ダーク・ファンタジー小説

徹夜の成果 ( No.70 )
日時: 2023/09/09 23:17
名前: ミートスパゲティ (ID: LQINEF0U)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

「ただいまー、って誰もいねぇよなぁ…」
そう抗争から帰ってきた俺は真っ暗な倉庫で一人で呟く。
そこまで大きいチームではなかった。
だがまぁなんとも粘り強かった。
それに加えてスマホの電源が切れてしまい帰るのにも一苦労した。
昼には帰ると言っていたのにかなり遅れてしまった。
「このチャカもダメか…。」
俺はそう今回の抗争で使ったチャカを床に捨てた。
その投げ捨てたチャカが光を反射し俺は警戒の体制を取る。
俺はそのままおそるおそる近づく。
「綾也か…って龍心!?」
綾也かと思って声をかけたのは龍心だった。
「労働労働労働労働労働。」
龍心は休む暇もなくそう言い続けながらパソコンをキーボードをひたすら叩き続ける。
「モ〇スターって…。どんだけだよ。」
俺がそう呟くとようやく龍心は気がついたらしい。
「お前のとこの副総長イカれてるな。」
そうこちらを振り向き一言だけ言うとまた目線をパソコンに戻し操作し始める。
(綾也か…)
関西連合は地方連合と言うだけあって、仕事も多い。
普段は下の奴らが大人数でしてるけど、今はほとんど抗争に貸し出されているため綾也が一人でするしかなかったのだろう。
それを龍心に押し付けたってわけか。
「てかなんでお前がここに?」
俺はそう龍心に聞く。
のこのこめんどくさい仕事をわざわざしに来るやつなんかこの世界に誰一人もいない。
何か理由があるのだろう。
「悪英雄から転職して社畜になりました。」
そう訳のわからないことを言いながら必死にキーボードを叩き続けている。
「話通じねぇな。」
俺はそう呟き理由を聞くことを諦める。
まぁ、仕事中の綾也もいつもこんな感じだからもう慣れているが。
腕時計を見てみるともう夜中の2:00だ。
「家に帰るまで時間がかかるし…。」
ここで寝るしかないな。
そう思い俺は地面に布を引き簡易の布団を作る。
俺はその布に寝転がりまぶたを閉じる。
キーボードの音だけが聞こえる中、俺の意識は暗闇へと落ちていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「んおぉ…。」
俺は体を起こす。
「痛ててて…」
やはり失敗だったか。
布が薄すぎたせいか、体中が痛む。
外を見てみると太陽はかなり高くまで上がっていた。
もう昼頃だろう。
寝すぎたなと思いつつも痛めた体をもみほぐす。
「龍心は…」
そう思い俺は再び中に入る。
龍心はというと結局昨日一睡もしなかったのだろう。
仕事を終えパソコンをつけたまま寝ていた。
「って、データ飛ぶぞ!?」
俺は急いでそのデータを保存し電源を消し充電コードを繋げた。
パソコンの充電は残り2%。
本当にデータがとぶところだった。
「あ。」
結局何でここに来たのか聞いていなかった。
聞こうと思い起こそうとするが随分と気持ちよさそうに寝ているため起こそうとは思えない。
「待っててやるか。」
そう思い俺は龍心の寝ている隣の椅子に座る。
「グゥ~…」
俺の腹の音だ。
朝飯を食っていない上にもう昼だ。
当たり前だろう。
コンビニで何か買ってこようと思い俺は立ち上がる。
「よぉ。」
ちょうどその時、綾也がビニール袋を持って倉庫に入ってきた。
「やっぱここにいたか。」
そう綾也が言うと「ホイ。」といいビニール袋事投げてきた。
中にはおにぎりがいくつか入っていた。
「流石だな。」
俺はそう言うと早速おにぎりを食い始める。
「ところで何で龍心がいるんだ?」
そう綾也に尋ねる。
倉庫にいたのは綾也だけだから知っているはずだ。
「武器がほしいって言ってたから仕事終わらせたらやるって言ってさ。」
そう綾也が俺の隣の椅子に座る。
「鬼かよ。んなもんいくらでもあげたのに…。」
龍心が気の毒で仕方ない。
「まぁ、それは置いといて本当に1日で終わらすとはな…。」
綾也も少し引いている。
元はと言えばあんたがやれって言ったんだろう。
そう言いたい気持ちをこらえ俺も頷く。
「ん…。」
そんな話をしていると龍心がムクリと起き上がった。
「ヤベ!データ!」
起きたと途端真っ先にパソコンを見てそう言った。
「安心しろ。俺が保存しといた。」
俺がそう言うと龍心は安心したように机にうつ伏せになった。
「お疲れさん。」
そう綾也が手をたたきながら言う。
その途端、また龍心は凄いスピードで起き上がり綾也の方を見る。
「さぁ、武器だ。」
そう言う龍心の目は血走っていた。
どんだけやらされたんだよ。
「こっちだ。」
俺がそう思っていると綾也が立ち上がり倉庫の方に向かう。
「チャカ10丁、サブマシンガン5丁、アサルト3丁。それぞれ弾を2000発ずつ付ける。」
そして扉を開きそう言った。
綾也にしてはかなり良い褒美だ。
まぁ、徹夜で働かしたんだからそれくらいがちょうどだろう。
龍心は黙ったまま首を縦に振った。
綾也がトランクケースの中に入れて龍心に渡した。
紙袋か何かに入れてサツに見られたらおしまいだ。
「ケースは今度返せよ。」
そう綾也は龍心に警告する。
龍心は背を向けたままこちらに向かい親指を上に立てる。
「また頼むわー!」
そう綾也が去りゆく龍心の背中に向かい大声で叫ぶと龍心は歩みを止めこちらを振り返る。
「二度とゴメンだ。」
口ではそう言っているが顔は笑っていた。
そして再び歩きだす。
その背中はおもちゃを手に入れた子供のようだった。
俺はそれを見て複雑な感情になる。
「何をぼやっとしてんだよ。」
そう綾也に背中をたたかれる。
「痛えよ。」
そう俺は言った。
武器を貰った子供が喜ぶ。
そんな世界聞いたことがない。
だが今の日本ではそれが当たり前に起きているのだ。
こんな時代は早く終わればいい。
俺はそう思った。
だが待っていたら誰かがやってくれるというわけではない。
自分で変えないといけないのだ。
この世界を。時代を。
そう思い俺は拳を強く握りしめる。
二度とあんな悲劇が繰り返されないために。
俺は歩みを止めてはいけない。
そう思い俺は綾也のあとを追いかけた。