ダーク・ファンタジー小説

Re: 魔女先輩は転移後即日死した後輩君を甦らせたい!? ( No.4 )
日時: 2023/03/23 17:06
名前: 天麩羅 (ID: F69kHN5O)

プロローグ〜〜序幕、3話ーー副題(未定)



 後輩女子が、キリッと目線を上げる。
「、、良いですか?
そもそも戦隊ものは5色と相場が決まっているのに8色とは、あまりに人数が多過ぎます
ただでさえ色の格差が酷いシリーズもあるのに8色ですよ!?
白、黒はまだ分かりますが何ですか?茶色って、、?
他のカラーが八幡イエローだ八幡レッドだ名乗るのに、茶色だけ八幡茶色ですよ!?そのまんま茶色!舐めてやがりますよね!?
名乗りに統一感がありませんし、ファンの間では未だに茶色の相応しい名乗りを語るスレが某掲示板で建つ程です
、、知っていますか?
八幡茶色の名乗り案がその後、どういった経過を辿ったのかを、、」
 言葉数の多さに、周囲は無言だった。
 なんだかこの娘、少し怖くないーー?
 怒りの圧を放っていたテツヲも黙り込み、無言で沙梨亜ちゃんの発言を促している。
「、、さすがのテツ先輩でも知らないみたいですね
八幡茶色の名乗り案はその後、10年近くに渡って掲示板を紛糾させました
八幡ゴボウだ八幡コーラだ八幡シロップだと様々な案が生まれては消え、消えてはまた生まれました、、」
 聴き手を引き付ける才能でもあるのか、私達は彼女の声に聞き入っていた。
 何か思うところでもあるのか、物憂げに沙梨亜ちゃんは続ける。
「、、実を言うとわたしも某掲示板に書き込み、どうにかならないかと議論に加わったんです
、、ですが、結局力は及びませんでした、、」
「沙梨亜、おめェ、、」
 彼女の心情に触れたのだろう。
 ここまで詳しいのだから、生半可なファンではない。
 テツヲは済まなそうな顔をし、そっと顔を背けた。
 それに気付いてか気付かずにか、後輩女子は小さく呟く。
「、、八幡う〇こ
、、う〇こですよ!?う〇こ!分かります!?
どうにか掲示板の流れを変えようとしたわたしはその後も渾身の名乗り案、、
、、八幡アースを提唱し続けたんです!
でも、それでも時勢の流れは変えられませんでした、、
一度スレ民の頭にこびり付いた印象は変えようが無かったんですよ!?
八幡う〇こ、、最悪です、、」
 そう言って、彼女は膝から崩れ落ちた。
 何この茶番ーー。
 そう思ってはいけない。
 これが彼女達のオタク道であり、推しに対する一途な想いなのだからーー。
 頽れた沙梨亜ちゃんの肩に、テツヲはそっと手を置く。
「茶色は悪かねェ、、
一番悪ィのは半端な構想で見切り発車した制作スタッフだ、、」
「、、テツ先輩、うぅ、、」
 涙目の後輩女子に寄り添ったのは、眼帯ヤンキーだけでは無い。
 後輩君も二人の雰囲気を憚ってか邪魔しないようにーー。
 しかしながら、ボソリと零す。
「八幡アースか
なんか、良いですね」
「アア、最高だ、、
八幡アース、、
、、他の誰に呼ばれなくても、オレらだけはその名で呼び続けてやるんだ
八幡アース、、!
、、良いじゃねェかァ!?チクショウ、、」
 迂闊に近寄れる雰囲気では無かった。
 そこに易々と入っていった後輩君の対人スキルの高さに私は驚きながらも、そろそろかそろそろかと様子を窺う。
 もう一度言うが、決して茶番と言ってはいけない。
 たとえチャイムの音がもうすぐそこまで迫っていても、今この瞬間は此処でしか味わえないのだからーー。
 キーンコーンカーンコーンーー。
 生徒達を急かす音に、いつもならイラッとするが救われた思いだった。
 私は今になってーー時間に気付いたように言う。
「あら……もうこんな時間ね」
「はい、そうですね
行きましょうか、リン先輩」
 ナイト君が応じてくれたのにホッとしつつ、後ろを振り返る。
 既に謎のオタク結界は解かれ、元の空気に戻りつつあった。
 少し気まずそうにしながらも、沙梨亜ちゃんが口を開く。
「テツ先輩も天ヶ嶺君も、それから、、
、、リン先輩もありがとーです」
「え……?ええ、ど……どういたしまして?
それじゃまたあとでね?」
 何故かお礼を言われた。



