ダーク・ファンタジー小説
- Re: 共犯おにいさんといっしょ ( No.5 )
- 日時: 2022/11/30 22:06
- 名前: 暗 海津波 (ID: hpvIgKEu)
■4話
3日も経てば、殺し屋が教師をやっているなんて知らない無垢な子どもたちは、私を受け入れた。そして、3日も生徒2人の行方不明が続けば、その不安は波紋のように広がっていく。
「せんせぇ、来た瞬間にがっこーがこんなんで、気が滅入っちゃいますよねえ」
「橘さんもクラスメイトが行方不明なんて不安でしょう」
「えー苗字? 下の名前で呼んでくださいよ。ツグミちゃんって」
若い男教師であるだけで、女子生徒に好かれるのか、美術室によく遊びに来る生徒がいた。イヅチくんと同じクラスの女の子だ。彼らのクラス担任の先生は、行方不明者が出たということもあって、保護者への説明やら警察との話だので忙しくしていたため、その間に生徒の相手をする人材を必要としてきた。そこで、私がやりますと名乗り上げれば誰も私を疑うこともなく任せてくれた。
そうやってイヅチくんのクラスメイト達と話す機会が多かったお陰で、打ち解けてくれたのが彼女である。
「ツグミさんは、よく美術室に来ますね。美術がお好きなんですか」
「えー、ンフフ。せんせぇのことが好きなんですよ」
教卓の横まで来て、上目遣いでこちらを見つめてくる。高校生のくせに、色目の使い方をよく理解していて、最近の若い子はませてるなあなんて思う。
「はいはい、ありがとうございます。ただ、用もないのに美術室に来ないで下さいね」
「用、ありますよ? せんせぇとお話したいんです」
「先生はお仕事するために美術室にいますので、邪魔しないでいただきたいのですがね。困った子だ」
先生は、なんて。殺し屋のくせに。この生徒が私の正体を知ればどんな顔をするのか、少し悪戯心が揺れる。殺し屋のモットーは隠密だから、勿論簡単に打ち明けたりなどはしないが、恐怖する人間の顔を想像するのは心地よかった。
「ツグミさんは、行方不明の生徒たちとは仲が良かったんですか」
雑談のつもりで話題を振ったのだが、彼女は表情を強張らせた。何か関係があったのかもしれない。
「仲。良かったです」
「そうですか。それだと、寂しい思いをしているでしょうね。早く戻ってきてくれるといいですね」
「……せんせぇ。もしかしたら、イタチくんがいなくなったのは、わたしのせいかもしれないんです」
ほう、と目を丸くして、話の続きを促す。
「わたし、実は1週間前くらいにイタチくんに告白したんですよ。でも、振られちゃって。わたしを振るなんて許さない、死ね、呪ってやるーってずっと思ってたんです。だから……」
「呪いでイタチくんはいなくなったというのですか?」
イタチくんはイヅチくんの双子の弟だ。正直、そんなオカルトは関係なくて、イヅチくんの埋めていた遺体の正体がイタチくんなのではと思っている。
ツグミさんは、至って真面目な顔をしている。本気で呪いとか、自分のせいとか思っているのだろう。
宥めるために、彼女の肩に手を置く。
「呪いで人がいなくなるのは、少し現実的ではないでしょう。きっとあなたのせいではないですよ」
「呪いはありますよ」
美術室の扉が開く音と共に、そんな声が飛び込んできた。二人してそちらを見れば、ボブヘアの女子生徒が冷たい目でこちらを見ていた。
「あ、シオちゃん。迎えに来たの?」
ツグミさんに呼ばれた彼女は少し飽きれた様子で肩をすくめる。
「最近美術室に通い妻だね、ツグミ。トキワギ先生に目ぇつけてるの?」
「んー、ふふふ。人聞き悪いよぉシオちゃん」
トキワギ先生。私の教師としての名前だ。このシオさんという女子生徒もまた、イヅチくんのクラスメイトだったはずだ。
「シオさん、呪いというのは……?」
「呪い、あるんですよ。田舎だから。先生は東京から来たんでしたっけ。それじゃあ知らないかもしれないですね。深泥池の蛟様の話」
「みどろがいけ……みずちさま……?」
「学校の裏に山があるでしょう。あそこに底なし沼があって、沼に封じられてる蛟様を怒らせたんですよ、あの二人は」
「あの二人というのは、行方不明の?」
「そう。イタチくんもトカゲも、あの肝試しの日に蛟様を怒らせたんだ」
肝試し。何か神聖なものにイタズラしてしまったとか、そんな話だろうか。
ツグミさんが首を横に振っている。
「あの件とわたしの呪いは関係ないよ。わたしがイタチくんのこと好きすぎて、悔しくて神社の絵馬に死ねとか呪われろって書いたから……」
「ツグミは悪くないよ。そういうことにしないと、悲しくなるでしょ?」
「シオちゃん……」
ツグミさんのやった何かとんでもないことを聞いた気がするが、それは気にしないでおく。
シオさんは話を続けた。
「夜杜神社っていう、あの山のそばの神社。あそこで昔肝試しをしたんです。あの神社では蛟様を祀っているから、あの肝試しがいけなかったんだ」
「その夜杜神社の絵馬に書いちゃったから、だから、わたしの呪いも関係あるってば」
ツグミさんはなんだか、自分が呪ってしまったからイタチくんが消えたことにしたいようにすら見えた。