ダーク・ファンタジー小説

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.24 )
日時: 2023/04/02 15:45
名前: htk (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第2幕、9話ーー副題(未定)



「、、何を
、、してるんです、、?」
 気付けば蹲っていた沙梨亜ちゃんが、顔を上げた。
 私は特に答えを返さず、物言わなくなった後輩君に杖を向ける。
 異世界原語を思い浮かべながらの、術式の起動ーー。
 それらは横たわる彼の周囲で展開されるも、効力を喪ったように掻き消えてしまう。
「違う……。
外気への干渉力が足りないというの……?それともプラーナに働きかける私の力不足……?
……いいえ、まだ試していない事がある筈なのだわ……?何か……」
 幾度かの術陣が起動を直前に不発に終わったのを見て、私は考える。
 先程から試みているのはーー後輩君の蘇生だ。
 馬鹿げた話をーーと、人が聞いたら思うのかもしれないが、この世界は元居た世界とは法則が違う。
 異世界なのだーー。
 だから何か、死した人間を呼び戻す手段があっても不思議では無いとーーそう思いたかった。
 沙梨亜ちゃんは先程から何も言わず、こちらを黙って見詰めている。
 何か言いたい事があるのかもしれないし、それともーー今は好きにさせてくれるのが、時折皮肉っぽい後輩女子なりの優しさなのかもしれない。
 私はそれに構わず、何ら反応を示さない彼の傍らでーー手段を考える。
 あの蜘蛛人間が、何か言っていた筈だ。
 私と後輩君との間にーー。
「そう……。
通力循環ね……」
 外気を介して、後輩君の体内へーー。
 彼の手を握った私は、自身の内にあるプラーナを物言わぬ身体へ注ぎ、彼の中にまだ残存するプラーナに触れたのをーー感じた。
 それはーーどう判断するべきなのか、事例が無いせいで見当も付かない。
 でも、彼の身体はまだーー微弱ながらも生命活動を終えていない、端的な証拠だとはいえないだろうかーー?
 そうした希望的観測が、私自身の都合に基づいたある意味、脳内お花畑な、少女じみた考えなのは分かっているつもりだ。
 それでも、彼の中にまだ残るプラーナがあるという事実にーー望みをかけたい。
 私のプラーナを介した後輩君の顔色が、心無しかーー良くなったような気がした。
 目の錯覚かもしれないーー。
 私は首を振り、ありとあらゆる手段を思索する。
「何か……。
何か、ある筈なのよ……!?
……死して体内に残る彼のプラーナが他の死と同等に比定されるかは未確認だけど、それでも何か……」
 自然と漏れた述懐を、そこで止めた。
 こういう時ーー。
 いつもならフザけた相槌を打ちながらも、的確な助言をくれた顔が思い浮かぶ。
 茶色に金のアクセントを塗した髪色の、私達を見送ってくれた親友ーー。
「日記……」
 私は急いで荷袋を弄り、それを見付けた。
〈ヒョコちゃんとのラブリーアツアツ通信記〉と書かれた表紙を、一枚二枚と捲る。
 此処に来る直前ーーひよ子に宛てた返信の次のページに、長々とした文字の羅列が書き足されていた。
 術式変換品ーー〈ヒョコティティル製品〉の目録が、相変わらずフザけた口頭の後に続いている。
 そのいつもの前口上を読み飛ばし、探した。
 何か、今の私にとって最も必要とする、その何かをーー。
「あった……!」
 その箇所には、こう綴られている。

『次に、これはね〜?
もしもの時の為を思い深謀遠慮を発揮するヒョコちゃんに感謝する時が来るかもしれませんな!うっへっへ〜?
後輩女子ちゃんの袋にテキトーに詰めといたんだけど、その中身は古今東西、かの不老不死を目指した皇帝も真っ青な秘薬霊薬がより取り見取り〜!
ま〜、効果を実証する時間は無かったから必ずしも役立つとは限らないんだけどね〜?
どうかな〜?
それじゃ以下の下、その内訳を列挙しておくよ!
刮目して見るが良い!なんてね〜?』

