ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.28 )
- 日時: 2023/04/04 18:23
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: cvsyGb8i)
《憎み愛》
1
〈白蛇教〉
普通に暮らしていれば耳に入らない宗教名だ。
世界各地で非人道的行為を繰り返しているのにも関わらず、目的も構成の詳細も全く分からない。夜刀教、夜刀警団と敵対している危険組織である。
〈メシア大司教〉
白蛇教に所属する七人の幹部。白蛇教が事件を起こす際は必ず、七人の内の誰か一人が中心となり、仕切っていると言う。
世界各地で大事件を起こしている、と噂されている。それなのに、メシア大司教メンバーの情報は欠片も無い。
きっと、彼らに会ったものは皆──
──なんでそんなこと知ってるの?
5年かけて調べたんです。様々な手段を使って情報をかき集めました。
貴族から、スラム街から、日に当たらない世界から。本当大変でした。
それでも掴めた情報はこれだけ。敵は手強いですね。
──何故、私たちがメシア大司教を追っていることを知っているの?
知ってはいませんでしたよ。
ただ“司教同好会”って言葉にピンときただけです。もしかしたら、同好会は俺と同じく“メシア大司教”を調べてるんじゃないかって。少し鎌をかけてみました。
仮に予想が違っていても、俺の言葉は戯れとしてごまかせますし。望み薄でも行きゃなきゃ損と思ったんです。
結果、ここに来て大正解だったという訳ですが──
そんな困った顔をしないでください先輩方。
ここ5年、俺もメシア大司教について調べていました。
けれど“司教同好会”の名前は一切聞きませんでした。それに廃団にならないってことは、活動内容は先生にバレていないのでしょう?
大丈夫です。
俺の運が良かっただけで、司教同好会がメシア大司教を追っている、なんて誰も分かりませんよ。
──何故、あなたはメシア大司教を追っているの?
それはこっちのセリフでもあるんですがね……。
一言で表すのは、難しいです。
けれど何も言わないままで信用を得ようとするほど、俺も強欲じゃありません。
長くなりますけど、大丈夫ですか?
断られても勝手に話しますが。
元々、その辺も包み隠さず話すつもりで来ていたので。
◇◇◇
今から5年前。
ある騎士が、夜刀警団に捕まりました。
貴重な魔物を無断で飼育したり、沢山の貴族、王族を誑し込んで政治を私物化したり。
私利私欲の為に友人を、貴族を、政治を、世界を狂わした大罪人です。
俺はソイツに奪われた。
父を、母を、兄弟を、幸せを──10年の全てを。
──何があったの?
どう、話すべきなんでしょう。
単純なことばかりな筈なのに、いざ言葉にするとなると詰まってしまう。
そうだ、順から話しましょう。
白夜1385年に俺は産まれた“らしい”。
実際に産まれた年は分かりません。もしかしたら、俺は15歳じゃないのかもしれない。
けど、今はそんなのどーでもいい。
俺は生まれてから10歳になるまで、とある屋敷の部屋に監禁されていました。
それを裏付けるかのように、昔の記憶は暗闇以外ありません。
監禁部屋の環境はすごく酷い。
一瞥しただけで全身の力が抜けるぐらい汚かった。
一つの扉から漏れる光だけが頼りの、真っ暗な部屋。
壁も床も鉄板で覆われてて、扉の前には鉄格子がありました。
部屋の鉄は何か魔法がかけられていたのか、何年不潔に晒されようが錆びません。
更に、床には死体──いや、死骸が広がっていました。
昨日“出てきたばかり”の死骸から、肉から顔を出した骨、完全に液状化した筋肉まで。
足の踏み場がありませんでした。
仕方なく、べちゃって変な感触がする死骸を踏んでいました。
1回踏むとネチャッて体液が粘り着いてくるんです。
触れると体が痒くなって、死んだ虫がジャリって肌を擦る。
ああ、気分を悪くさせたらごめんなさい。
──それは、なんの死骸なの?
ああ、これは。なんて言えばいいんだろう。
その死骸は全て、発見されたことがない生物──新種だったので、未だに名前が無いんです。
〈牙狼族〉って知ってます?
そうそう、絶滅危惧種の。
狼の見た目をした魔物です。
俺らは牙狼族と人間の混血、ハーフ何ですよ。
そんなの有り得ない?
