ダーク・ファンタジー小説

Re: Cord___CyAN ( No.23 )
日時: 2022/11/24 17:25
名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)

Episode.6 「LOST」

「津葉木さん、荷物が」
「え?僕なんか頼んだっけ?」
大きめの箱を受け取り、ずっしりとした重みを感じながら、テーブルの上に置いた。
何かを注文した記憶すらないまま、伝票を見る。そこには確かに津葉木叶魅と書かれていた。
ますます怪しい。
「Pandora...え、待って怖い怖い怖い。なになになに?僕社長に何か頼んだっけ?」
「津葉木さんうるさいです。いくらお客さんが来ないからと言って、騒ぐのはやめてください」
藍奈の冷たい視線が突き刺さる。
しかし箱の中身が怖いことには代わりない。
「開けますか...」
箱を開けると、中にはアタッシュケースが2つ重なっていた。
「何か手紙まで...『またひとついい男になれた津葉木くんへ。ボクからのささやかなプレゼントだ。あまり中身とか言えないけど、どうせ見れば分かるでしょ。舌切り雀と同じでどちらか一つ選んでくれ。もう一つは送り返してね。』...なにこれ」
「私に聞かないでください。いいからとっとと開けますよ」
ここまで来るとどうでもよくなる。
叶魅宛なのに藍奈が開けるという謎の光景だが、気にしたら負けだ。
「これは...」
「USPとMk.23ですね」
H&K USP、今や警察から自衛隊まで幅広く使用されてきた愛され続けたモデルだ。
対して、H&K Mk.23は高精度で頑丈な造りだが、重量が増え特殊作戦用のモデル。
「んー...僕はUSPかな。グロックと同じ感覚だ」
「それじゃあ、Mk.23は送り返しますね」
貰っておいて、グロックは壊れるまで使う。愛銃なのだ、最後まで使ってやらないと。

Re: Cord___CyAN ( No.24 )
日時: 2022/11/25 17:35
名前: ぷれ (ID: tEZxFcMB)

20:20
車を走らせて30分、Pandoraの本社は遠いので正直疲れる。
しかもなぜ車を走らせているかというと、郵送出来なかったからである。
「流石に危険物だもんなー郵送出来る方が怖いわ」
ちなみにこれを送ってきたときは会社に偽装してたらしい。
そしてほぼ会話がないまま本社に着いた。
「社長って、まだいらっしゃいますかね?」
「はい、社長室の方に」
どうやら事前に説明してあるようなので、そのまま社長室に案内された。
色んな柔軟剤やら香水が混ざったような匂いが鼻を刺激する。
「失礼します」
「ん?ああ、ごめんごめん。わざわざ来てもらって。下がっていいよ」
すると、案内をしてくれた受付の女性は頭を下げて、部屋から去っていった。
「柏木さんはどうして?」
「私は運転手です。津葉木さんがこれなので」
叶魅は体力が無いので、これは仕方がない。
有栖は冷蔵庫から、乳酸菌飲料を取り出しコップに注いだ。
「申し訳ない、ちょうど飲み物がこれしかなくて」
「いえ、ありがとうございます」
「それで、ボクからのささやかなプレゼントは?」
「USPにしました」
有栖は表情一つ変えず、華奢な手で叶魅の手を握った。手はひんやりと冷たく、手のひらに固い感触があった。
「そのUSPはボクのお下がりだ。そしてこれはお守り、キミに託しておこうかと」
有栖は一瞬だけ寂しげな顔をすると、笑顔に戻った。
「来客だ、キミたちは隠れてくれ」
「?なぜです?来客なら別に」
藍奈がそこまで言うと、有栖は冷酷な目で睨んだ。
「いいから、早く」
それだけ言い残し、ドアに近づく。手にはベレッタM9。アメリカの警察では主流だ。
「社長、あんたを殺しに来たぜぇ?」
「そうかい、ボクは死ぬ気なんてないけど」
その会話のあとに銃声が何発か鳴った。
火薬の臭いと、肉の生臭さが混ざった強烈な臭いが部屋中に漂った。
慌てて出ると、そこには有栖が頭から血を流したまま倒れていた。
「あ?何だよ、他に居たのか」
「我々はCyANの者です、大人しくしていてください」
藍奈は冷静だった。
内心では整理が追い付かず、かなり精神的負担が大きく、銃を持つ手が震えていた。
「...す」
「何だって?」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
グロックのマガジンをロングマガジンに変え、モードをセミオートからフルオートへと切り替えた。
「...藍奈」
「...はい」
「伏せてろ」
殺意、復讐心。
それらの感情に駆られた彼はもう人間ではなかった。
有栖を殺した犯人に実弾が装填されたグロックの銃口を向ける。トリガーを引けば奴を殺せる。
「へっ、そんなのでいいのかよ」
相手の銃はデザートイーグル、その銀色に光る銃身は死を意味していた。
「...くたばれぇぇぇぇぇぇ!!!」
轟音が連続して鳴り響く。
腕は振動で震え、相手の撃ってきた弾丸が肩を貫通するが、復讐に駆られた彼の前では無意味だった。
相手の体には無数の穴が空いていく。
___ガキン!!
金属が擦れ合う音と共に、右手に激痛が走る。
「...あ、ああ」
スライドが大きく歪み、赤色の液体が飛び散る。
暴発したのだ。フルオートに耐えられず、部品が破損。暴発した。
藍奈は目の前の光景を見て、ただ口を小刻みに震わせることしか出来なかった。
「叶魅!藍奈!」
右目に眼帯をした圭が到着したが、事は終わっていた。
立ったまま意識を失った叶魅と震える藍奈、そして死体となった有栖と有栖を殺した犯人。

「は!?小暮の消息が消えた!?」
電話越しに聞こえる志摩奏太しまそうたの声に圭は驚きを隠せなかった。
『はい、どうやら叶魅さんたちが帰ってきたすぐに行方が分からなくなって』
「おいおいマジかよ...。まあいい、今はあいつらの回復が最優先だ」

「ふふっ...叶魅、指が上手く動かなくなっちゃったね。私がご飯食べさせたり体洗ってあげたりやってあげる。私はあなたのパートナーだからね」
聖華季は、目を覚まさない叶魅に声をかけていた。
絶望の歯車。


6話終了です。