ダーク・ファンタジー小説

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.12 )
日時: 2023/04/02 14:45
名前: htk (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第1幕、6話ーー副題(未定)



 今後の指針について、みんなと話し合う。
「……目下、そうね
私達を取り巻く環境がどんなものかを把握する必要があるのだわ?」
 現状は右も左も分からないのだから、目的を明確にしておく必要があった。
 私が切り出すと、後輩君が周りを見て言う。
「見た感じは普通の森ですよね?
そんなに寒くないので常緑樹か落葉樹かは分かりませんけど」
「ええ、そうね……。
冬場なら樹木に葉っぱが付いてるかどうかで落葉樹かどうか判断するのよね?確か……」
 彼の言葉尻を拾い、そこに沙梨亜ちゃんが疑問符を付ける。
「、、です?
なら、暫く過ごさないと四季があるかも分からねーですよ?」
 後輩女子がそう指摘した。
 仮に此処で暫く過ごしたとして、寒冷期に際して樹木の葉が落ちるなら落葉樹ーー落ちなければ常緑樹、と判断は付く。
 けれどもそれは、沙梨亜ちゃんが指摘したように季節があるという前提で成り立つものであって、もしーー一年中同じような気候が続くなら、判断の基準としては不十分だった。
 更にいうなら、この環境でずっと生活していけるかはーー元の世界に慣れ親しんだ私達にとっては微妙なところだろう。
「安定した拠点が欲しいわね……。
術式で再現した物資もいつまで保つか分からないのだし……?」
 現状、幾ら〈ヒョコティティル製品〉があるとはいっても、それも無限では無いのだ。
 だから四季が移り変わるかどうかを待っていたら、いつの間にか物資が枯渇しないとも限らない。
 これから此処かーーそれとも他のいずれかの場所で生活する事を考えると、何らかの供給源は必要なのだろう。
 それを聞くと、今度はテツヲが口を開く。
「確認がてら見て回ろうじゃねェかァ?
モンスターが居ればなァ、、」
 あまり望ましくない意見が口に出された。
 腕試しでもしたいのだろう極悪ヤンキーにしてみれば渡りに船でも、今現在ーー私達にどれだけの事が出来るのかは未知数なのだ。
 此処が異世界かどうかを判断するのにテツヲの言うようなモンスターーー或いは、元居た世界には存在し得ない何かがあれば、此処がそうなのだと確認出来る。
 しかし私は、少々の懸念を浮かべながらも小さく頷いた。
「……あまり気乗りはしないのだけれども、そうね
何か危険性があれば即時退却するつもりで周囲を探索してみるのだわ……!
せっかくの異世界なのだから!」
「ですね、リン先輩
異世界だと良いなぁ」
 元々そのつもりで異世界に来たのだから、反対する人はいない。
 私達は確認がてら異世界らしいものを見付ける為、二手に別れた。



