ダーク・ファンタジー小説
- Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.20 )
- 日時: 2023/04/02 15:34
- 名前: htk (ID: OHC2KpRN)
1章〜〜第2幕、5話ーー副題(未定)
筒型の巣が張り巡らされた空洞ーー。
先程まであった角灯は見当たらず、真っ暗闇に近い。
飛び降りて来た横穴から漏れる光で、辛うじて見える程度だ。
ほとんど輪郭でしか分からない沙梨亜ちゃんが、もぞもぞと動く。
「、、暗いです
、、懐中電灯、何処かに、、」
「……待って?沙梨亜ちゃん
試したい事があるのよ?」
言った私は長杖を構え、体外に漂うプラーナへと干渉する。
これは通力解放ーーと呼ばれる技法で、前世の記憶の中にあったものだ。
「光術式……ええと?異世界原語で……?
いえ、術式で翻訳されている筈なのだから、呼び方は何でも良い筈なのだわ……?
光よ……!」
言うと杖の玉が埋め込まれた先端を、異世界原語を示す文字の連なりが取り巻いた。
単一の円陣が宙で形勢され、私の真上に光球が浮かび上がる。
「出来たのだわ……!」
「おォ!?魔法かァ、、!?
、、凄ェじゃねェかァ!真島ァ!」
テツヲが感心した声を上げると、沙梨亜ちゃんが続ける。
「、、今更驚きはしませんが
急ぎましょう」
言いながら、荷袋を探る手を止めた。
懐中電灯が切れても、これなら暗い空洞内を歩けるだろう。
私が沙梨亜ちゃんに頷き、テツヲは前を歩く。
明るくなった其処を見上げると、かなりの広さだ。
張り巡らされた筒状巣は所々にある横穴へと繋がっていて、私達が降りてきたのはその一つらしかった。
筒型の巣の中では何かが蠢いているらしく、真下から見上げていると時折、何かが巣内を移動しているのが分かる。
二人の後ろを歩きながら、私は言う。
「不気味ね……。
後輩君は何処に居るのかしら……?」
「さてなァ、、?
、、手掛かりは特に無ェが、アレじゃねェのかァ?」
前方を指差したテツヲーー。
彼の示した先には、幾多の筒状巣が繋がるコロニーとも呼ぶべきーー大掛かりな巣が見えた。
これまで見た筒型の巣と違い、円形に近い。
これは、どう判断すれば良いのだろうーー?
「あの中に蜘蛛人間が居る……と考えても良いのかもしれないわ?」
「、、なら
、、私が行って見てきましょうか?」
言った沙梨亜ちゃんが、一番低い位置にある筒状巣へ跳躍した。
ぶらんーーとぶら下がった後輩女子は、伸縮性のある巣の表面をよじ登っていく。
それを見て、テツヲも別の巣へ取り掛かる。
「よっしゃ、此処だなァ?」
それなりに高さのあるそこへ垂直跳びした彼は、いきなり真上付近で着地したらしい。
分かってはいたが、驚異的な脚力だ。
此処からだと、眼帯ヤンキーの姿は見えない。
置いてけぼりになった私に、沙梨亜ちゃんから声が掛かる。
「、、リン先輩
ロープ要ります?」
「いえ……何とかなると思うわ?たぶん……」
言い、再び杖を構える。
「土術式……!
我が身をかの元へ運べ……!」
異世界言語に訳された言葉が、術式となって長杖を取り巻いた。
文字の羅列はぐるりと私の足元へ移動すると、途端に盛り上がる。
そこにあった地面は徐々に高さを増していき、テツヲや沙梨亜ちゃんと同じ目線の位置で止まった。
やや片目を上げたテツヲが言う。
「何でもアリだなァ、、?」
「そうね……どうにも此処はプラーナが濃いらしいのよ?
通力解放による外気への干渉に際して、ほとんど抵抗が無いのだわ……?
……元居た世界とはまるで別ね」
以前、実験の過程で色々と試した時は、此処まで容易く術式を行使出来た事が無かったのだ。
仮にもしーー元居た世界で同程度の術を起動させるのなら、相当に面倒な幾つもの術式の連なりを必要とする。
それは単一の円陣というよりも術法陣というべきもので、その規模が大きくなればなる程、扱いが難しかった。
だから、あちらの元居た世界ではほとんど実証出来なかったという経緯があったのだがーー今はこうして、前世の記憶を頼りに術式を行使出来る。
私はその土術式によって盛り上がった地面から、筒状巣の上へ跳び乗った。
あの大きな円形の巣は、目と鼻の先だ。
だが、そこでーー。
「アアン?どうしたァ?沙梨亜ァ、、」
「、、わたし、高い所が
、、いえ、何でもありません
これぐらいなら、、」
首を振った後輩女子は、恐る恐るーーおっかなびっくりといった様子で足を踏み出す。
そういえばあの円形断崖でも震えていたから、本当に高い所が苦手なのだろう。
見ていて少々危うい気がしたものの、私達は筒状巣の中心ーー円形巣の上へと移動した。
「、、突入です
、、準備は良いですか?」
沙梨亜ちゃんが言った。
二本の短刀を手に、いつでも足元の円形巣を切り刻める構えだ。
この真下に、後輩君が居るのかもしれないーー。
ーーその可能性がある限り、行かないという選択肢は無かった。
私は沙梨亜ちゃんにこくりと頷き、テツヲが催促する。
「よっしゃ、やれェ!沙梨亜ァ!」
「、、では
、、転げ落ちないで下さいね?二人共、、!」
左右に短刀を手にした後輩女子が、先程のように交互の斬撃を繰り出した。
網目のように刻まれたそこに、飛び降りられる程度の縦穴が出来上がる。
先に飛び込むのは、テツヲだ。
「先陣は俺が貰ったァ!」
「行くのだわ……!沙梨亜ちゃんも大丈夫ね!?」
言い、後輩女子がこくりと頷いたのを確認して、私も飛び込む。
落下中耳に忍んできたのは、上で深呼吸する声だ。
「、、ふぅ
、、やれねーわけねーですよ!?」
気勢を吐いた沙梨亜ちゃんも、意気込んで飛び込んでくる。
着地際ーー足元から僅かに振動が伝わるが、飛んだり跳ねたりする感触では無い。
地面だ。
何処からか運ばれてきた土塊が詰められているらしく、予想とは違った。
足場が安定しているなら、それは私達にとって好材料だろう。
そして、私の光術式によって照らされた巣内はーー。
「、、繭
、、ですか?」
「みてェだなァ、、?」
内部の円周沿いを見渡した二人が言った。
養蚕で見るような、あの繭だ。
ただ、その繭はそれなりに大きなもので、内部の壁際でずらりと並んでいた。
あの蜘蛛人間の幼体が居る、と考えるのが妥当なのだろうかーー?
他方、天井や横壁を見渡すと筒型の巣内へと続く横穴が幾つも点在している。
筒状巣の中で蠢いていたものが何なのか未だに分からないが、そこへ繋がっていそうな幾つもの穴は警戒しておいた方が良いかもしれないーー。
そうした考えを浮かべていると、上の方でカサカサと物音がした。
案の定ーーというべきなのだろう。
巣内を荒らす侵入者に、敵はようやく気付いたのだ。
筒状巣へと繋がる幾つもの横穴ーー。
そこには、顔、顔、顔ーー幾つもの人の顔がこちらを覗き込んでいた。
次話、>>21