 放課後ーー。
 最後の打ち合わせだ。
 結局、お昼は顔を出さなかったひよ子も居る。
「いや〜、昼間はごめんね〜?
私もちょっと思うところがあってね〜?
、、色々と考えてたんだ」
「そう……。
みんなにとっては最後だものね?
それとも、やっぱり気が変わったって言うなら……止める?」
 勿論、私は一人でも行くつもりだった。
 みんなが付いて来ないというなら、それは仕方無い。
 誰しもが生まれ育った世界を憎みながらも、心の何処かで常に想っている。
 私はそれをこの世界に生まれて感じたし、彼らだって私が想うようにこの世界を想っているのだろう。
 愛憎半ばにしながらも、常に意識のひとつ後ろ側に在るーー。
 生まれ故郷の世界とは私にとって、そういうものだった。
 彼らの気が変わったのならーー。
 そう問い掛けた私に、後輩君は首を振る。
「おれは行きますよ!
異世界へ行ってそれで、それで、、
、、とにかく行きますよ!」
 何か色々と野心が見えそうな気もする彼だが、それだって一緒に来てくれるなら嬉しい。
 テツヲも沙梨亜ちゃんも、後輩君の言に続く。
「愚問だなァ?真島ァ
、、オレの器はこんな狭い世界にゃ収まり切らねェ!」
「、、当然です
昼間はお陰様で吹っ切れましたからね
覚悟するがいーです!?異世界!」
 何をーー?
 とは、聞かなくても良い事だろう。
 女の子には、生まれ変わる瞬間が必ずある。
 彼女もどうやらそれを迎えたようで、後ろでそれを見守るのが年長者たる私の務めなのかもしれない。
 そして、最後の一人ーー。
 茶髪に金のアクセント部分を指先で弄っていたひよ子は、意を決したように口を開く。
「私はね〜?うん、、
、、みんなには悪いんだけど、こればっかりはね〜?
行けないかな〜、やっぱり、、」
 そう言い、申し訳無さそうに両手を合わせる。
「みんなごめん!
今はまだ、、」
「あれ?どうしてですか、、?ヒョコ先輩」
 一瞬呆気に取られていた後輩君が声を掛けた。
 普段は何かとひよ子を邪険に扱っている後輩女子も、同様の表情だ。
 彼女と同じ二学年の私とテツヲは、後輩達と違って然程驚いてはいない。
 ひよ子は少し申し訳無さそうにし、普段のおふざけは微塵も感じられなかった。
 髪を弄るのを止め、後輩君の問いに彼女は答える。
「考えたんだよね、異世界、、
、、私も行きたい
でも、それは今じゃない」
 オヤジ女子は今、普通の女子の顔に戻っていた。
 普段の彼女は私及び、他にも多数の女の子との触れ合いを求めるーーある意味危険思想の持ち主で、だからこそ〈気狂い女帝〉とも呼ばれていたのだが、それをここで前面に出してはこない。
 以前から、エルフにケモ耳と触れ合いたいという邪な願望を持ってはいたけれどもーー。
 そうした欲望を殴り捨て、彼女は言う。
「この喚術陣は確かに異世界に繋がってる可能性はあるし、繋がってる可能性を立証する為には、飛び込んでみるしかない、、
、、だったね?リン?」
「ええ……その通りなのだわ?
この喚術陣は先月のウルトラ仮面フィギュアが戻って来なかった時の術陣に、更に座標の検知に質量基準を設けた他、自動翻訳や人体の環境適応等様々な術式を組み込んだものなのよ?
だから……以前と比べあらゆるケースを想定したこれ以上無いぐらいの喚術陣である事は間違いないのだわ!」
 力説した。
 研究の過程を頷いたひよ子は分かっているし、他のみんなも何となくなりに理解はしている。
 その上で、彼女は言う。
「でも、絶対じゃない
、、絶対安全に目当ての異世界へ辿り着けるかは分からないし、私達が想定してないケースがあればそこで終了
、、そうだね?リン」
「ええ、その通り……。
……だからこその、最後確認ね?」
 私は再びみんなの顔を見渡すが、意思は変わらないらしい。
 行かないと言ったひよ子も、前言を翻す気は無さそうだった。
「……それじゃ、今夜決行よ!
今夜、満月の満ちる時間に……私達は異世界へ行くのだわ!」
 みんなが頷いたのを確認する。
 そして、少々寂しげなひよ子の顔を見た。
「……最後になるわね?ひよ子」
「うん、見送りには行くよ
、、最後にた〜っぷり堪能しないとね〜?うへへ〜」
 伸びてきた魔の手を私はピシャリとやった。



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