ダーク・ファンタジー小説

Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.13 )
日時: 2023/03/26 18:58
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)

 
 4

 選択授業の説明会。
 授業開始の合図がなる前に大講義室に着くことが出来た。
 ギリギリ間に合った、と俺はホッとする。

 選択授業はクラス行動では無い。だから席は自由である。
 俺はルカと共に教壇が見えやすい席に座る。
 ユウキはビャクダリリーを探すとか何とか言って共に来なかった。
 
 ユウキもビャクダリリーに結構言われていたのに、物好きな奴だ。
 今まで友達が居なかった俺は、ルカとユウキから離れたくなかった。だからビャクダリリーが邪魔なのだが……。
 まあ、二人がビャクダリリーを嫌いになるのも時間の問題だろう。

「生徒諸君、良くぞ集まってくれた! 只今より選択授業説明会を開始する!」

 学院長が教壇に立ってる。説明会が始まるようだ。
 相変わらずマイクを使ってないのに、心に染み渡る不思議な声をしてる。
 大講義室内に『おぉっ』と生徒たちの籠った声が木霊した。
 
「学院長がいらっしゃるんだ」

 横のルカがボソッと呟いた。
 確かに、選択授業の説明会を学院のトップが行うのは怪訝に思うが、害がある訳でも無いだろう。
 俺は「意外だな」と軽く返事をする。

「選択授業。自分の意思で学びの道を選び、自分の意思で技術を高めることができる。素晴らしいとは思わないか!」

 学院長が身振り手振りを付けながら、聞き取りやすい声で言う。
 生徒達の高鳴る胸の鼓動を更に巻き上げ興奮させる。早鐘を鳴らす俺の心臓と興奮に酔いそうになった。
 
『うおおおぉ!』

 俺と同じ状態であろう生徒達が各々声をあげる。
 バラバラの筈の呟きが一つの音となり大講義室に響いた。
 俺も叫びはしないが興奮を煽られて視線が学院長から離れない。
 ルカも大声では無いが興奮を口にしていた。

「本日から選択授業の見学が始まる。自分の体で経験を得て、様々な意見に耳を傾けつつ、自身のやりたいことを貫いてくれ!」

 俺たちは現在最高のモチベーションを持っている。
 これが〈夜刀教〉教祖、夜刀月季か、と感嘆の息を漏らす。
 入学式に抱いた学院長への嫌悪感は、いつの間にかどっか行っていた。

「では本題に入ろう」

 瞬間、空気が講義室内が凍りついたように静かになる。
 全身にピリピリと静電気が流れるような感覚。
 それに俺達の興奮は冷め、興味とモチベーションだけが残っていた。
 
「選択授業の殆どは専門の知識と技術を身につける事が目的であり、世界の発展に関わる重要な分野となっている。その中から二つ、君たちには選んでもらう」

 学院長は身振り手振りを加え、文節に間を置き、聞き取りやすい声で説明を始めた。

「選択授業は八大魔法コース、精霊術師コース、憑依術士コース、召喚術師コース、魔素研究コース、陰陽師コース、魔法研究コース、魔具研究コース、加護研究コース、夜刀コース。この十種類がある」

 学院長は何も見ずに板書を初め、ルカや他の生徒達はノートにメモを取り始める。
 精勤なこった。
 
 選択授業については入学案内書に大体書いてあった。保護者向けだから、生徒で読んだ者は余り居ないだろう。
 しかし保護者不在の俺はそれを読んで、軽く暗記もしている。
 今更説明を聞く必要も無い。
 けど何かしら指示があったら困る。
 俺は退屈とまでは行かなかったが、ぼーっとして学院長の説明を聞いた。

 選択授業は別に強制では無いから選ぶコースは一つでも良いし、逆に受けなくても良い。
 ただ、夜刀学院の目玉は選択授業の内容の濃密さだ。
 受けないと勿体ない。
 
「次は憑依術士コースだ。このコースは全コースの中で一番入るメリットが高く、卒業後も夜刀である俺が全力で支援を──」

 卒業後も学院長が支援? そんなの入学式案内書に書いていなかった筈だが──。
 聞いたことがない憑依術士コースの内容に興味を惹かれた俺は、学院長の声に意識を集中させる。