俺もそう思います。
魔物と人間が──以前に、犬と人ですよ? 犬に手を出す人間とか気持ちが悪い。最低最悪だ。
ああ、話が逸れてしまった。面目ない。
早い話、その死骸は牙狼族と人間のハーフで、俺の兄弟“だった”モノです。
全部、死産でした。更には異型ばかり。
単眼だったり、足が無かったり、人の肌に犬の毛を中途半端に生したり。
そりゃあそうだ。人と牙狼族の間に生命なんて生まれるわけが無い。
ある筈がない。
けれど、俺という生命が生まれてしまった
魔物と人の混血として産まれた俺を見た親父は驚きました。
自分のやった事の大きさに気付き、叫び、暴れました。
暴れる親父は怖かったです。
でも、親父は毎日似たようなことをしていたから余り印象は変わりませんでした。
母親?
俺が生まれた時には、もう生きてるか死んでるか分からない精神状態でしたよ。
毎日死骸を“作って”いれば、そりゃあ、ね。
一通り暴れた後、親父は何事も無かったかのように過ごし始めました。
親父にとって、俺は死骸と同じ認識だったようです。他の兄弟と同じように、時間が経てば死ぬと思ったんでしょうか。
本当、反吐が出る。
もちろんそんな奴が動く死骸を気にかける訳が無く、ずっとご飯は与えられませんでした。
一応、肉はそこら中にあったから餓死はせずに済みましたが。
けど気付けば腐肉は食い尽くしてしまって、骨はもう欠片しか残っていませんでした。
母親もすぐ死んだ。すぐ溶けた。すぐ食べた。
もう、死骸は増えません。
ある日、どういう風の吹き回しか親父が飯をくれるようになりました。
白いドロドロの粥の様な液体。皿を鉄格子に投げつけて、床に飛び散ったソレを舐めた。
味は覚えていませんし、思い出したくもない。
なんで俺、そんなものを食べ続けたのに死んでないんでしょうね。魔物の血が関係してるんでしょうか。
今はどうでもいいか。
それが十年続いたある日。
白夜1395年4月1日──今から約5年前の話です。
さっき言った騎士が、夜刀警団に捕まった。
親父が、捕まりました。
先輩達なら、ここで薄々気付いてるでしょうね。
夜刀学院生だもの、頭が鈍いわけが無い。
でも、最後まで話させてください。
夜刀警団によって解放された俺は名前を貰いました。
〈玫瑰秋 桜〉という名前を。
なんで“桜”なのか、誰が名付けたのか。それは分かりません。
いつの間にかそういうことにされてたから。
けど、気にはなりません。
外の世界に出て、美味しいものいっぱい食べて、この世界の素晴らしさを知りました。
それと同時に、今までの環境の酷さも知った。
無知だった5年前の俺は、まず“酷い”という概念も持ってなかったんです。バカみたいでしょう?
苦しい、楽しい、恐怖、喜び、それらを知ってしまった時には、俺の体は憎悪が支配していました。
あの時地べたの肉を頬張らなくても、外にはもっと美味しいものがあった。
たくさん良い人が居た。ずっと独りでいなくても済んだ。誰かから愛を貰うことが出来た。
あくまでも可能性の話だ。分かっている。けど、
あの10年間、親父に囚われさえしなければ。
そうですね。俺は15歳。
まだまだ子供だから未来がある、と。
はは、牙狼族の寿命ってご存知ですか? 10~14年です。そこに人間の寿命がどう関わってくるか分からない。前例が無い新種だから、余計ね。
いつ死んでもおかしくない状態なんですよ、俺は。
今更頑張ったって多分、俺の望むものは手に入りません。
胸の奥からジワジワとどす黒い感情が湧き出て、目がジンッてするんです。
怒りでどうにかなりそうで、でもぶつける相手はすぐそばにいなくて。
もどかしくて辛くて仕方がない。
だから、親父に全部ぶつける。
俺の10年を奪った、強欲な親父に。
──復讐するんだ
親父が奪った物も、元々あったものも、全部全部奪い返してやる。
残り幾つあるか分からない寿命を使い潰して。
そう、この司教同好会にやって来たのは復讐の為。
夜刀警団に捕まってから行方をくらました親父を、探すためだ。
俺の親父はディアペイズ第十軍騎士団長。
そして、〈白蛇教 メシア大司教 強欲務〉
〈玫瑰秋 晟大〉だ
2.>>29