ダーク・ファンタジー小説
- Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.21 )
- 日時: 2023/04/02 15:37
- 名前: htk (ID: OHC2KpRN)
1章〜〜第2幕、6話ーー副題(未定)
ずらりと並んだ顔が、こちらを覗き込んでくる。
光術式の光によって照らされたその表情は、一見すると陶器のようだった。
それらを見上げ、眼帯ヤンキーが言う。
「ようやくお出迎えかァ、、?
、、蜘蛛人間、っつうよりかァ人面蜘蛛みてェだなァ?」
「私が会ったのとは別なのだわ……?」
「アアン?そうなのかァ?」
テツヲが指摘した人面蜘蛛ーーというのは適切で、あの蜘蛛人間とは別だ。
天井や横壁の穴から湧き出したーー幼体ともいうべきそれらは、その後部節から糸を垂らして一匹、また一匹と降りてくる。
その様子を見て、沙梨亜ちゃんが言う。
「、、ふぅ
、、タチの悪いホラー映画みてーです、ねっ、、!?」
一駆けした彼女は手近な一匹に詰め寄ると、その顔面に短刀を一振りした。
ザシューーと空気を切りそうな音が立て続けに聞こえ、多数の節足が散る。
身動きの取れなくなった一匹が力無く項垂れたのを皮切りに、他方ではテツヲがーーこれは驚くべき事だが、視界の端から瞬時に移動した。
「よォ?人面蜘蛛
、、ヒラト、っつうヤツ見掛けなかったかァ?」
呑気に話し掛けているが、対して陶器のような表情が大口を開け、鋭利な牙を覗かせる。
その口内から、毒々しい何かが飛ぶーー。
それを眼帯ヤンキーは首の動きで躱し、気付けば爪先を蹴り上げた格好だ。
まるでテツヲの動きだけが切り替わったように、動作の連続性が視認出来ない。
そこに居た筈の幼体は宙高く浮き、天井へと勢いよく突き刺さっていた。
眼帯ヤンキーは足を下ろしながら、群がる敵を睥睨する。
「人が話し掛けてんのにいきなりツバ吐かれるとはなァ?
、、気に入らねェ」
言ったテツヲに近付いてきた人面蜘蛛達が、まるで慄くように、一斉に牙を剥いた。
こちらから眼帯ヤンキーの表情は見えなかったが、これが所謂ーーガン付け、というものなのだろうかーー?
表情を嬉々と凶猛さに塗り替えたに違いないテツヲが、一斉に放たれたツバもとい、毒々しい液体を潜り抜ける。
弧を描いた先の着弾点に、武闘家姿は見られない。
射程の内側へ入られた数匹が、瞬く間にその後列を越えて吹き飛んだ。
間合いを詰める跳び蹴りからの、殴る、蹴る、また殴るーー。
そうした動きを結果として頭で理解は出来るのだが、それは既に事が起こった後なのだ。
凄まじい身体能力で敵を圧倒するテツヲから視線を外して、他方ーー。
沙梨亜ちゃんといえば、積み上がっていく人面蜘蛛の死骸の合間を上手く立ち回っていた。
姿勢を低く、あの毒々しい液体を躱し、既に事切れた骸を盾に接近ーー気付けば、また一つ一つと確実にトドメが刺されていく。
「、、ふぅ
、、次です」
短刀の一つが抜き払われ、引き続き左右から忍び寄ってきた一匹の顔が足蹴にされる。
そのまま沙梨亜ちゃんは人面を踏んで宙返りし、向かい合わせの一匹へと跳び掛かった。
脳天から突き刺された人面蜘蛛は、最期の瞬間ーー何も理解出来なかっただろう。
続いて、先程顔を足蹴にされたもう一匹も怯んでいる内に、その体躯を大きく傾けた。
原因は、片側の節足を全て斬り落とした短刀ーー。
ーー既に身動きの取れない幼体を遮蔽物に、あの毒々しい液体の照準を免れる動きだ。
するりと神出鬼没の影に翻弄され、迫る人面蜘蛛達は右往左往する。
身動きの取れなくなった敵の合間を、駆け抜ける沙梨亜ちゃんーー。
こちらもまた、テツヲとは別の意味で縦横無尽だった。
そして、二人を眺める私は、といえばーー。
「手持ち無沙汰ね……。
後輩君は……何処かしら?」
怪しいといえば、あの繭だろうかーー?
円形巣の内側沿いに並ぶそれらの中にもし彼が居るのだとしたらーー。
全てを開いて覗き見るのには時間が掛かるし、そもそも今は人面蜘蛛の迎撃でそこまで辿り着けそうに無い。
テツヲと沙梨亜ちゃんのお陰で相手取るのには然程苦労しないが、それを突破するとなれば話は別だった。
筒状巣に通じる穴からまだ後続は続いているのだから、敵の渦中にわざわざ身を晒すわけにもいかない。
そう考えていると、回し蹴りで人面蜘蛛の数匹を飛ばしたテツヲが言う。
「おゥ!?真島ァ、、!
