ダーク・ファンタジー小説

繰り返す日々 ( No.1 )
日時: 2025/10/19 23:52
名前: ミートスパゲティ (ID: 8ltcwUAv)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

『PPP-PPP-』

甲高い耳障りな機械音とともに朝を迎える。

アラームを止めるついでに、登校時間まで余裕があることを確認し、俺はゆっくりと体を起こす。

「ん…。」

ベットから降り、軽く伸びをする。

窮屈なベットで夜を過ごした体は完全に縮こまってしまっていた。

筋肉一つ一つが伸びるのを全身で感じ、心地よさに襲われる。

そのままリビングへと足を進め、テレビを付ける。

『昨晩、暴力団「関東連合かんとうれんごう」による、集団誘拐事件で男女合わせ10人が誘拐されるなど…』

また昨日と同じようなニュースが流れている事を確認すると、先程までの心地よさはどこに行ったのか、今度はうってかわり一気に気怠さに襲われる。

いつ頃からだろうか。

ある日を境に、暴力団の活動が急激に活発化し、破壊行動、誘拐などが日常茶飯事に行われるようになった。

最初はどうにか手を打とうとしていた警察も、いつしか手が出なくなり、放置されたままとなっている。

現在、日本において大きな問題となっている。

このニュースと同様、俺の家族も同じように暴力団に誘拐された。

故に、長い時間を一人で過ごしている。

「家族が誘拐された。」なんて言っても、警察には別件で忙しいと相手にされずそのまま終いだ。

生活費などは遠くの祖父母から送られてくるので、一応生活はできる。

とは言え、祖父母にもそれぞれ自分達の生活がある故に、最低限の物だが。

腹が空いている訳では無いが、エネルギー補給のため、いつものように戸棚から食パンを取り出し、無造作に齧り付く。

味はしない。

ジャムやバターは一応はあるのだが、朝は何を食べても同じ様な気がするので別に塗る事はない。

毎日同じ様な事を繰り返している。

口に入っている食パンを噛み締めながらふと、そう思う。

それが善か悪か、なんてわかるはずもない。

ただ、繰り返す日々にうんざりしている事は事実だ。

ダラダラと食べていたせいか、かなり時間が経っていた事に気がつく。

急いで歯を磨き、制服に着替えて学校に向かう。

基本、学校に着くまではスマホをいじっているか、ぼーっとしているかの2択だ。

今日は昨夜余り寝れなかった事もあり、後者を選び、学校に向かって歩いて行く。

朦朧としている意識の中で、また喧嘩をしている声が聞こえる。

もう慣れてしまったためか、特になんとも思わない。

「何だよテメェ。」

「へ?」

急に声をかけられ、俺は抜けた声を出してしまう。

「だから何ガン飛ばしてくれてんだよって言ってんだよ。」

「はぁ…。」

厄介なのに捕まってしまった。

そう思い、足を少し速める。

「おい何逃げようとしてんだ?」

輩は何ともしつこく、俺に付き纏い続ける。

流石に鬱陶しいが、問題を起こすわけにもいかないので、無視を決め込むことにする。

「あ、拓海さん。」

そう決めたその時、誰かが俺の名前を呼ぶ声が聞こえたと同時、輩に自転車で突っ込んだ。

「えぇ…。」

思わずそう声を漏らす。

どういう事かは理解できないが、面倒事に巻き込まれているのは事実だ。

「おはようごぜぇます。奇遇ですねぇ。」

特徴的な喋り方、目立つ茶髪、耳元で輝く金色のピアス。

それはクラスメイトの中嶋宗樹だった。

「何しやがんだ!」

轢かれた輩が右足を抑えながらそう声を荒げる。

「何って、そんな所に立ってるアンタが悪いんでさぁ。」

クソが付くほどの暴論だ。

「お前ナメてたら…」

「うっせぇんだよ。」

輩が口を開くと同時、宗樹はもう動いていた。

目にも留まらぬ速さで的確に相手の鳩尾を殴りつけた。

輩は白目を剥き、地面に倒れ込む。

「うわぁ…。」

朝からとんでもない事に巻き込まれてしまった。

「さぁ、行きやしょうよ。」

宗樹が手招きしてくる。

目の前で人の事を殴り倒す様な奴の近くに寄りたくはないが、進行方向にいるので仕方が無い。

「お前そんな事してよ…。」

「大丈夫ですって。そんなことより早くしねぇと遅刻しちまいますぜ?」

俺の注意を聞こうともせず、宗樹は殴り倒した輩のポケットを漁っている。

「遅刻するも何も、お前がそいつを轢かなかったら何もこうはならなかったんだよ。わかるか?」

繰り返す日々の中で起きたバグの様に、こいつだけは本当に何をするかわからない野郎だとつくづく思う。

「あ、ありやした。」

宗樹は財布を手にしてそう言う。

革製で見るからに高そうな見た目をしている。 

宗樹のでは無い事はわかりきっている。

「おい、流石にそれはやめとけよ。」

宗樹は俺の忠告を聞く様子も無く、中身を数え、ご満悦、といった様子でそれを颯爽と自分のポケットに入れる。

そこらの輩よりもよっぽどに悪質だろう。

「奪い合いの世の中ですぜ?こんな事でもしねぇと生き残れませんよ。」

宗樹は上機嫌だ。

「もう知らねぇからな。」

そう言い、宗樹の自転車をパクり、学校に向かう。

「おい、拓海。それ俺の!」

宗樹はそう俺の後を走って追いかけてくる。

「奪い合いの世の中なんだろ?」

これで学習させよう、俺はそう考えたのだが、すぐにその考えが甘かった事に気がつく。

「あ、もういいですよ。」

気づけば宗樹は俺の隣にいた。

それも自転車に乗って。

「は?お前のチャリは…」

「またパクってきやした。それもあげやす。どうせパクったやつですし。」

どんなクソ野郎だと思い、俺は急いで自転車から降り、道の端に止める。

(持ち主の方、すんません。)

心の中でそう謝罪を申し上げる。

暴力団より、こいつの方が問題と言っても過言では無い。

「何してんすか、早く行きますよ。」

宗樹はハンドルに付いているベルを鳴らしながら、学校に向かってペダルを強くこぎ出した。