ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.44 )
- 日時: 2023/12/25 20:41
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: u4eDShr6)
5
そういえば店内が静かだ。
さっきまで聞こえていた外の鳥のさえずりも聞こえない。違和感を覚えた俺は口を開く。
「なあ、やけに静かじゃないか?」
俺の一言に四人は周りを見渡す。
辺りの色が薄くなり、白い霧が出始めている。
と、ユウキが青い顔をする。起こる異変。ヒラギセッチューカが焦った声色で言った。
「妖怪の結界に入ってる」
「──は」
思わず声を上げる。
〔都市ラゐテラ〕だけに発生する謎の存在、〔妖怪〕。
〔陰陽師コース〕のヒラギセッチューカはこんな事態にも慣れているのか、素早く椅子から立ち上がり、俺たちに言う。
「早く店から出ないと。広い所まで避難」
ヒラギセッチューカの言葉に、ルカもキュウも俺も椅子から立つ。
〔妖怪〕って存在は知っているが、遭遇するのは初めてだ。らしくもなく心臓が早鐘を鳴らしている。
「ま、って。俺、」
ユウキは何故か立たず、歪んだ表情で俺たちを見ていた。
こんなユウキ見たことない。なんだか苦しそうで、思わず立ち止まって聞く。
「どうした?」
「〔妖怪〕は、無理なんだ」
ユウキは〔妖怪〕が苦手なのか? そんな青い顔をするぐらい?
ふと思い出す。妖怪に触れると起こる〔魔素逆流〕という存在を。
経験した者は、激痛のあまり廃人になったりトラウマで引きこもりになったりする、らしい。
と、ヒラギセッチューカがユウキを素早く俵担ぎする。
「ちょっ、ヒラギ?!」
ルカが驚きの声を上げる。
「話はあとあと。早く行くよ!」
ヒラギセッチューカの焦った声に背中を押されて、俺達は店を出て、走り始めた。
外に出ると街は白霧に沈んでいた。
空は深い青色が広がっている。白い小さな光の数々が空を包んでいて、まるで夜みたいだ。
真昼の晴れのはずなのに、薄暗い。非自然的な景色でゾクッとする。
〔妖怪〕に遭遇したら、〔都市ラゐテラ〕各地に設置される避難所に行くのが良いんだが。
広い学院都市の避難所なんて覚えていない。
ならば〔妖怪〕と遭遇しても逃げやすい、広い場所に行った方がいい。ヒラギセッチューカはそう判断したんだろう。
先頭のヒラギセッチューカを追いかけて、丘下の広場に着く。
やっぱり。なんて思いながら広場の真ん中へ俺達は走る。
「ここら辺で陰陽師を待とうか。〔妖怪〕が来ても魔法はうっちゃダメだよ。吸収される。」
ユウキを寝かせながらヒラギセッチューカは言う。
「ヒラギ、私達どうすれば良いの?」
俺たちは広場の真ん中でしゃがみこむ。そんな中、ルカが聞いた。
「そーだなぁ。〔陰陽師〕の人が来るまで待つしかない、かな?」
まあそうだろう。〔妖怪〕なんて俺達〔縹〕がどうにかできる問題じゃない。
ヒラギセッチューカの言う通り、待つしか俺達ができることは無いな。
「ヒラギセッチューカ君は戦えないの?」
「ランク〔ツェーン(10)〕だから、戦闘は禁止に近い非推奨」
〔ツェーン〕が〔妖怪〕に勝てる訳がないしな。
何となくヒラギセッチューカの胸にある、若草色のリボンに視線を移す。
「ねぇ、なんかその先の道から。変な、感じがする」
キュウは広場から伸びている、複数の道の一つを指さす。変な感じとはまた抽象的な。
「変な感じって?」
とルカが聞くと、キュウは必死で自分が感じたことを言語化しようと、難しい顔をする。
