ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.15 )
- 日時: 2023/03/26 18:59
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
《魔女への最高打点地雷》
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一方その頃。
ヒラギセッチューカ・ビャクダリリーは、学院都市の大通りを歩いていた。
認識阻害の狐面を被り、景色を楽しむ。
町は和風の風景であり、なんか京都の観光地みたいだな、とヒラギセッチューカは思っていた。
(いや、建物は京都の観光地よりも高いかもしれないなー。実際に比べられたら良いんだけど出来るわけ無いし)
ヨウからの毒舌など気にしていないのか、ヒラギセッチューカはそんな呑気なことを考えていた。
たまに馬車が通っていたり、他の都市からやってきた洋服の人が居たりと、街並みは和洋で入り乱れている。
しかし『和』という要素を少し入れただけで、これだけ懐かしい感覚に襲われるのは何故だろうか。
ヒラギセッチューカは不思議に思いながら歩を進める。
グウゥ……
様々な香りが人々の空腹を刺激し、ヒラギセッチューカも腹を鳴らす。
しかし彼女は一文無しに近い程の貧乏であったため、唾を飲み込み我慢した。
濃い青に輝く瓦を乗せ、白い外壁に包まれた建物にたどり着く。
ヒラギセッチューカは解放されている大きな扉を潜った。
白い砂の道に、池やその周りに生えている綺麗な黄緑の草木。薄桃の桜が、景色を鮮やかにしている。
ヒラギセッチューカは、その景色に、ほぅ……と息を漏らした。
学院都市の中央に位置し、和風の街並みに建っているにも関わらず、存在感を放っている寝殿造。
ここは〈陰陽師コース〉の活動場所であり、ヒラギセッチューカは見学に来ていた。
「妖怪って何なんだろ」
ヒラギセッチューカはボソッと呟く。
彼女は『妖怪』と呼ばれる物を知らない。
だからこそ、妖怪に深く関わる〈陰陽師コース〉に興味を持って見学に来たのだ。
玄関でブーツを脱ぐと、ヒラギセッチューカは見学の案内に沿ってとある教室へ行った。
陰陽師コースの教室は畳が敷かれ、縹校舎の教室よりも1.5倍程大きく細長かった。
既に見学に来ている生徒も居るが、狐面をつけているヒラギセッチューカには誰も気付かない。
彼女が並べられている文机の一つに正座すると、丁度先生がやって来た。
「陰陽師コースの見学授業──いえ、お試し授業を始めますよ〜。皆さん静粛にお願いしますね」
ひんやりとした女性の声が教室に染み渡る。
生徒は先生が来た途端黙り、先生に視線を集中させる。
先生はその光景を当たり前のように扱ってチョークを手に取り、話を始めた。
「今日は、皆さんに妖怪について、知って欲しいなと思っています。
都市ラゐテラだけに出現する謎の存在妖怪。今回の授業は、その妖怪に遭遇した際の対処法を──」
妖怪と言われ、ヒラギセッチューカは河童やから傘お化け等の古典的な妖怪を思い浮かべる。
しかし、彼女は〈妖怪〉が生き物なのか自然現象なのかすらも知らないため、時間の無駄と結論付けて、考えることを辞めた。
「妖怪は出現時に外界との繋がりを断ち切る結界を張ります。この中に入ると、妖怪を倒すまで出ることが出来ません。
まずは、結界内に入ってしまった時の対処法をお話しましょう」
外で弓の練習をしている上級生達の音をBGMに、先生は淡々と話す。
(結界を張る妖怪? ますます想像がつかないなぁ)
ヒラギセッチューカは自分の想像力の無さに悔やみながらも、先生へ視線を向けていた。
「まず、妖怪には近づかないこと! 妖怪は触った物の〈魔素〉を吸収する特性があるのです」
先生の言葉に教室の雰囲気が少しピリピリし始める。
妖怪のことを知らないヒラギセッチューカでも、先生の言葉を受け多少恐怖していた。
〈魔素〉と呼ばれる物は、酸素や窒素のように大気中に漂っているエネルギーであり、魔法を使う上では必要不可欠だ。
「魔素逆流……」
教室の生徒の誰かが、そう呟いた。
「そうです。妖怪に触れると〈魔素逆流〉を起こしてしまうので、本当に! 触らないようにしてください!」
先生は先程よりも大きく、ハキハキした声で生徒達に念押をする。
一部を除いてだが、生物は魔素を失っても死んだりはしない。
しかしヒラギセッチューカ含め、彼らは〈魔素逆流〉に対して恐怖を抱いていた。
魔素は血潮と同じように、決まった方向に生物の体内を流れている。その流れを少しでも乱すと激痛が走る。
下手に魔素を吸われると、痛みのあまり廃人化するのだ。
それが〈魔素逆流〉である。
「ですので、妖怪の結界に入ってしまった場合、妖怪に見つからないように隠れてください。
陰陽師の助けを待って──」
先生は、学院都市の地図を黒板に貼り始めた。
そこには学院や広場、避難専用に作られた施設に、目立つ丸が記されている。
避難場所が記された地図、簡単に言えばハザードマップである。
しかしヒラギセッチューカは妖怪の正体が不思議で、集中して話を聞いていなかった。
「妖怪って怖い……」
ヒラギセッチューカの前の文机に座っている女子生徒が呟いた。
「大丈夫だって。二人だったら怖くないよ!」
そして、その隣の女子生徒が励まし、二人で笑っていた。
その様子をヒラギセッチューカは微笑ましく思いながら立ち上がる。
学校指定であるフラットタイプの革リュックを背負った。
「陰陽師という仕事は──」
授業は未だ終わっていない。
しかし、狐面を被るヒラギセッチューカが扉を開いても、気付く者は居なかった。
2.>>16