ダーク・ファンタジー小説

Re: 魔女先輩は転移後即日死した後輩君を甦らせたい!? ( No.2 )
日時: 2023/03/23 16:57
名前: 天麩羅 (ID: F69kHN5O)

プロローグ〜〜序幕、1話ーー副題(未定)



 いつもと同じ、退屈な授業ーー。
 結局、後輩君に声を掛けなかった私は同じクラスのあの二人がいつの間にか居なくなったのを確認した。
 どうせまた、屋上でサボりだろう。
 異世界に転移する最後の日ぐらい、授業を受ければいいのにーー。
 そう思いつつの私は意外にも、今日この日までの出席数はコンプリートしていた。
 本日のお日柄は秋も深まる、二学期の半ば頃だ。
 文化祭も終え、紅葉も粗方散る季節だった。
 外来語の先生が耳に馴染まない言語をペラペラと流暢に喋っているのだがーー下らない。
 欠伸を噛み殺したような声が、他生徒達の口から聞こえてくるのは文化的な軋轢から生じた、せめてもの抵抗と見做すのは穿ち過ぎなのだろうかーー?
 幼少から慣れ親しんだ母国語に加え、いきなり中等部から外来語を学ぶ事に対しての違和感を感じてから、そのまま今日まできてしまっているのだろう。
 耳に馴染まない言語に慣れようと最初から聞き耳を立てていたかどうかーー。
 それが運命の分かれ道だった。
 何となく気取っている気がして、流暢に喋るのが鼻につくーー。
 そう思ってしまった私が授業についていけてないのも、ある意味必然だったのだろう。
 何せ、こちとら異世界の記憶を持つ身の上だ。
 異なる言語を覚えるのに幼少の頃は必死に聞き耳を立てていた。
 幼児の頭というのは学習能力の権化らしく、一度や二度聞いただけでこの世界の言葉を覚えられたりするが、ここにきてーー。
 これはもう数年前の話になるが外来語の授業だ。
 はっきり言って、少々やってられないとは私も常々感じていた。
 カルチャーギャップというやつだろう。
 こんなどうでも良い外来語を覚えたとしても、いざ本場で流暢な会話となると馬の耳に念仏に違いない。
 これはペンですーーなんて普通は言わない筈だし、きっとおノボリさんが本場で覚えたての言葉を使ってみたかったとしか思われないだろう。
 もしかしたら外来語でそれを言う機会はあるのかもしれないが、はっきり言って人生でそんな場面が訪れるのかは疑わしい。
 必然、小学生の頃までは100点だったテストの点数も見る見る下がっていった。
 それまでこなせていた課題が満足にこなせないと知るに至り、同時に勉学への熱意も喪われていくーー。
 そう、よくある話なのだ。
 そこに至るまで私はこの耳馴れない言語の世界に馴染もうと努力し、ある程度は自分でも満足のいく結果を打ち出していた。
 ところがーー中等部に入るなり、裏切りの連続だ。
 先に挙げた外来語の件もそうだし、小学生までの自由闊達とした関係性が上下を意識したものとなって、先輩後輩と呼び分けられるのが当たり前になっていくーー。
 大人になる為の準備だと、賢しげな大人達は言うのだろう。
 しかし私にとっては、異世界の記憶から続いての二度目なのだ。
 突然ハシゴを外されたような気がして、周囲に順応する気は無くなってしまった。
 半グレというやつなのだろう。
 別にあの二人のような不良では無いし、かといって周囲と仲良く同調出来る程大人でも無い。
 だから私は、記憶の中にある異世界を探求した。
 既に中等部もとっくに終え、高等部に入ってからの前世の記憶は曖昧なものとなりつつあったが、それでもーーある程度の成果を生み出す事は出来た。
 喚術陣と、異世界原語ーー。
 記憶の中の異なる世界とそっくり同じものかは分からなくても、数年の研鑽を経た私の研究成果はこの退屈な世界に新しい彩りを齎した。
 勿論、仲間内だけでの話だ。
 これを公表したら、頭のおかしい人として世間から後ろ指を指されるかもしれないとも思えたがーーこの世には、少々おかしな人達が山程居る。
 魔女を意識した三角帽子を校内で常に着用する私を始め、教室内を見渡せばーー何人か怪しい授業態度の生徒達が居た。
 所謂、オタクとカテゴライズされる人達だ。
 ヘッドホンで何かの曲を聴きながら黒板をノートに写す男子が居れば、ぐるぐる眼鏡で怪しげな文庫本を読み耽る女子生徒も居る。
 他所の高校の事はよく知らないのだが、少々変わった授業風景なのは間違いない。
 これには些か事情があって、我が八波羅の〈フィクサー〉ことーーあの友人が色々と陰で働きかけた影響が大きいともいわれていた。
 どんな手段を使ったのかは分からないのだが、相棒の眼帯ヤンキーが幅を利かせているのを背景に、犯罪スレスレの際どい交渉力を発揮したに違いない。
 つまり、私がこの八波羅高校を隠れ蓑にするのには都合の良い環境が出来上がっていたのだ。
 普段は何かと不必要なボディタッチの多い〈気狂い女帝〉でもあるのだが、それ以外の点に関しては私のみならず、彼女に感謝している生徒も多いだろう。
 そんな彼女を友人に持つ私は一介のオタクを装った現代の魔女として、校内に闇サークルを創設したのが去年ーー高校一年生の時の出来事だった。
 そして、時は現在に至り、今日ーー。
 一学期に勧誘した後輩君達の尽力もあって、本日異世界転移する。
 そんな計画を頭の中で思い浮かべている内に、お昼休みになった。



