ダーク・ファンタジー小説
- Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.13 )
- 日時: 2023/04/02 14:48
- 名前: htk (ID: OHC2KpRN)
1章〜〜第1幕、7話ーー副題(未定)
道中、色々な物を見てみたが、1000を超すものはなかなか見掛けなかった。
モノクル越しに見た結果、樹齢を多く刻んでいそうな木が1000を超えていた他、苔生した岩が5800ーーと、これまでの最高値を叩き出したのだ。
因みに後輩君の数値もこっそり確認してみたら時々数値に乱れが生じるものの、だいたい130から150の値を推移している。
樹木や先程の薬草、苔生した岩等と比べると遥かに少なく、今の彼の数値は141だ。
他の人と見比べてみないと、多いのか少ないのかは分からない。
そんな後輩君はこの探索中、幾つかの発見をした。
「あ!木の実発見!
こっちにもプルーンみたいのが!?」
食用になるかどうかは分からないが、嬉しそうだ。
彼が木の実やらプルーン似の果実を捥ぎ取る度、その収穫物の数値は一定量減少した。
だが、半分以下になるものはこれまで一度も確認していない。
これが仮に鮮度を表しているなら、その後も経過を見ないと分からないがーーそれとも或いはこちらの憶測とは何の関係も無く、例えば数値は物の価値を表しているのかもしれない。
しかし、もしそうだとすると彼の価値は130から150ーーとまで考えて、私は首を振る。
「……そんな筈無いのだわ!?
駄目ね……!?もう外しましょう……!?」
そう言い、モノクルを後輩君に返した。
どうにもーーこれは箒に乗っていた時にも感じた事なのだが、自分の中の何かがすり減っているように感じる。
おそらくプラーナーー体内の内気を燃料として起動していたモノクルは、私の身体から離れると紅い金属の僅かな発光を収束させた。
後輩君が心配そうに言う。
「使い過ぎは良くなさそうですね?なんか、、」
「ええ、そうね……血液を代償にして喚術陣を起動した時と、同程度には疲れるのだわ……?」
「あ、あれですか?
、、なんか、色々と身体の内側から抜かれてるような気がするんですよね」
実験の際に喚術陣を起動するべく血液を提供した彼なら、分かる感覚だろう。
後輩君は気遣わしげに言ってくる。
「少し休みましょう、リン先輩」
「そうね……疲れたのだわ」
彼の勧めに有り難く従った。
後輩君も木の根元に腰掛けようとしーー。
「うわッ、、!?何だこれ!?
、、ベトベトだ」
枝に引っ掛かった袖に何か付いたらしく、嫌そうな顔をした。
後輩君の袖に付着した何かは、何かの粘液なのだろうかーー?
「樹液……?それとも蜘蛛の巣かしら?」
「嫌だなぁ、、蜘蛛なんて一番苦手な虫ですよ!?」
付着した網目状に近いベトベトは既にその形を成していない。
後輩君はそれをゴシゴシと擦り取るように幹で拭き取っている。
「うわぁ、やっちゃったなぁ、、」
残念そうだ。
こう言っては何だが、彼の困り顔を見るのもーーと若干思ってしまう。
勿論、本当に困ってるのなら咄嗟に手を差し伸べてしまいそうな自分をつい先頃ーー自覚したばかりだが、生憎と後輩君の不運までは引き受けてあげられない。
どうにかベトベトを拭い取った彼もまた、少しだけ気疲れしたように座り込んだ。
「そろそろ戻りましょうか?リン先輩」
真上の枝と枝の合間から漏れる光が薄くなったのを見て、後輩君が言った。
暗くなって動きにくくなる前に戻った方が良いのだろう。
頷いた私は腰を上げると、後輩君の跡に続いた。
辺りは相変わらず鬱蒼としていて、視界が悪い。
あの学校屋上の喚術陣跡地ーー円形断崖から降りた時が、ちょうど真昼時だった。
だすると頭上の木々に遮られて見えない空模様は、もう既に夕刻だろうかーー?