 日が落ちてきたらあの円形断崖の麓へ戻る事ーー。
ーーそれがひとまずの取り決めだった。
 あとは二手に分かれた理由についてだが、これはーー周囲が森林で覆われ、身を隠す場所が豊富な事が挙げられる。
 わざわざモンスター及びーー敵対的な住人等が仮に居たとして、それらから見付かる危険性を増やす事は躊躇われたのだ。
 別行動を言い出した沙梨亜ちゃんは別れ際にガッツポーズを送ってきたからーーそこに他の意図があった事は否めない。
 もし何かのトラブルに巻き込まれたら、その時点で少人数で行動する利点も喪われるのだがーー。
ーー見付かる危険性を踏まえると、そもそも事を起こさない方に賭けた形だった。
 ともかくそんな経緯で私は今、後輩君ーーヒラト君と二人っきりだ。
 今度こそーー。
「ヒ、ヒラ……後輩君」
「はい、リン先輩」
 ヘタレてしまう。
 すぐ隣でなるべく物音を立てないように歩く彼の横顔をーー直視出来ない。
 内心あたふたとしているのを悟られないよう耳を澄ましてみると、何かのーー虫の囀りのような音色は聴こえてくるから、生き物は居るのだろう。
「……一応、虫の類は居るみたいね?」
「そうですね
、、苦手だったりしないんですか?」
 私が手近な葉から掬ったテントウムシーーに似た昆虫を見て、ヒラト君は若干青い顔をする。
「それを嫌がっていたら魔女だなんて名乗れないのだわ……!別に得意ってわけでも無いのだけれど……。
何を隠そう、私は前世の記憶を持つ大魔女なのだから……!」
「はは、そうでしたね
そういえば喚術陣を書く時もインクにミミズの磨り潰しとか混ぜてましたね、、」
 あまり思い出したくないらしく、後輩君はテントウムシに似た昆虫から顔を背けた。
 視線を外した彼は辺りをキョロキョロと見渡し、耳に手を当てている。
「何を探してるのかしら……?」
「川の流れる音とか、食料になりそうな木の実とかですかね?
飲食物が尽きるまでにライフラインを整えないと、さすがに生きていけませんし?」
「そうね……注意して進むのだわ?」
 彼に同意した。
 此処が何処の世界にしても、環境自体は元の世界とそうそう変わらないのだろう。
 そうでなければ辺りの樹木がまず生えてくる筈が無いし、生態系は元居た世界と近しいと考えても差し支えない。
 勿論、人の住めない環境は可能な限り術式で避けたのだから、適応可能な環境なのは当たり前なのだがーー。
 そして、そうだとすれば木の実や果物なんかも見付かるかもしれない。
 後輩君は探索次いで、質問してくる。
「モンスターらしい生き物は確か、此処がリン先輩の前世の世界なら居るんでしたっけ?」
「ええ……確か、魔物……。
……これは喚術陣に組み込んだ翻訳の術式が発動していると仮定して言うのだけれども、魔物を意味する異世界文字で現地人から把握されている筈なのだわ?
私の知っている限り……」
 少し不安になる。
 私の知る前世の記憶は先にも述べたように断片的なものでしか無く、数少ない情報の中から目の前の現実を判断するしか無い。
 物事には必ず見えない側面というものがあり、そうした闇の底無し沼に嵌らないとも限らないのだ。
 何かを正しく判断するには、まず自分自身が無知であるのだと理解しなくてはいけない。
 私が取り留めもない思考に囚われていると、後輩君が思い付いたように言う。
「そうだ、あれ使ってみましょう!モノクル!」
「え……?ああ、あれね!」
 彼は自分の荷袋から、眼鏡の片側だけが欠けたモノクルーー片眼鏡を取り出した。
 早速耳にかけた後輩君は、難しい顔をしている。
「ううーん、どうやって使うのかなぁ?
紅い金属の縁取りだし、リン先輩の箒と同じですよね?」
「フィフィーロカネンね……。
けれども……それを感応させるには通力解放で外部のプラーナへと干渉出来ないと無理なのだわ?
……貸してみて?」
 彼から片眼鏡を受け取り、左目にかけてみた。
 途端ーー。
 モノクルに込められた術式が起動したらしく、辺りに幾つもの数字が浮かんだ。
「何……かしら?
大小様々な……数字?」
「え?数字!?
もしかしてステータスですか?」
「……ちょっと待って?」
 後輩君の質問を遮り、浮かび上がった幾つもの数字に集中する。
 異世界小説によくあるようなーーステータスを表示するものでは無さそうだ。
 では、何かというとーー。
「……えぇと?その辺りの木から浮かんでる数字はだいたい500から大きい数字で1000を超えるぐらいね?
それから、ああ……さっきのテントウムシは、たったの6しか無いのだわ……?」
「え、、?もしかしてスカウターですか?」
 後輩君が言ったのは、戦闘力が分かるという例のアレだ。
 それに近いかもしれない。
 テツヲに勧められて私も半分くらいはその漫画を読んだ事があるが、ただどうにもーーその作品に登場するスカウターとは別物のようにも思える。
「あら……ちょっと待って……!?そこの草……」
「え?これですか?」
「そうそう、それなのだわ……!
2800から、3500……いいえ、上限3600ね……?」
 そこにあった何処にでもありそうな雑草の中から一つを手に取ってみる。
 どれも同じ種類の草だ。
 ギザギザの扇状に伸びた葉先のーー見た目はそれなりに見掛けそうなこの植物は何なのだろうーー?
 他の種類の雑草を見ても、数値の高いもので4、50といった程度だ。
「薬草、ですかね?ひょっとすると」
「薬草……?それかもしれないのだわ……?」
 判断は保留にしながらも、私もその可能性は高いように思えた。
 扇状のギザ葉に手を伸ばした後輩君が言う。
「それじゃあ、ちょっと摘んでいきましょう!
これがもし薬草なら、いきなり幸先良いですね!」
 彼は薬草らしき草を幾つか抜いて、荷袋に仕舞った。
 その際、何気なく見ていたがーー浮かび上がっていた数値が半分近くまで下がったのを確認する。
 何か、命の灯火のようなものでも指しているのだろうかーー?
 とも思ったが、抜かれた仮薬草が1500以下になる様子は無い。
 思索に耽りつつ、私は判断を保留した。



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