ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.43 )
- 日時: 2023/12/22 20:39
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: umLP3brT)
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「いや、こっちにも事情はある、し。けど、ネクタイ掴んだのは、ちょっと、控えようかな、て思っても──」
数分後、落ち着いたヒラギセッチューカによって謝罪がなされる。
俺は和菓子を頬張りながらそれを聞いていた。
ヒラギセッチューカにしては珍しく言葉を濁らせていて俺は、
「何ゴニョニョ言ってるんだ。『ごめんなさい』だろ」
と、痺れを切らして言った。ヒラギセッチューカは声にならない声で額に手を当てる。
「ごめん、な、さい」
「ぼっ、僕は大丈夫だよ。怒ってくれてありがとう、えっと。ヨウ君」
キュウは嫌な顔一つしないどころか、そう笑ってヒラギセッチューカをフォローした。キュウは優しいな。見ていて癒される。
「〔半妖〕、か。聞いた事無いがどういう種族なんだ?」
ユウキの質問に自然と体が強ばる。
何気ない質問かもしれないが、事情に寄っては答えるのが億劫な人もいる。俺もその中の一人だ。
けれど〔半妖〕とアッサリ答えたこともあるし、キュウは割と種族とか気にしないタイプなのかもしれない。
「えっと、前例が少ないらしいから僕も良く知らないんだ。生きてた人間が生き返った結果――って聞いたかな。僕はそんな記憶全くないんだけどね」
ヒラギセッチューカもユウキも、他人の事情に踏み込む神経の鈍さは褒められたものじゃない。
が、俺も気になってしまって敢えて黙って、話を聞かせてもらった。
一度死んだ人間が生き返る――そんな魔法も現象も聞いたことがない。
対象の存在を消す【存在抹消】の魔法や、魂を消滅させる【深淵魔法】とか。
禁忌とされた魔法は山ほどあるが知っている限りだと、その中にも生き返りの魔法などない。
「死んだ者を生き返らせ、る」
ヒラギセッチューカが考える仕草をし、呟く。
何か知ってるのだろうか。なんて、らしくもなくヒラギセッチューカに注目してみる。
「で、できるの?」
そう聞いたキュウを軽く睨むも、軽く頭を振ってヒラギセッチューカは答える。
「理論上は可能、とは噂に。でもま、無理だろうね。魂の扱いに関してはあの夜刀でさえ苦い顔する分野だし、というか夜刀でも難しい」
場には唯ならぬ雰囲気が漂って、みな口を閉じた。
特に何も考えず話したらしいヒラギセッチューカは俺達の顔を見て、
「え、何?」
戸惑いの声を上げた。
ヒラギセッチューカは変なとこは博識なのに、一般常識は空っきしらしい。仕方なく、俺は教えてやる。
「〔ディアペイズ一級魔術師〕の夜刀様でも難しいって聞いて、驚かない奴は居ないだろ」
あ、そっか。納得するヒラギセッチューカは自体の深刻さに気付くのが遅い。
〔ディアペイズ一級魔術師〕
優秀な魔法使いに送られる称号だ。その中でも一級。簡単に言うと世界一の魔法使いということだ。
魔素量も知識もトップレベルの夜刀様でさえ難しいということは、誰もできないことを指す。
「あの人肩書き持ちすぎでしょ」
ルカがウンザリした様に呟く。それぐらい凄いお方って事だよ。
コーヒーカップに手をかける。
未知のものには興味があるが、〔半妖〕とか生き返りとか自体には興味が無いから、この話は退屈だ。
なんて顔に出ないようポーカーフェイスでコーヒーをすする。ぬるい。
「夜刀様でも不可能なら、〔半妖〕ってなんなんだろ」
ボソッとキュウが呟く。
「学院長を超える現象や存在があってもおかしくないんじゃない? もしかしたら、世界規模だと学院長は大した事ない存在かもしれないよ?」
「なんでそんな意地悪言うのぉ。ヒラギセッチューカ君……」
あれ、違和感。
何故キュウは、ルカの事は“ちゃん”を付けていたのに、ヒラギセッチューカは“君”と呼ぶのか。認識阻害で性別が分からないからか──。
キュウの違和感は他にもある。
自身の素性や種族を問われても嫌な顔一つせず話すし。学院生なのに学院長を“学院長”ではなく“夜刀様”と呼ぶ。
第一、コイツ臭い。ヒラギセッチューカと同じで薬臭い。
気のせいだろうか。気のせいだな。
匂いとか喋り方とかを怪しむなんて失礼だし、キュウは種族の話題に寛容なだけだろう。
とことん優しいな、キュウは。いい人だ。
「まあ、自然現象とかそんなんだろ」
「それが妥当そうだよなぁ」
俺の呟きをユウキが返す。
自然現象で人が生き返るなんて聞いたことがないが、世界には判明してない現象で溢れかえっているだろうし。そんな感じのだろ。
5.>>44