ダーク・ファンタジー小説

Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.26 )
日時: 2023/04/04 17:55
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: cvsyGb8i)

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『ビィヤアァァァッ!』

 金属音と聞き間違えそうな叫び声が襲う。
 目玉の切り口は、粘土を切ったような状態だった。

『ミエナイッ! タスケテ!』

 人の言葉を話す妖怪はそう、誰かに助けを乞う。痛みを外に逃がそうと暴れ始める。
 ヒラギセッチューカは腕から落ちないようバランスを必死に保つも、妖怪の叫び声が不快でつい、耳を塞いでしまった。

「うおおっ、あっ」

 両手が塞がれたヒラギセッチューカはバランスを崩して、目玉の切り口に落ちてしまった。
 妖怪の体内がどのような構造かは分からない。未知の漆黒がヒラギセッチューカを招き入れた。

(ユウキ、怖がりすぎてすっごい顔になってたな──)

 目玉に落ちる直前、ヒラギセッチューカはそう強がる。

 どぷんっ

 入水音と共に妖怪の体内に入るヒラギセッチューカ。妖怪の体内は実際、液体のような物で満ちていた。
 真っ黒で上下が全く分からない。この液体がなんなのかも分からない。なぜ息ができるのかも分からない。何故濡れないのかも分からない。
 自身が、これからどうなるかも分からない。
 分からない、分からない、分からない。
 未知に包まれたヒラギセッチューカはゾッとしながら、周囲を怖々と見渡す。
 と、暗闇にポツンと佇む一つの光が向こう側に見える。
 赤白黄色、様々な色の“カケラ”を寄せ集めて作られた“タマ”

「あ、れ……」

 反射的にヒラギセッチューカは息を止めた。
 その“タマ”の数々は無理に合わさっている為か、カラフルなパッチワークの様に“カケラ”の境が目立っている。

 それは妖怪の“核” 妖怪のエネルギー源
 そして──

「クソッタレが……」

 “タマ”の正体を、彼女は知っている。
 “カケラ”の正体を、彼女は知ってしまっている。
 ただただ、ヒラギセッチューカは無力感に打ちひしがれて木刀を握る。息を止める。視線を向ける。

「またもう一度、この地獄に戻ってくることを──」

 ゆっくりと木刀の核に侵食する。それを拒むように、“カケラ”がドクドクと鼓動し始める。
 しかし、ヒラギセッチューカは木刀に入れる力を弱めなかった。

『シ、ロ、ガ──』

 妖怪と思われる、音が重ねられた声が液体に響く。
 核は光の玉となりえ始めた。小さな光の玉が上と思われる方へ向かう。
 上下感覚が無くなりかけていたヒラギセッチューカも、下と思われる方に落ち始めた。

「妖怪は──」

 ヒラギセッチューカが居た、液体に満たされていた場所は妖怪の胴体だったらしい。
 ゆっくりと落ちていたのに、妖怪の腹部から外に出た途端、重力に流され落ちてゆく。
 このままでは地面に叩きつけられてしま──

「ぐはっ」

 そんなこと考える間もなく、強い衝撃が襲った。

「いたっ、いっつぅー!」

 未だ衝撃で振動する頭部を抱えて叫ぶ。
 頭を強く打った後は動かない方がいい。理解しながらも、怯んでる場合じゃないとヒラギセッチューカは上半身を起こす。
 魔素逆流の激痛によって不確かな手足の感覚に苛まれながら、妖怪が居るはずの空を見上げた。

 白い霧が無くなった街並み。妖怪が暴れたせいか、店が荒れている。
 真上には、目を焦がす程の光を放つ小さな宝石が一つ。
 春特有の薄い青に包まれた終わりのない空は、全てを吸い込みそうな不思議な形態をしていた。
 その空に、総天然色の玉が吸い込まれる。
 触れば溶けそうな儚い光達は、妖怪“だったもの”とヒラギセッチューカは容易に分かった。

 未知は未知でも、どこか人を落ち着かせてくれる未知の空。それに吸い込まれる沢山の光。
 体の芯が熱くなるような絶景を前に、ヒラギセッチューカの瞳孔は揺れ続ける。
 
 走っていた時よりも速く鳴る心音と、呼吸。
 それに鬱陶しさを感じながら、ヒラギセッチューカは空に手を伸ばし、言った。

「あぁ、世界は何故こんなにも理不尽なんだろう。
 何故、こうも美しいのだろう──」

 その言葉の意図も、憂いの理由も、彼女が不気味に笑う理由も。
 今となっては分からない。
 思い出したくも、無いものだ──


 12.>>27