ダーク・ファンタジー小説

拉致 ( No.100 )
日時: 2023/10/21 00:04
名前: ミートスパゲティ (ID: LQINEF0U)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

「ぅあぁ…。」
眠りから覚めた俺はそう唸り声を出し、体を起き上がらせる。
(ここは…?)
そう思い周りを見渡す。
そこは薄暗く灰色の壁と所々何かを加工する機械のようなものが置かれていた。
もう使われていない工場か何かなのだろう。
(そうだ…俺はあいつらに捕まえられて…。)
何故自分がこんなところにいるのか、少しずつ思い出してきた。
"奴ら"に捕まえられ、ここに拉致られたのだろう。
ここに虎徹達がいないということは恐らく逃げ切れたのだろう。
それだけは不幸中の幸いだ。
「とにかく、ここから逃げねぇと…。」
そう俺は手足に縛られた縄を解くためにジタバタと動くが、縄は外れそうにない。
「お目覚めか?」
そう一人の男がドアを開け、部屋の中に入ってくる。
「いつ見てもムカつくツラしてんな。」
俺はその男を軽く挑発する。
「それはお互い様だ。」
男は俺の挑発を受け流し、そのまま近づいてくる。
「涼…。何のために俺を拉致る?」
俺はそう男…いや、元扇堀豊連合軍の総大将の一人であり天使エンジェルの総長、長澤涼に尋ねる。
「単純な話だ。お前ら悪英雄をぶっ壊すためだよ。」
そう涼は俺の前に座り言う。
なるほど。俺を人質に取ったって訳か。
だが、俺はスマホもポケットにあることは確認済みだ。
「甘いな。あいつらはすぐここを特定して来るぞ。」
幸太郎も佑樹もいる。
幸太郎は情報屋のため、殆どの情報は耳に入るはずだ。
そしていざとなれば佑樹が俺のスマホをハッキングして特定してくれるだろう。
「それを利用するんだよ。」
そう涼は俺の予想していた斜め上の答えを出す。
「お前、永瀬龍心という存在は悪英雄にとって必要不可欠。必ずお前の仲間はお前を助けに来る。」
「そこであいつらを潰そうってわけか?無理に決まってんだろ。あいつらはお前らなんかに負けねぇ。」
「当たり前だ。俺だって奴らに勝てるなんて思っちゃいない。そのためのお前だ。」
そう涼は言い終えると懐から何かを取り出す。
「おいおい…。」
嫌な汗が流れるのがわかる。
涼が懐から取り出したもの、それは紛れもない刺身包丁だった。
「これでお前の首を跳ねるか、悪英雄を解散するか。奴らに選ばせてやる。せいぜい楽しみにっているんだな。」
涼はそう言うと部屋から出ていく。
(さっきの刺身包丁。何か引っかかる…。)
俺はそう考えを巡らせる。
だが、少し経つとそれが無駄だということに気づいた。 
今は何もできないのだから。
「今は気長に待つしかねぇよな。」
そう俺は思い、縄を解くことを諦めて再びコンクリートの硬い床に寝転んだ。