ダーク・ファンタジー小説
- Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.22 )
- 日時: 2023/04/02 15:39
- 名前: htk (ID: OHC2KpRN)
1章〜〜第2幕、7話ーー副題(未定)
私達を誘き出されたーー。
と聞き取りにくい声は指摘したが、それは根拠に乏しいハッタリの類に違いない。
後輩君を探しに此処まで来るのかどうかも相手には分からないしーーそれに、そもそも私達が此処に辿り着けるのかどうかを、最初に遭遇した時点では知りようが無い筈なのだ。
それを指摘しようと、口を開く。
「ハッタリも良いところなのだわ……!
彼は何処に居るの……!?」
「……ハッタリ?
フフフフ……セレモニアーナ、共ハ、トンダ未熟者ヲ寄越シタラシイナ?」
セレモニアーナーーと誰かを呼んでいるらしいのだが、前世の記憶を探っても思い出せない。
何となく引っ掛かりはするが、今はそんな場合では無いだろう。
「彼の居所を吐きなさい、今すぐ……!さもないと……」
言い切る前に、聞き取りにくい声が割り込んでくる。
「ソレガ分カラナイトアッテハ、ロクナ教育モ受ケラレナカッタラシイ……!
……プラーナ、ノ保有量ガ奴ラニ迫ルモノト警戒シタガ、トンダ腰抜ケダッタヨウダ!」
そう言った蜘蛛人間は、こちらを嘲るように陶器のような表情を震わせた。
沙梨亜ちゃんがその遣り取りを聞いて、ぼそりと零す。
「、、セレモニアーナ?
、、何の話です?」
「……トボケテモ無駄ダ!
貴様ラハ我ガアラクモ族再建の糧ト成リ、贄トシテ……」
話の途中で、またーー今度は蜘蛛人間の聞き取りにくい声が遮られた。
先程のお返しだ。
見開かれた複眼のような目端を掠め過ぎたのは、風術式の刃ーー。
鋭く圧縮された空気を放った杖を向け、私は告げる。
「……次、言わないのならその首を刎ね飛ばしてやるのだわ!?
さあ、答えて……!?
彼が何処に居るのか……!」
不快さに引き歪められた蜘蛛人間の表情が、真顔になる。
「……腐ッテモ、プラーナ、ヲ保有スルダケハアルヨウダ!
良イダロウ……貴様ラ纏メテ、我ガ眷属ノ端ニ加エテヤルトシヨウ……!」
そう言った蜘蛛人間が、多数の節足を撓ませてーー跳躍する。
こちらの要求に応じる気は無いらしい。
頭上へ高く浮いたその後部節から、ぬらりとした液体が拡がった。
「沙梨亜ちゃん……!」
後輩女子へと手を伸ばし、逆の手の杖先で地面をなぞる。
地べたに触れた箇所を起点に、隆起する土塊ーー。
ーー盛り上がった土のこちら側に握り返された手を引き込んだ私は、頭上を見上げた。
ドーム状に拡がった液体は幾重にも線を形成し、私達二人を囲い込むーー。
だが、その寸前で周囲を囲ったのは、土で出来たかまくらだ。
外からの圧迫で土塊がポロポロと零れ落ちるが、土術式の防御を崩すまでには至らない。
初撃を凌いだこちらに向け、頭上から声が聞こえてくる。
「小癪ナッ……!?
……シカシ通力ヲ多少ハ扱エテモ、コレハ躱セマイ!?」
土のかまくらの真上ーー。
そこへ飛び乗ってきたような振動が伝わり、後輩女子の目が見開かれる。
「、、先輩!」
沙梨亜ちゃんが、私の頭を抑えて横倒しになった。
かまくら内で今も光る光球が、天井を突き抜けてくる多数の節足を照らし出す。
地べたすれすれのーー私の鼻先に、突き刺さる寸前だった。
あわやこちらに届きそうな節足を避け、手にした長杖を振り上げる。
異世界原語を頭の中で浮かべての、術式の起動ーー。
これで、相手にこちらからの反撃が悟られずに済む。
杖の先端を取り巻いた円陣から、見えない刃が飛んだ。
かまくらの屋根を割った風刃は、上に乗しかかっていた蜘蛛人間ごと真っ二つに引き裂いたに違いない。
私達は溢れ落ちる土を避け、身体を起こす。
かまくらが左右に崩れ、その外から圧迫しようとした網目もーーくたびれたように伏せっていた。
蜘蛛人間の姿はーー見当たらない。
その事に焦りを覚えると、隣で声が上がる。
「、、先輩
、、あれを、、?!」
「どうして分かったの……!?」
後輩女子に釣られ上を見上げると、そこには巣内で今し方ーー宙に布かれたばかりの、網目の蜘蛛の巣が拡がっていた。
その上に蜘蛛人間が居る。
先程は口唱しない方法で試したから、私の放った風刃を察知出来た筈が無いのだーー。
こちらの動揺を嘲るように、陶器のような口元が開かれる。
「フフフフ……!通力ヲ多少ハ扱エルダケノ半端者ニ分カラヌノモ無理ハ無イ!
