ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.24 )
- 日時: 2023/03/28 17:10
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: jfR2biar)
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「打開策、何か打開策──」
追い詰められた余り、心の声を漏らしてヒラギセッチューカは考える。
妖怪の体を構成するのは恐らく魔素だ。
魔素というのは、存在の“核”から自然生成もされる。
生物ならばその“核”は魂。しかし、妖怪はとても生物とは思えない。
何かしら魂以外の核があるはずだ。
「目玉──。こういうのは目玉が弱点って、相場が決まってなかったっけ?」
それは、ただの仕様も無い勘である。くだらない、ヒラギセッチューカの。
しかし黒い胴体と比べて、白く大きく一番目立つ目玉に目をつけるのも、間違いではなかった。
“目玉が核”とヒラギセッチューカは自身の直感を信じきる。
そして、先程と同じように四方八方の腕をかわし続ける。全ての腕の根源である妖怪の胴体へと歩を進めながら。
ヒラギセッチューカの前方から腕が伸びてくる。
それは今までの様にしなっていなかった。
弓矢のように真っ直ぐと、ヒラギセッチューカの足元に伸びてくる。
(急に動きが単調になったな。疲れたのかもしれないし、好都合!)
その慢心が、命取りであった。
ヒラギセッチューカはその腕を軽くジャンプしてかわすも、着地点に先回りして別の腕が伸びる。
しかし目が悪いヒラギセッチューカは気付いて居ない。
「あ゙あ゙っ!!」
ヒラギセッチューカの足首に激痛が走る。
単純な動きの腕は、ヒラギセッチューカの気を逸らす囮だった。
妖怪が掴む足元から、蛆虫が肌を這い回る様な痛みが襲う。
魔素という体内のエネルギーを吸われているのに、溶岩が肉を裂き、骨に異物が入る様な激痛。
それが木の根のように足首からふくらはぎ、腰へと徐々に侵食していく。
「頭ぁいいねぇ! 魔素の塊のくせにっ!」
ヒラギセッチューカは自身の足を掴む腕を蹴りながら、皮肉を叫んだ。
魔素の塊で、正体不明で、生きているかどうかも分からない妖怪に、恐怖を越えて怒りが湧き出てくる。
痛みを吐き出すようにヒラギセッチューカはもがく。
しかし、腕は一向に離れる気配がしなかった。
ふと、学院指定のブーツを履いている箇所だけは痛くないことにヒラギセッチューカは気付く。
(このブーツは、魔素を通さない?)
魔素逆流の激痛に襲われるヒラギセッチューカにとっては今更な事だったが。
「こっの、ぐっぞ! 離して!」
ヒラギセッチューカは足首を掴む妖怪の腕を斬るために木刀を振り上げる。
しかし、それを阻止するように別の腕がヒラギセッチューカの腕を掴む。
「ひあ゙ぁっ!」
別の痛みの源が生まれてヒラギセッチューカは叫ぶ。
それが合図になった。妖怪から伸びる腕の全てがヒラギセッチューカに集まる。
電柱ぐらい太く、黒く、ウゾウゾと動く腕が白皙を隠す。
ヒラギセッチューカの胴体を絞める様に腕がまとわりついて、白が見えなくなっても尚、上から腕が重なり続ける。
「うぁっ、あ゙あ゙っ……」
ついにはヒラギセッチューカより一回り大きい黒い繭が作られた。
それは地面から浮いて、妖怪の胴体がある高さへ持ち上げられる。
(痛い痛い熱い熱い──何も感じない)
溶岩に焦がされ続けて神経が燃え尽きてしまったのか、ヒラギセッチューカは感覚が無くなっていた。
勿論、激痛も、紙粘土の様な黒い腕に包まれていることもヒラギセッチューカは感じている。
ただ、脳みそが麻痺してしまって何も感じていないと錯覚してるだけ。
(あぁ、地獄だ──)
ヒラギセッチューカはその感覚に覚えがあった。
死にたくとも死ねない。ただ痛みに身を焦がされ続け、絶叫し続け、何も考えられなくなるこの状況に。
(死ねたら楽になるのに、一向に死なない──)
ヒラギセッチューカは徐々に弱っていて、このままだと命が尽きる。
しかし、感覚が麻痺して身の危機を知らせる“痛み”という機能が働いてないヒラギセッチューカは、自身が死なないことに疑問を覚えていた。
(永遠に感じる痛み──)
恐怖の感情が脳から溢れ出てくる。
この痛みから、恐怖から離れたい。その気持ちだけがヒラギセッチューカの脳を這い回り理性を奪ってゆく。
頭の液体が物凄い勢いで蒸発していくような感覚と共に、ヒラギセッチューカの意識が薄れていく。
──ヒラギセッチューカの体が溶けてゆく
10.>>25