 屋上だ。
 ペントハウスを背にだらしなく背を凭れているのは、肩で制服の上着を着る二年生ーー。
 眼帯ヤンキーこと、近隣の不良達を震え上がらせる〈隻眼悪鬼〉ーー迦具土テツヲだろう。
 此処は元々先代のーーもはや死語と呼んでも良さそうな番長からテツヲが一年生の時に奪った場所らしく、生徒ばかりか彼の威名を恐れた教師達も近付いてこない。
 だから、闇のサークルの活動拠点としては打って付けの場所だといえる。
 既に昨日描いた喚術陣は屋上目いっぱいに布かれていて、その内側から円が幾つも連ねられた合間ーー円と円の間に、弧をなぞるように異世界原語が並んでいた。
 起動の時を待ち侘びる円陣ーー日差しで乾いたそのインクから、私は他方へと視線を向ける。
 屋上の端の方でシートが敷いてあるのは〈フィクサー〉にしてオヤジ女子こと、鳥居ひよ子の固有スペースだろう。
 今日持ち込んだ漫画らしいのが重ねられていて、開けっ放しの袋が既に三つーー散らかされている。
 けれども、当の本人は見当たらない。
 袋の中の菓子本体は既に空のようだから、近くのコンビニにでも補充に行ったのだろう。
 ちょうどお昼時だし、いつもと変わらない。
 私が屋上の扉を開けたのに気付いたのかどうか、テツヲの横顔はこちら側が眼帯で窺えなかった。
 後輩君達は、まだ来ていない。
 そう思った直後ーー。
 後ろから、階段を昇る足音が聴こえてくる。
 彼だ。
「あ、リン先輩!
おそようございます」
 礼儀正しく挨拶してくる後輩君に続き、後ろの女子生徒が続く。
「、、おそよーです
お菓子余ってます?」
小柄ながらに堂々とシートに直行したのは、後輩君と同じクラスのーー。
「中身は空ね……沙梨亜ちゃん」
「、、ちっ
使えねー先輩ですね、約1名」
 彼女が揶揄したのは此処に居ないもう一人、私の友人のひよ子だろう。
 一学年上の彼女を憚らない後輩女子、前垣沙梨亜ーー。
 後輩君と同じクラスで、ぱっと見はお淑やかそうにも見える女の子だった。
 サラサラとした髪の毛は艶やかに光を照り返してくる黒で、そこらの燻んだ黒とは格が違う。
 薄く目立たないように化粧をした顔は素材そのものが一級品だ。
 だから、時々口から出てくる毒がその容姿に相反してタマラナイーーらしかった。
 曰く、男子達の口からヒソヒソと聞こえてくる品評にして、校内の闇の番付けでもある。
 一学期の内に同級生の男子半数が撃沈したとも噂され、それは私と同じ二年生男子も例外では無い。
 さすがにその想いを告げた人数は誇張としても、女子の私から見てもたまにドキリとする女の子だった。
 それからーー。
「いよいよ今日ですね、先輩
緊張するなぁ」
「そ、そうね……。
ヒ、ヒラ……後輩君」
 ヒラト君、と呼ぼうとした。
 天ヶ嶺開人ーーそれが、ここ最近私を狂おしく悩ませる後輩君の本名だった。



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