ダーク・ファンタジー小説

Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.12 )
日時: 2023/03/26 18:58
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)

 
 3
 
 共通授業最後の保体を終えた後は何があったっけ。そうだ、選択授業だ。
 俺達の学年〈はなだ〉は未だ選択授業を受けられない。受ける授業を決めていないからだ。
 そういう訳で、次は選択授業についての説明が行わるんだったな。
 
 俺は軽く教科書を机から出して整えた。
 それを抱えて教室の外にある自分ロッカーへ向かおうとする。

「ヒラギー、ヨウー!」

 ルカが金髪のツインテールを軽く弾ませてやって来た。
 目付きが悪いユウキも一緒だ。

「あぁ、ルカ、ユウキ。どうした?」

 俺はロッカーにしまうつもりの教科書を胸に抱え、聞いた。

「次、選択授業の説明会だろ? 一緒に行こうかと思って」

 ユウキがニカッと笑った。

 俺は友達と思っているが、客観視俺らは特段、仲が良い訳では無い。
 けど入学式の事もあってか、俺らは共に行動することが多くなっていた。
 他の仲良い級友が居ないこともあるんだろう。

 どっち道、ユウキとルカは大歓迎だから嬉しいんだが。
 
「あと、ヒラギは?」

 ルカがビャクダリリーの愛称を呼んで教室を見渡した。ユウキも釣られて視線を教室に巡らす。

 ビャクダリリーなら俺の席の前に居るじゃないか。
 怪訝に思いながらも、ビャクダリリーの場所を伝えようと口を開く。

「あっ、ヒラギ居たんだ」

 その前にルカがビャクダリリーの存在に気付いて、俺は口を閉じた。
 ユウキが申し訳なさそうにビャクダリリーに言った。

「ヒラギずっとそこに居たのか? 気付かなかったんだが……」
「あぁ、気に触ることはないよ。この〈認識阻害にんしきそがい〉の魔具まぐのせいだと思うから」

 ヒラギセッチューカは軽く笑いながら、自身の狐面を指して言った。
 
 〈認識阻害にんしきそがい〉というのは闇系統の魔法で、その名の通り認識を阻害する事が出来る。
 そして魔法道具まほうどうぐ──魔具まぐというのは名の通り、魔法がかけられた道具。
 かけられた魔法の効果を発揮するのだ。

 きっとヒラギセッチューカの狐面は、認識阻害の魔法がかけられた道具なのだろう。

「認識阻害? あ、そっか。白髪だから──」

 ルカは口に手を当てて申し訳なさそうな顔をする。
 それをビャクダリリーは「気にしてないって」と笑って、ルカのフォローをした。

「なんで入学式の時にそれ、使わなかったんだ」

 俺は責めるようにビャクダリリーに聞いた。
 その狐面を使っていれば、ブレッシブ殿下に目をつけられることも無かっただろうに。

「装身具は禁止だったじゃん。少年〜プリント見たかい?」

 ビャクダリリーにからかわれた俺は罰が悪くなって「チッ」と舌打ちをし、目を逸らす。
 
 しかし、おかしい。
 〈認識阻害〉の魔具は、対象の人物が何者か認識出来なくなるだけ。
 存在が認識できなくなる様な効果は無いのだ。
 それに、俺は最初からヒラギセッチューカを認識できていた。
 
 違和感はあるが、さっきからかわれたこともあって質問したくなかった。

「それで、選択授業の話だっけ?」

 ビャクダリリーは話を戻す。
 
「そうそう!」

 ルカは白髪に触れてしまって申し訳なさそうにしてたが、切り替えて明るく言った。

 何故か四人で行く空気になっている。俺はそれが嫌だった。
 できる限り敵意を見せないよう、俺は自然に口を開いた。

「わざわざ〈白の魔女〉に近づくことは無いんじゃないか?」

 場の空気が凍った。
 ルカは呼吸と共に「え?」と声を漏らし、ユウキは少し眉を歪めている。
 けれど俺だって、悪いことを言ったつもりは無い。

「〈白の魔女〉じゃなかったとしても、それと近い物だろ? こんな気色悪い奴と過ごすのは危険だろ」
「何言ってんだよ……」

 ユウキが困った様な顔をする。俺は「何がだ?」と首を傾げた。
 ユウキは俺とビャクダリリーの顔を交互に見て、顔を歪める。どちらに何を言うべきか悩んでいるのだろう。

 予想通りの反応である。ルカとユウキの顔を見ると心が痛む。
 しかし、ビャクダリリーと行動を共にする方が嫌だ。

「そういうのは良くないでしょ。ほら、私たち友達だし?」

 ルカが冷たい声で言った。
 
「ビャクダリリーとは友達じゃない。だって白髪だぜ?」

 三人は黙った。
 これでは俺が悪者みたいじゃないか。 

「大丈夫。ルカとユウキは俺にとって大切な友達だ」

 余計、ルカとユウキが顔を歪めた。
 俺は軽く首を傾げる。そこまでビャクダリリーを気にかける理由が分からないんだ。

 白髪というだけで嫌厭の対処なのに、更にビャクダリリーは嫌な奴だ。
 俺程では無くとも、少しはビャクダリリーを嫌ってると思っていたんだが……。
 
「あ、ヒラギが居ない……」

 ルカがハッとした。
 俺の前の席に座っていたビャクダリリーが、いつの間にか居なくなっているのだ。
 認識阻害の狐面のせいで誰も気付かなかったらしい。
 
 ルカがビャクダリリーが座っていた椅子に手を伸ばす。
 けどそこには誰も居なくて、何にも触れられ無かった。

「なあ、ヨウ。ヒラギの事嫌いなのか?」

 ユウキが申し訳なさそうに聞く。
 
「逆に、白髪が好きな奴なんて居るのか?」

 ビャクダリリーへの嫌味と、素直な疑問を込めて俺は言った。
 
 4.>>13