セレモニアーナ、共ハ貴様ニ何モ教エナカッタヨウダナ!?」
相変わらず、私を何かと勘違いしているらしいのだが、あの瞬間ーー察知出来なかった筈の風刃を避けた事実は、無視出来ない。
網目の足場から降り立った蜘蛛人間が、最後通告のように言う。
「半端ナ貴様ニ教エテヤロウ……!
プラーナ、ヲ体内デ巡ラセルノダケガ、通力ノ扱イ方デハ無イトイウ事ヲ……!」
言ったその顔の複眼のような目がーー光った。
何か、来るーー!?
そう思って身構えたが、特に何も起こらない。
ハッタリなのだろうかーー?
でも既に、何かしらの方法でこちらの術式を感知したらしいのを、私は知っている。
陶器のような表情は私達の動揺を愉しむように、口を開く。
「我ニハ視エテイル……!
……貴様ト先程ノ少年ヲ繋グ線ガナ?」
どういう事だろうーー?
そう思って、私はすぐに一つの事実に思い至った。
あの円形断崖を降りる際に、私を介して通力循環した後輩君との間にはーー敵の言うように、繋がりが出来ていた筈なのだ。
蜘蛛人間は私達を見向きもせず、物音も立たない節足で、こちらに背を向ける。
わざと隙を見せ誘っているのだとも考えたが、多数の節足は一つの繭の側でーー止まった。
「コレダ……!」
その上体の陶器のような腕がひと振りされると、特に何をしたようにも見えなかったのにーー示された繭が、パクリと開いた。
中で眠るように横たわる、軽装姿ーー。
日頃から見慣れた顔は、見間違えようがない。
「後輩君……!?」、、天ヶ嶺君!」
私と沙梨亜ちゃんの声が重なった。
見たところーー特に外傷のようなものは見られない。
近付いてみないと分からないが、やや遠目でも五体満足に見えた。
こめかみから流れていた血も止まっているように見えたし、正直なところーー少しだけホッとしている。
だがーー。
「ワザワザツガイノ印マデ刻ンデ、マサカソレヲ見捨テル者ハ居ナイダロウ……?
……貴様ラ魔女ノ中ニハナッ!?」
聞き取りにくいが、何と言ったのだろうーー?
ーーツガイ?
その言葉で心の内に踏み入れられた気がして、怒りが湧きそうになったがーーそれより先に蜘蛛人間の表情が引き歪む。
「……欲深ク身勝手ナ魔女ノ前デ、コノ少年ノ肌ヲ刻ンデヤルノモ一興ト思ッテナ?」
その上体の指先が、くねりと動かされた。
言った蜘蛛人間の頭上に、後輩君のーーその目を覚まさない身体が浮き上がる。
奇術でも見ているかのような光景だが、沙梨亜ちゃんはさして驚かずに言う。
「、、糸、ですね
ありきたりといえばありきたりです」
相手は蜘蛛人間なのだから、見えない極細の糸を操るぐらいはするのだろう。
そう言われると確かに、後輩君の軽装姿は何かに引っ張られたようにその衣服を撓ませていた。
掌を上にし、嫌な笑みを浮かべる蜘蛛人間ーー。
「コノ程度ノ、プラーナ保持者ナラ特ニ用ヲ成サナイノデナ……?
モシ、貴様ガソノ身ヲ自ラ進ンデ差シ出ストイウナラ、考エテヤラナクモ……」
言い掛けたが、その口の動きが止まった。
私達の頭上を飛び越え、ひと足跳びで盛大に跳躍出来るのはーー。
この場には、一人しか居なかった。
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