ダーク・ファンタジー小説
- Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.18 )
- 日時: 2023/04/02 15:25
- 名前: htk (ID: OHC2KpRN)
1章〜〜第2幕、3話ーー副題(未定)
予想に反して、そこに後輩君の姿は無かった。
代わりに、こちらを案じた声が掛かってくる。
「アアン?遅かったじゃねェかァ、、?」
「、、遅刻ですよ?
それと、やりかけだったので適当に具材と味付け足しておきました
世話が焼けやがりますね、まったく、、」
適当に腰掛け、既にくつろぐ風のテツヲと沙梨亜ちゃんだ。
私はそれに応じようと思ったが、言葉が出てこないーー。
何と言おうか迷うのも束の間、怪訝そうな顔をした沙梨亜ちゃんが気付く。
「、、顔蒼いですよ?
リン先輩、どーしたんです?」
「アアン?
、、ヒラトはどうしたァ?」
異変に気付いた様子のテツヲも、鍋を突いていた箸を止めた。
私の予想に反して居ない後輩君の事を、早く伝えないとーー。
「……あ、こ……後輩君は……?」
それだけだ。
思ったように口が動かず喉も掠れていて、私らしくない。
いつもならーー大魔女と抜かしつつアレコレ出てくる筈の言葉も思考も、何も湧いてこなかった。
焚かれた火に照らされた地面に、そこだけポタポタとーー雨が零れ落ちる。
私の足元だ。
それを見て、テツヲは油断の無さそうな目付きで訊ねてくる。
「何かあったのかァ、、?真島ァ」
「、、です?リン先輩」
器を手に取り鍋をよそろうとしてた沙梨亜ちゃんも、手の動きを止めたままだった。
嗚咽が込み上げてくるのが、自分ではどうしようも無い。
「ぅわ……私が、ひっク……。
……ぅ私のせいで、こゥ……後輩く、後輩君が……?!
どうしよ、どうしよう……?!」
呂律が上手く回らない。
早く状況を説明しないとーーと焦れば焦る程、変な声と一緒に涙が零れ落ちてくる。
二人は顔を見合わせ、表情を険しくさせた。
「、、っつうコトはアラクネみてェなそのモンスターに襲われ、ヒラトのヤツは連れ去られたっつうコトだなァ?」
「、、ですね
だいたい、まだ何も分かってねーのに泣きベソかくのは早過ぎますよ?先輩」
たどたどしく状況を説明したら、二人にそう言われた。
連れ去られたーーと言われれば、その通りかもしれない。
確かに、辺りに争った形跡はほとんど無かったのだから、あの後ーー此処で後輩君の身に何かが起きたとは考えにくかった。
五体満足とも思いにくいが、二人の言い分は十分に整合性が取れていてーー混乱した私よりも余程冷静に見えた。
沙梨亜ちゃんの手に握られていた感触が、私の手から離れる。
「、、モタモタしてる場合じゃねーです
行きますよ?」
「だなァ、、
、、オメェらが戻って来たらと思ってたんだが、早い方が良いよなァ?」
「、、です
テツ先輩、急ぎましょう」
二人の遣り取りがよく分からない。
私が訊ね返す間も無いまま、テツヲは話を進める。
「、、こっから先、単独行動は厳禁だァ!沙梨亜ァ!
それと真島ァ、、オメェもだ!イイなァ?」
「え……そ、そうね……?
でも何を……?」
訊き返した。
一刻も早く後輩君の行方を追いたいのは、二人から十分伝わってくる。
でも、それにしたって手掛かりらしいものが何一つ無いのに、急過ぎるだろう。
まだ平静さを取り戻したとは言い難いが、今の私にもそれぐらいは分かるのだ。
テツヲは訊ね返した私に手短く答える。
「道中話す、、!付いて来いやァ!?二人共!」
「、、ふぅ
カチコミなんて久し振りですね
天ヶ嶺君を追いますよ!」
既に気迫十分のテツヲと沙梨亜ちゃんに、こちらの反応は遅れる。
「え……?ど、何処に向かうって言うの……?!
まだ何の手掛かりすら……」
二人は私の戸惑いに応じず忙しく準備を進め、再びーー円形断崖を離れた。
「マーキングだなァ、、?ありゃァ」
「、、ですね、テツ先輩」
懐中電灯を手に、沙梨亜ちゃんが向こうを示した。
辺りは既に暗く、よくよく目を凝らさないと見えてこない。
何か、ぬらぬらと光るものーー。
そういえば、後輩君と探索した時に見付けた、あのベトベトらしいものが照らし出されていた。
ライトが向けられた箇所は私と彼が見付けたものとは別だが、道中ーーよく見ると所々に同じようなものがある。
「、、そこです、リン先輩」
「あ、うん……?そう……?
よく見えるわね……?沙梨亜ちゃん」
「、、ええ
これでも現代の祓魔衆の家筋ですので、一応」
「……祓魔衆?
聞いた事も無いのだわ……?」
私が首を傾げていると、テツヲが言葉を引き継ぐ。
「アア、よくあんだろァ?
伊賀とか甲賀、風魔のどれかぐらい聞いた事あるよなァ?真島も
、、沙梨亜ァ、っつうよりか前垣家っつうのは今じゃヤーさんとそんな変わんねェが、本家本元に秘伝の一つ二つ眠ってるっつう説が昔からあるらしくてなァ?」
「ええと……つまり、現代の忍者?」
そう言うと、沙梨亜ちゃんが表情をキリッとさせてくる。
「、、ダサい呼び方です!
祓魔衆ですよ?祓魔衆!
二度と間違えないで下さい!分かりましたね?」
「あ……分かったのだわ?」
彼女の何かに触れてしまったらしい。
危うく踏み込んではいけないラインのようだが、今はそれよりもーー後輩君だ。
「ええと、つまり……あのベトベトは蜘蛛人間のマーキングと見て間違い無いわけね?」
「、、です
そのマーキングを辿れば、いずれ天ヶ嶺君の元へ辿り着けると思います」
沙梨亜ちゃんの言に、こくりと頷いた。
先程から駆け通しで、少々ーー息が上がっている。
前の二人は息一つ切らしてないのに、それに加えてよく見通しの悪い森中を走れるものだ。
昼間ならまだしもーー今現在はとっくに暗くなっていて、特に運動神経に自信があるわけでも無い私が付いていくのには、少々苦労した。
通力循環で身体能力が倍になっているのにも関わらずーーやはり、元々の身体のデキからして違うのだろう。
沙梨亜ちゃんの意外な出自には驚いたが、それにも増してーー異様なのはテツヲだ。
邪魔な枝先があればバキバキと手折っていく猛獣さながらの疾走は、後ろの私達二人の進路を確保した上で尚ーー余裕があるように見えた。
彼らを見ていると結局ーー一番の足手纏いは私だったのかもしれない。
そうした思いが念頭に浮かんでくるのを沈めて、夜の森を駆ける。
テツヲがこれ程荒々しく猛進してるのに、その途次ーーまったく生き物らしい生き物の気配が無いのも、彼の推測が当たっているからなのだろう。
此処があの蜘蛛人間の縄張りだというなら、普通ーーそれを知る生き物達は下手に近付いて来ないに違いない。
それを指摘したテツヲは普段の印象に反して、頭が悪くないのを私達は知っている。
蜘蛛人間が言っていた言葉ーー。
当の化け物本人もそれらしい事を話していたような気がするから、ベトベトを目印に後を追うのは間違いでは無いのだ。
私は前を行く二人に頼もしさを感じ、先を急いだ。
次話、>>19