色をぼんやりと眺めていた。何も考えず、ただぼーっと。
走ること10分、着いたのは民間病院だった。
「さ、降りて」
なぜ病院なのか、いたって健康体なのに。
「えーっと、407号室...あった!」
小柄な体で走ればもはや幼女だ。
そして、彼女の目の前の扉の横には「荒木圭様」と書かれていた。
叶魅の動揺なんて気にもせず、扉を3回ノックした。
「しっつれーしまーす」
「社長、病院だから静かにしてくれ...」
目の前にはジャージに身を包んだ、尊敬すべき先輩がいた。右目には眼帯をつけていた。
「ん?叶魅も来てくれたのか?って、それどうした?まさか藍奈とかに手ぇ出してぶたれたか?」
「あ、らきさん...っ、僕のせいで...!」
叶魅の視界は涙で歪み、その場にへたれこんだ。
圭は笑いから微笑みに表情を変えて、叶魅の前に立った。
「...社長、しばらく外に出ててくれないか?」
「あいよ。終わったら呼んでね」
有栖は病室から立ち去り、圭は扉から叶魅に視線を向けた。
「なーに泣いてんだよ、あたしは生きてる。お前のせいじゃない、あたしがやりたくてやったんだ。可愛い後輩を守るのは先輩の義務だからな」
「でも、荒木さんの右目は...!」
「これはあたしの宝物だ。後輩を守れて光栄だよ、右目なんて大したことない。だから泣き止め、いい男が台無しだぞ?」
圭は叶魅を抱擁した。
空は星が広がっていた。
「邪魔するぞー...失礼しt」
「貴島、お前は絶対に許さん」
「待って俺なんもしてnイヤァァァァァァァ!!??」
この日から、病院内で407号室は悲鳴が聞こえる部屋として恐れられるようになった。
5話終了です。
久しぶりの社長