ダーク・ファンタジー小説

Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.11 )
日時: 2023/03/26 18:58
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)

 
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 入学式から早一週間経とうとしていた。
 
 教室の窓から満開の桜が見える。
 微かな風で大量の花弁を撒き散らし、透明で何も無い宙を華やかに彩っていた。

 授業内容をノートに書き写していた俺は、息抜きとして窓の外を一瞥する。
 ほうっ、と感嘆の息をもらす。

 現在は保体の授業だ。内容は一般常識に近いものばかり。保体の授業についてのオリエンテーションらしい。
 退屈だが、入学直後の授業なんてこんなもんだろう。
 
「魔法というのは様々な種類があるが、大まかに分けると七系統ある。これらは〈八大魔法はちだいまほう〉と呼ばれている」

 魔法は七種類あるのに"八大"魔法と呼ばれている。
 可笑しい話だが、俺はリアクションせず鉛筆を指に絡ませた。
 昔から知っていることだから、今更何とも思わないのだ。

「八大魔法に含まれるのは、炎系統ほのおけいとう地系統ちけいとう嵐系統あらしけいとう雷系統らいけいとう氷系統ひょうけいとう岬系統みさきけいとう闇系統やみけいとう
 まあ、説明するまでも無いだろうな」

 基本的に適性系統は一人につき一つ。二つの場合もあるがかなりのレアケースだ。
 俺は特殊な生まれではあるが、闇系統一つが適性とごく平凡。
 俺が黒髪なのも適性系統が影響している。
 
 軽く自分の髪を弄ってみる。ジャリジャリと音がしただけだった。

「魔法"系統"と呼ばれる理由は、同系統と定義付けられた魔法が──というと面白くないな。
 噛み砕いて言うと、炎ぽい魔法同士とか氷ぽい魔法同士とか、仲間っぽい魔法が集まってできたのが"系統"だ」

 授業に飽きた俺は机の中で別教科の教科書を開いた。先生から見えないよう、内職を始める。 

「あー、話すこと無くなった。もう一度同じ話をするか。魔素というのは──」

 間抜けた先生の声が教室を包む。それに生徒は騒めくが、先生は気にしなかった。
 
 こんな適当な先生の授業に出るぐらいなら自室で勉強をしたかった。
 けどそういう訳にもいかない。
 夜刀学院には午前の共通授業と午後の選択授業の2種類があって、保体は前者。
 嫌でも出席しておかないと、最悪退学になってしまうのだ。

「玫瑰秋」

 俺は教科書のページをめくる手を止めた。と同時に、体をビクッと震わせる。
 頭上から俺を押し潰す様な低い声が落ちた。
 全身が凍りついて、俺はゆっくりと見上げる。

 2メートルの学院長ぐらいの長身男性が俺を見ていた。
 茶色の左目を除いて全身包帯で覆われており、上から一枚黒い着物を崩して着ている、化け物と勘違いしそうな男性。

 さっきから適当な授業をしている保体担当の、〈秋野あきの 花霞かすむ〉先生だ。
 見た目が恐ろしいため、生徒には敬遠されている。俺もその中の一人だ。

「内職ならもっと上手くやれ」

 もっと別に言うことがあるんじゃないのか? 
 思っても口に出す勇気は毛頭無かった。
 俺は「すみません」と萎らしく謝って教科書を閉じる。
 それを確認したカスム先生は、黙って俺の席から去った。

 凍っていた体が瞬時に溶けて俺はホッと息を吐く。
 それでも退屈なのは変わらず、前を向いてぼーっとしていた。
 前の席は狐面を被る白髪の少女、ビャクダリリーが居た。だから教台を見ると嫌でも白髪が視界に入る。
 それが鬱陶しくて仕方がなかった。

 リンリンリン

 授業の終わりを知らせる鐘が鳴った。
 やっとか、と俺は軽く背伸びする。

「今日はこれで終わりだ。次からは実技が主体になる。心の準備をしていてくれ」

 そう言って、カスム先生は手ぶらで教室を去る。
 不気味な怪物だったカスム先生が去って、教室の雰囲気が柔らかくなったのを感じた。

  3.>>12