まだ完全に暗くなってはいないから、急いだ方が良いだろう。
「ふア……にしても、眠いのだわ」
「そうですね、おれも少し、、」
中途半端に休息したせいか、却って眠気に襲われた。
思えば学校の屋上から転移したのは夜中だったからーーと、そこまで考えてそういえば此処が異世界なら、元居た世界とのタイムラグがあってもおかしくはない、と思い至った。
私達を見送ってくれたひよ子の顔を最後に見たのは夜中で、転移後ーーあの円形断崖の頂上は少なくとも、暗い時間帯では無かった。
〈ヒョコちゃんとのラブリーアツアツ通信記〉で、ひよ子は向こうで既に数日が経過したと触れていたが、その数日間ーー。
私達の世界間移動に伴い何日かズレが生じたとも考えられ、つい先頃は元居た世界との時間の流れが違うーーと早合点してしまったが、そうとも限らないのだ。
つまりこれは、ひよ子の日記で示された時間のズレが異世界へ来た事を示す端的な証拠になるのではーー?
とも一瞬思ったが、それを確かめるには親愛なる友人と、細かな遣り取りをしなくては判明しそうにない。
同じ元居た世界でも場所が変われば時間帯も変わるし、国家間でそれぞれ時差があるのは当然なのだーー。
とは何故か、眠気に誘われた思考が明後日の方角へ向かったのを感じた。
疲れた頭は普段よりも数段遅れ、思考力の低下を伝えている。
私は首を振り、前方の彼の方を見た。
後輩君は時々足元へ手を伸ばし、手頃な枯れ枝ーー出来るだけ乾いているものを拾っているから、後で焚き火でもするのだろう。
私も彼に倣い、足元に手を伸ばす。
「薪代わりね……?」
「ええはい、そうです
手荷物の中にも確か炭は入ってましたけど、出来れば節約しておきたいですからね?
あ、そっちよりも細い方が、、」
「……え?こっち?」
「はい、太いと中が湿っていて火が付きにくかったりしますから」
「ああ……なるほどね」
意外にサバイバル能力が高そうで、素直に感心した。
勢いで異世界へ来ようとしていた私にとっては、よく働いてくれる彼の存在は有り難い。
薪になりそうな枯れ枝を拾いつつ、私達は円形断崖の麓へと向かう。
それ程遠くへ来たわけでは無かったから、思いの外ーーすぐそこだった。
「テツヲとサリアちゃんは……まだ戻ってないみたいね」
「遠くへ行き過ぎて無いと良いんですけど、、」
そう言いつつ、後輩君は拾ってきた薪代わりの枝を並べ始める。
火起こしの準備を進める彼に倣って、私も何かするべきだろう。
やや立ち惚けていると、後輩君が言う。
「そういえば、返事は良いんですか?」
「え、返事……?何の?」
「ヒョコ先輩の日記」
言われて思い出した。
確か、出来るだけ早い返信求むーーと書かれていた筈だ。
「あ……そうだったわね
じゃ、悪いけどそっちは任せるのだわ!」
「はい、ヒョコ先輩によろしく伝えておいて下さい
こっちは楽しくやってます、って」
「そうね……何て返事しようかしら?」
荷袋からペンと〈ヒョコちゃんとのラブリーアツアツ通信記〉を取り出して考える。
後輩君はその横で何かに気付いたようにまた言う。
「あ、テーブルとかも必要ですよね
近くに人の住んでそうな場所があるか分かりませんし、仮の拠点築いた方が良いのかなぁ、、」
「そうね……確かに」
私は生返事をしつつ、ペンを走らせる。
愛すべき我が親友ーーひよ子はいつもおちゃらけているが、きっと心配してくれているだろう。
彼女の反応を思い浮かべながら、日記を綴った。
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