 そのページを開いた私は、沙梨亜ちゃんに向き直る。
「これ……これよ、これ……!
ここ見て……!」
「、、先輩、、?」
 示した箇所に目を向けた後輩女子が見た内容は、こうだ。

『さすがに不老不死の霊薬とまではいかないと思うんだけどね〜?
あの見るからに毒々、ってゆーかポイズンちっくなやつ〜?
実はあれ、魂を呼び戻す秘薬みたいなんだ!
けどどうかな〜?
それで本当に人が甦るとかさすがのヒョコちゃんでも分からないけど、もしもの時用だね〜
ま〜、それを使う機会が来ない事を祈るよ?
友人達を陰ながら見護りたい気分の私としてはね〜?
あ〜、そうそう!
用法上の注意だけど、死んだ人に無理矢理飲ませようとしても無駄だから、使い方を補足するとだね〜?
いわゆる、ちゅーチューして死人の口に注ぎ込むわけですな!いや〜?
その際、相手の鼻をつまむと人体の反射で飲み込もうとするらしいんだけど、これはあくまでも死者が死んで間も無く、まだ身体が生きてるのが条件かもしれなくてだね〜?
これはもしかすると、もしかするかも分かりませんな!?』

 沙梨亜ちゃんはその記述を読むと、自身の荷袋を漁った。
 出てきたのは、あのーー見るからに毒々しい液体だ。
「、、ほ、本当に、、
、、これで天ヶ嶺君が、、?」
「……貸して」
 私は半ば、それをひったくるように受け取ると、フラスコの液体を口に含んだ。
 それをそのままーー後輩君の鼻をつまんで、彼の口に注ぎ込む。
 平素ならーーとてもそんな行動は取れなかっただろう。
 それがどんな感触で、どんな味がして、どんな気持ちになるのかもーー浮かんではこなかった。
 唇に自身のそれを触れさせた私の目は、後輩君の様子を注視している。
 ゴクリーーとは誰が鳴らした音なのか、最初は分からなかった。
 私自身かもしれないし、処置を見護る沙梨亜ちゃんだったのかもしれないし、でもーー。
 僅かに反応があったような気がしたのは、後輩君の喉元だ。
 幻聴だったのだろうかーー?
 毒々しい蘇生薬を嚥下したのかどうかーー。
 パッと見た限りでは、よく分からない。
 目の錯覚だったとも思えず、思案する私の傍らからーー。
「、、顔色
、、さっきと違う気がします、、?」
「沙梨亜ちゃんにも……そう見える?」
 二人して、同じような幻覚を見ているのだとはーー今は判断が付きそうに無い。
 沙梨亜ちゃんにとっても日頃から仲良くしているクラスメイトの死は衝撃だった筈で、先程啜り泣いた目元が赤いのもーー普段冷静な彼女の動揺を示すものなのだろう。
 対して私は意外な程にーー心の奥底の揺らぎが無くなっていた。
 あまりの衝撃に、少しだけ情緒がおかしくなっているのかもしれないーー。
 でも、この瞬間に限っては取り乱したりせずに済んで、それで良かったように思える。
 心無しかーー顔色が良くなった気のする後輩君の傍らで、無言の時間が流れた。
 時々、洞窟の奥から響いていた物音も、今は聴こえてこない。
 向こうでも何かしらの決着が付いたのかもしれなかったが、だから此処を動こうとかーーそんな気にはなれなかった。
 今も自分が後輩君の手を握っていた事に気付き、それには触れず、私は言う。
「テツヲの奴……遅いわね
大丈夫かしら……?」
「、、テツ先輩は負けません
、、必ず勝ちます」
 そう断言する後輩女子の眼帯ヤンキーに対する信頼は、一切の揺らぎが無いように見えた。
 私もそれを、あまり疑ってはいない。
 想像しにくい、といった方が正確だったが、今はーー後輩君の容体が良くなる事を願うのみだ。
 私はそれから暫くの間ーー彼の手を離さなかった。



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