「憑依術は素晴らしい! 生物の進化を助ける有力な研究であり、不老不死も夢では無い。
 失われた技術である“憑依術”の探求をするのが、憑依術士コースだ」

 ヤケに“憑依術”を強調するな。
 憑依術ってそんなに重要な分野だったか?
 まあ、生物の進化とか、不老不死に興味が無いから何でも良いが。
 他にも色んななコースがあったなと、俺は入学案内の内容を思い出す。

  5.>>14

Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.14 )
日時: 2023/03/26 18:59
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)


 5

 実用的な魔法について学ぶ〈八大魔法コース〉
 魔法関連の職に就につくなら必須で、大半の生徒が選ぶ。
 精霊について学ぶ〈精霊術師コース〉
 魔物という生物について学ぶ〈召喚術師コース〉
  都市ラゐテラだけに出現する謎の存在、妖怪について学ぶ〈陰陽師コース〉
 魔素について研究する〈魔素研究コース〉
 八大魔法とは違い、魔法の根本を研究する〈魔法研究コース〉
 魔具についての研究をする〈魔具研究コース〉
 特定の種族や個人が持つ〈加護〉について研究する〈加護研究コース〉
 世界ディアペイズの治安を維持する夜刀教の派生団体、夜刀警団への入団に必要な事柄を学び、学院都市の治安維持も担う〈夜刀コース〉
 
 魔法に関する科目が主だが、陰陽師コースと夜刀コースは例外らしい。
 本職と変わらない事をするとか。
 
 俺は八大魔法コースに入ることは決めていて、あと一枠空いている。
 折角入学できたのだから、無理やりにでもこの枠を埋めたい。
 しかし、全て俺の興味をそそらない。

 俺はどのコースを選ぼうかと考えながら、“学院長の授業”よりも“教祖の演説”の方がしっくりくる話を聞いていた。

 選択授業の説明が終わると、次は見学期間についての説明が行われる。
 一定の期間、授業を見学したり体験たりすることが出来るらしい。
 コースを選び悩んでいた俺にはピッタリだった。

「──では、今後とも精進してくれ」
 リンリンリンリン

 学院長がそう言った瞬間、授業終了の鐘が丁度鳴った。あまりにも都合が良すぎて俺は驚く。
 学院長は美しい顔のパーツを微小に動かして笑い、生徒達に手を振りながら去る。
 生徒達は一斉に動き出し、大講義室が騒がしくなった。
 
「ヨウー。選択授業どこ行く?」

 隣に居たルカに問われ、俺は数秒考える仕草をした。
 
「夜刀コース」

 将来のことなどキチンと考えられない。
 "現在の目標"を達成することに精一杯だからだ。
 仮に目標を達成しても、生きているか分からない。
 
 けど、仮に俺が無事に卒業出来たのなら、人を助けたり犯罪を防ぐような治安維持に尽力したい。と思ってしまった。
 夜刀コースにする。今決めた。
 
「夜刀コースかぁ。って事は夜刀師団やつのしだんにも入るの?」

 ルカと俺は荷物をまとめ、大講義室の出口へ向けて歩きながら話す。
 
 師団というのは授業、学年の枠を超えた集まり。簡単に言うと部活動である。
 夜刀師団は夜刀コースの延長の様な物で、やることは大差ない。
 強いて言うなら、師団の方が選択授業よりも楽といった所だろうか。

「嫌、俺は〈司教同好会〉だな」
「司教同好会? 聞いたことないんだけど、師団?」
「去年作られた師団で人数も少ないから『同好会』らしい」

 俺はそう言うと、ルカよりも素早く歩き、追い抜いた。
 大講義室の扉を開ける。
 それを見てルカは焦るように俺を引き止めた。

「ちょ、ちょっと。この後見学でしょ? ヒラギとユウキとも……」
「行きたい所があるんだ。明日、ユウキと一緒に行こう」

 俺はそう言って大講義室の扉を閉め、転移陣の上に乗った。
 足元から黒い煙がゆっくりと出てきて俺を包み込む。ルカの無表情も黒く霞み、俺はその場から消えてしまった。

「面倒くさ……」

 ルカが何か呟くが、内容は聞き取れなかった。
 まあ、いいだろう。
 俺は気にせず、目的の旧校舎へ向かった。

 【終】