ダーク・ファンタジー小説
- Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.16 )
- 日時: 2023/04/02 15:21
- 名前: htk (ID: OHC2KpRN)
1章〜〜第2幕、1話ーー副題(未定)
「よし、っと……。
こんなところね!」
ペンを置いた私は大きく伸びをする。
気付けば焚き火が燃やされ、拾ってきた枝がパチパチと鳴っていた。
後輩君は何やら鍋をグツグツと沸かしているが、何を作るつもりなのだろうーー?
そういえば既に宵闇が降りてきていたが、テツヲと沙梨亜ちゃんはまだ戻っていない。
探索範囲を拡げ過ぎて何か、厄介な事態を持ち込んでこないといいのだがーー。
不安だ
日記とペンを仕舞った私は暖を取るべく焚き火へと近付く。
それに目敏く気付いた後輩君が声をかけてくる。
「あ、リン先輩!
コーヒーって飲みます?それとも紅茶?」
ティーバッグの入ってる袋と粉コーヒーの瓶を見せてきた。
荷袋の積載量が豊富とはいえ、ひよ子は随分と色々仕込んだらしい。
眠気を払うべく、私は瓶に詰まった茶色い粉末を示す。
「コーヒーね!砂糖多めのやつ……」
「あ、はい!
砂糖たっぷりですね、ミルクも?」
頷いた。
疲れた頭にこの飲み物は格別なのだ。
決して砂糖の有無が精神年齢を表すとか、そういう俗説を信じてはいけない。
彼はカップを二つーーそれぞれ、お湯を注いでいくが満たされた容器の色合いは違った。
方や暖かみを感じさせる色なのに対し、もう一方は焚き火に照らされていなければ闇に溶け込んでしまいそうな色ーーブラックだ。
「意外ね……」
「え?そうですか?
おれはいつもこれですよ?
あ、でも寝起きとかは牛乳入れたりしますけどね」
「そ、そう……?大人ね」
言ってしまった。
決して大人とか子供とか、コーヒーの砂糖一つでは決まらない筈なのだ。
案外、私の前で少し大人ぶっているのかとも考えたのだがーーどうにもそんな様子は無い。
黒々とした液体に躊躇無く口をつけ、苦さで表情を歪める事も無かった。
確かに、普段から飲み慣れているのだろう。
方や私はミルクと甘さの拡がるコーヒーを口に含み、ゆっくりと味わう。
甘味の中にほんのり蝕んでくる苦味はーー敗北の味わいだ。
通算の年齢でいえば私の半分に満たない後輩君に負けてーーもとい、決して負けてはいない理由をどうにか探している。
特に言い訳が思い付かずにいると、カップの半ば程を飲み干した後輩君が口を開いた。
「遅いですね、テツ先輩と前垣さん」
「そうね……。
でも、迷子になってるだけなのかもしれないのだわ?」
二人の身を案じる反面ーーせいぜいが深く進み過ぎて、明るくなるまで一夜を明かす事にしたのかもしれないのだ。
そういえばーー別行動を提案した沙梨亜ちゃんも案外、敢えてそれを狙っての事なのかもしれない。
私は杞憂に終わりそうな二人の現在状況を頭から逐いやった。
後輩君も似たような事を思い浮かべたのかは分からないが、話題を変えようとする。
「二人のことはさておき、今後の方針でも固めておきましょう!」
「そうね……。
差し詰め、物資が続いている間に拠点を築くか、それとも……」
「人の居そうな場所を見付ける、とかですかね?」
彼の言に私は頷いた。
実際問題、此処が私の前世と同じ異世界なら、一応ながら人ーー人類と呼べる者達は居る。
けれども彼らは、私達と同じような見た目の同じような人種かというとーー確かにそういう人種も居たが、私の知る限りで主流では無い。
記憶にあるだけでも数十種もの数多の人類と呼べる種が存在している筈だから、一概に友好関係を結べば良いーーという話でも無かった。
後輩君は少し悩んだ末、慎重な判断を下す。
「どちらにしても、ある程度生活を持続出来るだけの拠点が必要ですかね
食料に水、生活用水の確保に雨風を凌げるだけの住居、と、、」
「最低限それらは必要なのだわ……!」
いくら異世界に来たがっていたとはいえ、私もサバイバル生活をずっと続けたいわけでは無かった。
どちらかというと元居た世界のーー窮屈で閉塞感のある社会に嫌気が差したのが、理由として大きい。
〈ワルプルギスの集い〉の面々は多かれ少なかれ多少はそういう空気感を共有していたのだから、特に後輩君も疑問は無いのだろう。
「そうなると、まずは水ですね
確か、あっちの方に山が見えましたから、どこかに渓流があると思います
これだけ木がある場所ですしね!
水源を見付けるのは簡単だと思いますよ!きっと」
「そうね……!
明日からは水源の確保をひとまずの指針として、あとは……」
そこで言葉を切った。
初め、何かと思い目を凝らすーー。
木々の梢に挟まれた何かが、向こうからこちらを覗いているように思えた。
あの二人が戻ってきたのだろうかーー?
ちょうど、後輩君の背後の方だ。
焚き火の火に照らし出された顔が、高い位置から見下ろしている。
ドクン、とーー肌から伝わる感覚が警鐘を鳴らした。
テツヲか、それとも沙梨亜ちゃんーー?
頭が急速に見た情報を整理しようとするが、疲れた身体は重い腰を上げようとしない。
気付けば、梢の間に浮かんだ顔はスルスルとこちらに近付いていた。
物音もせず、しかしーー私の表情に違和感を感じたらしい彼は振り返る。
この時ーー私は声を上げなくてはならなかった。
何てーー?
逃げて、でも、走って、でもーー何でも良かった筈だ。
それとも私が後輩君に覆い被さり、すぐさま手を引いて駆け出せればーー。
咄嗟にそう考えるには、元居た世界のぬるま湯に浸かり過ぎていたのだ。
そう、元居た世界ーー。
そして、此処は今生の私が生まれ育った世界とは別の世界だ。
それを確信し、判断をするのがーー遅過ぎる。
身を翻した後輩君と、その横から払われるように迫ったのはーー。
それを目撃する瞬間、私の口はようやく言葉を捻り出す。
「こ……。
……後輩君?」
いつものように、そう呼んだ。
この瞬間ですら彼の本名で呼べなかったのは、或いは自制心を効かせ過ぎていたのかもしれない。
だから肝心な時に手足が動かず、口でさえ思うようにままならないのだ。
後輩君ーーヒラト君の姿が、目の前から消えた。
次話、>>17