「なんと言うか、魔素がぐちゃぐちゃに絡まった塊のような物が──」
魔法に関しては素人の俺は、そんなの感じられない。
けど本能が危険、と訴えかける。道の先から何かが来ている。多分、〔妖怪〕だ。
と、俺達の話をきいたヒラギセッチューカが「よっこらせ」と立つ。
「ユウキを任せる。ゲロ吐くかも知れないけど大目に見てあげて」
ゲロを吐く、てどういう事だ。嫌な予感しかしないぞ。まあ頭の片隅に置いておくか。
横になっているユウキに視線を移す。
やはりユウキは体が大きい。ブレッシブ殿下のようにガッチリしている訳じゃないけど、少し悔しい。
うらやめしい目でユウキを見るのは辞めよう。俺はヒラギセッチューカに視線を移す。
「戦うつもりか? 禁止なんだろ」
「禁止に近い“非推奨”だから。セーフセーフ」
全然セーフじゃねぇよ。
『シロ──』
地の底から響く不気味な声――いや音。
反射的に前を見る。そこには、巨大な黒い塊があった。
幾つもの手足が生え、目玉が身体中に付いている、不気味な黒い塊。周りの建物より遥かに高い。
真っ黒な体は黒いモヤがかかっていて、うぞうぞと蠢いているのが気持ち悪い。
ちょっと目を離しただけとはいえ、こんな巨体に近付かれて気付かない筈がないのに、何で俺は気が付かなかったんだ。
これが、妖怪──
「いやいや無理だってこれは……」
ヒラギセッチューカが半笑いで弱音を吐く。
コイツのふざけた弱音なんて今までもよく聞いた。しかし、こんな状況で吐かれると不安になってしまう。
怖い。
それは妖怪に対しての物じゃなくて、この黒い巨大な。正体不明の物体に対しての物だった。
『シロオォッ!!』
妖怪が巨大な体から、無数の手を伸ばす。
ヒラギセッチューカはジャンプ。跳び箱みたいに腕を飛び越え、木刀を刺す。ちぎる。
その動きは余りにも洗練されていた。どうやったらそんな動きができるんだと、思わず目を見開く。
「何ぼーっとしてるの。早く逃げましょうよ!」
焦っているからか、ルカは微妙に早口だった。ルカは立ち上がっていて逃げる準備万端だ。
ヒラギセッチューカを置いて逃げるのか? 俺的にはヒラギセッチューカがどうなろうと構わないが。
でも、置いて逃げるのは、ホラ、なんか、違うだろ……。
「俺は、ヒラギセッチューカに加勢するぞ」
「はぁ? ヒラギ嫌いな癖に、加勢する必要なんてないでしょ」
「そう、だけど……」
誰かに守られてそのまま逃げるなんてのは、ダメって部類に入るだろ?
性格が悪いとか、道徳的にダメとか。そんなことしたら、みんなに嫌われるし蹴られる。
「でも、俺は行くぞ」
一人の人間として正しい選択は、ヒラギセッチューカに加勢することだろう。
それが一番人間って感じがする。
あと、ほら。俺らのせいでヒラギセッチューカが廃人になったら気分悪いし。
ルカはキュウに視線を移す。キュウも「僕も逃げれないかな」と苦笑いする。
みんなが残るというのに一人で逃げるというのは流石にする度胸がないらしく、ルカはムスッとした顔でその場に居座った。
「イチ、ニ、サン──ロッコ」
ふと、〔妖怪〕を見つめるキュウが呟く。
ロッコ? 六個? 一体なんの事だ? 無表情で〔妖怪〕を見つめるキュウは生物とは思えなくて、ゾッとする。
「あと一つある。ヨウ君、戦うんだよね」
さっきまでのポヤポヤしていたキュウとは打って変わって、真剣な声色だった。
ちょっとたじろいでしまう。それでも「あ、ああ」としっかり返事した。
「君の手札を教えて。〔加護〕でも〔適正魔法〕でも得意な魔法でも。僕がサポートする」
6.>>45