ダーク・ファンタジー小説

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.10 )
日時: 2023/04/02 14:32
名前: hts (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第1幕、4話ーー副題(未定)



 一線を越えてしまったーー。
 この場合、一線というのは生身が介在したかどうかは関係ない。
 つまり、私と後輩君との間には既に見えない繋がりが出来てしまったのだーー。
 気恥ずかしさのあまり、彼の顔をまともに見れない。
 向こうもどうやら同じ気持ちらしく、嬉し恥ずかしそうな反面ーーどこか申し訳無さそうに俯いている。
「せ、先輩、、
、、な、なんかごめんなさい」
「い……いいのよ?別に
わ……私だって後輩君に居なくなられたら、ほら……?
こ、困るじゃない……?」
 そう言って、しまったーーと思わないでも無かった。
 何故か気を利かせたらしいテツヲと沙梨亜ちゃんは居ないが、傍目から今の発言を聞けば、どう聞いても遠回しな告白に聞こえてしまう。
 図らずも胸の内の一端を晒してしまった私に対して、後輩君はーーまるで何かを決心したように口を開く。
「おれ、、実を言うと最初は遊び半分のつもりだったんです
リン先輩はおれ達一年生が入学した時から有名でしたから、、
はっきり言っちゃいますけど、頭のオカシイ変わった先輩が居るって、、」
 そうなのだ。
 私こと、真島リンの評判は我が母校において芳しく無かった。
 近隣に威名を轟かせる不良二人ーーテツヲとひよ子に上手く取り入って、何やら怪しげな活動をしてるとか、実はヤクがキメられてどうたらとかーー。
 私に纏わる噂はひょっとすると不良二人以上に出回っていて、他の生徒達からは気味悪く思われていたに違いない。
 そうした中で、一学期に我が〈ワルプルギスの集い〉に入ってきた一年生二人の加入がどんな理由だったとしても、それが僥倖だと思わなくてはならない程にーー。
 後輩君は、包み隠さず続ける。
「リン先輩には色んな噂話が付き纏ってましたからね
それを全部、おれは暴いてやろうと最初は思ってました
でも、違ったんです
真実は小説よりも奇なり、って言いますよね?
先輩方の活動に触れて、一つ一つ事実を確認して、リン先輩の記憶から得られた知識と現実の擦り合わせは思いの外、上手くいっているように見えました
その時おれは、既に夢中だったんです
〈ワルプルギスの集い〉の活動と、その、、」
 一瞬、彼は言い淀む。
 億したような気配を私は感じ取ったがそれもすぐ打ち消され、後輩君はーーヒラト君はこちらを真っ直ぐ見詰めてきた。
「リンさんに、、おれ、自分でもおかしいと思うんですけど、夢中なんです」
「あ……え?
あ、うん……ありがとう
……な、なんか、て……照れちゃうわね?嫌だわ……?
……ニヤけが止まらない……」
 顔が熱くなるのを感じ、両手で覆った。
 彼も少しぐらいは私に気があるかもと思っていたが、本当にーー。
 本当に、今は顔が上げられない。
 そうした事は前世においても今生においても、無縁だと思っていた私にとってーー。
 今の彼の破壊力は強烈過ぎる。
 いけないーー。
 脳ミソが沸騰しそうだった。
 もう沸いているのかもしれないーー。
 この先彼との仲が深まるにつれ、あんなコトやそんなコトまでーー。
 そう、彼氏だ。
 休日に二人でお出掛けしたり、沙梨亜ちゃんみたく弁当攻勢を仕掛けてみたり、イベントの際はサプライズ・ナイトに励んでみたりーー。
 これ以上はイケない。
 それが、歳頃の女子にとっての禁断の彼氏なのだ。
 我が人生の中で無意識の内に封印していた禁則ワードの一つにも該当する。
 信じられないーー。
 今にも爆発させられそうな頭と心臓の鼓動が落ち着き切らない内に、彼ーーヒラト君から言葉が降りてくる。
「最初は遊び半分で近付きましたけど、おれ、、真剣ですからね?
今はまだ役立たずで何にも出来ませんけど、いつかリン先輩にとって欠かせない存在になれたらその時に、、
、、この気持ちに応えて貰えますか?」
「え……?あ、そ……そうね」
 何故か、会話が思わぬ方向へ流れた。
 すぐに反応を示さなかったーー私が原因だ。
 冷静な彼は私からの返事が無かった事で脈有りと判断しながらも、今はまだーーと考えたのだろう。
 痛恨のミスーー。
 いや、今ならまだ挽回出来るのだろうかーー?
「こ、後輩君……!」
 咄嗟に呼んだがしまった、と気付いた。
 彼の名前を下の名前で呼ぶ絶好のチャンスだったのだ。
 そういえばさっき先輩抜きで、リンさんーーと呼ばれていたから、今ヒラト君と呼んだなら然程不自然な状況では無かったのだろう。
 気付くのが遅過ぎるーー!
 少々混乱してしまった私は、適当な事を口走ってしまう。
「そ……そろそろお腹空いたわね!?」
「はい、そうですね
おれが作りますよ!
別に料理得意ってわけじゃないですけど、たまに自分で作ったりしますし?」
「そ、そう……?期待するのだわ……!」
 口から出た発言はもう戻らない。
 私は千載一遇の好機を逃したのだ。
 彼がもう荷袋を漁り始めたのを見ると、そう返すより他に無かった。



 それ程時を置かずに、テツヲと沙梨亜ちゃんが戻ってきた。
 まさかとは思うが、草葉の陰から見守っていたなんて事はーー。
「、、ふぅ
、、リン先輩、ファイトですよ!」
「アア、ヒラトは良くやったがなァ?
及第点だよなァ、、ギリギリ辛うじて」
 見られてたーー!?
 周囲には確かに、覗き見ポイントが幾らでもあるのだ。
 背後にあの断層ーー。
 綺麗にくり抜かれた円柱のような筒型突起地勢がこちらを見降ろしている以外は、周辺一帯森の中だった。
 頭上の木々の枝の隙間から陽光が僅かに漏れているが、辺りはやや薄暗い。
 身を隠す地点には事欠かず、会話も全部聞かれていたかと思うと、気恥ずかしい。
 先程の余韻で、まだ顔から火が出そうだーー。
 私は二人の励ましーー?
 には囚われず、話題を変える。
「ご、ご飯食べるわよ……!?」
「はいよォ、、
、、近くにモンスターとかは居ねェらしいなァ?」
 ただ覗いていただけでは無かったらしく、テツヲは言った。
 沙梨亜ちゃんは小さく頷き、言葉を引き継ぐ。
「、、です
まだ異世界と決まったわけじゃねーですけど」
 それについては、私も同意見だ。
 現状、異世界かどうかを判断出来る材料は少ない。
 あの箒型の導器具ーーフィフィーロカネンが感応したのは何か別の要因ーー。
 例えば、異世界を前世に持つ私の影響なども考えられ、プラーナの濃淡だけでは判断が付かないだろう。
 元居た世界が必ずしもプラーナの薄い場所ばかりとも限らないし、事例は色々と考えられるのだ。
 思考に沈みかけた私の想念を中断させたのは、香ばしい匂いだった。
「オゥ!ウマそうな匂いだなァ、、」
「、、すんすん
、、チャーハンの匂いです」
 二人に釣られ、私も後輩君が有り合わせで調理してる方へ向かった。



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