アレじゃねェのか!
、、あの繭みてェなヤツ」
「ええ、私もそう睨んでいるのだわ……?」
そうは言ったが、不安だ。
繭の中身がどうなっているのかは分からないのだし、もし後輩君の身に何かあったらーー。
そうした想いを察してくれたのか、後輩女子が言う。
「、、わたしが見てきます、リン先輩
、、此処はどーにか凌いで下さい」
そう言った沙梨亜ちゃんは人面蜘蛛の体躯を足蹴に、向こうへ跳躍する。
あんなに深く斬り込んで、大丈夫なのだろうかーー?
やや不安に思ったが、此処は沙梨亜ちゃんに望みをかけるしか無い。
「分かったのだわ……!沙梨亜ちゃん」
言い、後輩女子が受け持っていた方面へと当たる。
既にそれなりの数の人面蜘蛛が横たわっているが、まだ数が減ったような気はしない。
私は杖を構え、術式を起動する。
「土術式……!
……かの敵を地中より出ずる槍にて穿ち抜け!」
敵一匹々々の元で丸く連なる、異世界文字の羅列ーー。
それらの円陣はひと度発光したかと思うと、先端を尖らせた土槍が勢いよく噴出した。
声無き呻きが、円形の巣内で木霊する。
貫かれた体躯の一つ一つは、昆虫標本にでもされたような趣きだ。
多数の節足を縮めるように人面蜘蛛達は動かなくなったが、まだそれで終わりでは無い。
「風術式……!
……我が道を阻みし敵をその威風より圧倒せよ!」
叫びと共に、空気が軋んだ。
敵の真上で展開された円陣が、まるで頭上から抑えつけるように人面蜘蛛達を圧迫する。
見えない壁に押し潰されでもしたのか、幼体達は身動きが取れない。
ミシリミシリとーーこちらまで聴こえてきそうな音を立てて、その体躯が遂には緑色の液体をぶちまけた。
都合二回の術式によって目に見える前方の敵は片付いたが、その後も後続が途絶える様子は無いーー。
勿論、私もこんな程度で終わらせる気はさらさら無いのだが、いつまでも幼体を相手にしているわけにもいかなかった。
背後へ目を向けると、テツヲは片手に掴んだ人面を将棋倒しのようにして突っ込んでいるし、あちらは問題無いだろう。
あの眼帯ヤンキーを敵に回したのは、憎き蜘蛛人間にとって思慮の外に違いない。
私は視界の上から糸を垂らしてくる後続を見付け、術式を行使する。
「風術式……!
……かの敵を切り裂け!」
向けた杖先からの見えない刃によって、敵が真っ二つになった。
私はその後も術式の風刃によって迫る敵を蹴散らしながら、沙梨亜ちゃんの後を追う。
この場はあの眼帯ヤンキーに任せても、たぶん大丈夫だろう。
目的はあくまでもーー後輩君の救出なのだ。
「待ってて、ヒラト君……」
自分では意図せず、彼の名を口にしていた。
時々、後にしてきた向こうからテツヲの掛け声が聞こえてくる。
「だりャァアッ!?」
その度に大きな物音が響き、円形巣が揺れた。
未だ人面蜘蛛との戦闘が続く最中ーー私は沙梨亜ちゃんの姿を探す。
巣の内側に並んだ繭の手前まで来て、その後ろに回り込んだ。
手前に蔓延っていた人面蜘蛛の骸やら繭で気付かなかったが、円形巣の円周沿いは急斜になっていてーーその先にも同じような繭が並んでいる。
そこで、沙梨亜ちゃんの声が聞こえてきた。
「、、ちっ
、、趣味わりーですよ、、」
「沙梨亜ちゃん……?」
そちらへ向かうと、後輩女子は綺麗な顔立ちを歪めている。
短刀で切り裂いた繭の中身を見て、何かを見付けたのだろうかーー?
私に気付いた沙梨亜ちゃんは、こちらを見て言う。
「、、先輩は
、、見ねー方が良いです」
その言を聞いて、嫌な想像をしてしまった。
だが、沙梨亜ちゃんはそれを払拭するように言う。
「、、天ヶ嶺君では無いです
、、でも、、」
言われ、ホッとしつつも表面が引き裂かれた繭へと回り込む。
一度は止めた沙梨亜ちゃんも、強いては止めない。
私はそれを見てーー怖気を感じた。
綿のようなもので覆われたその中央には、まるで胎児が眠るようなーー顔がある。
形成途上の皮膚が透けるような見た目は、これ以上ーー直視する気にはなれなかった。
もしかして、後輩君もーー。
嫌でもその考えが浮かんでしまうが、その思考は中途で中段される。
耳に忍び寄ってきたのは、あのーー聞き取りにくい声だ。
「セレモニアーナ、ノ差シ金カ
……ヨク来タ!
我ニ誘キ出サレタトモ知ラズニ……!」
現れたのは、蜘蛛の頭部に代わって人型を生やす、あの蜘蛛人間だった。
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